鬼ずかんep3『ゴミじゃない』
(まただ…無い。)
さわやかな朝だった。
天気だけはよかった。
新学期から数日。
真和への嫌がらせ、いじめは
小学校から引き継がれていた。
犯人は数人だろう。
だいたい見当はついていた。
定期的に上履きがなくなる。
小学校から、
もう何度目だろう。
そして、捨てられるんだ…
真和の顔は真っ赤になっていた。
今にも泣きそうだった。
仕方がないので校舎裏の焼却炉に向かう。
少しゴミをあさる。
…
…あった。
あるよね、そりゃ…
らくがきされたあたしの上履き。
捨てられた、可哀想な上履き。
「ひど…」
モノにもオーラがある。
真和には見える。
もう、すっかり嫌な想念で覆われていて
拾う気にもならない。
(もういいや…
帰ろう…
学校なんかきたくない。
小学校も中学校も同じじゃない。
なにこれ…
中学にきてまてこれじゃあね…)
くるっと学校に背を向け
すたすたと門を出ていく。
(これがあたしの運命なんだろうな…)
同じ制服を着た子たちと
たくさんすれ違う。
みんなの逆方向を歩く真和を
じろじろと、チラチラと、
たくさんの生徒たちに見られてるのをよそに
家路に向かう。
「バカみたい
みんなバカみたい!」
わざと大きな声で言ってみる。
(変な人と思われたっていい。)
学校から家まで歩いて20分ほど。
ずっとブツブツ文句を言いながら歩く。
今日はゴミの日らしく、ところどころに
ゴミが置かれている。
しばらく行くと木馬のおもちゃが捨てられていた。
思わずハッと立ち止まる。
おもちゃのそばには小さな男の子がうずくまっている。
じっと。じっと。おもちゃのそばを動かない。
(ああ…。この子はもう…。)
「見えるの?」
後ろから声がした。
驚いて振り向くと
同じ制服の男子が立っていた。
「話しかけちゃだめだよ、つらいけど」
「わかってる…けど、きみ誰?」
「あ、羽柴地央です。1年生。」
「あたしも1年生…山善真和」
「わかるの?見えるの?」
「まあね、あのさ、話してるのも悪くないけど
今日は気分悪いから帰る。じゃあね」
「え?え?」
戸惑う地央に振り向きもせずすたすたと去っていく。
「待って待って!山善さん、何組?」
「桜!」
言い捨てて去っていった。
(なんて潔い女子なんだ…。桜だったら隣の組だから、また会えるかな?)
「あー!遅刻する!」
地央は走って学校へ向かっていった。
と、真和がちょっと振り返る。
(この学校に見える子がいるんだ…
羽柴地央っていってた。。二度と学校行かないと思ったけど、明日会いに行こうかな)
「でもゆううつ…上履き無いし」
真和の家庭は比較的裕福で、両親とも温和であり、良き理解者である。
ただ、両親は真和が『見える』のを『心の病気』だと思っているため、真和はしぶしぶ通院している。(学校をサボるためもある)
(さっきの男の子。
おもちゃのそばでうずくまっていた男の子。
もうこの世の人じゃない。
捨てられたおもちゃのそばとか、よくさまよっている子供をみかけるけど…
遊んでほしくて。寂しくて。
だけど話しかけちゃいけない。
とんでもないことになるし、第一、見てる方もとてつもなく悲しくなる。
これが本当にただの気のせいとか錯覚だったらどんなに楽だろう。
いや、錯覚なのかな?あたしが本気でおかしいのかな?
こんなにもはっきりと見えてるのに…。
さっきの羽柴って子に相談してみようかな)
「学校…あー、やだ!とりあえず上履き買って家帰る!」
少し学校に行く気になったみたいだ。
真和は小さな頃から『見える』ため、幼さから発言が学校のお友達とは違っていた。
とかく団体になると『同じでないもの』に対する偏見が多かれ少なかれ出てくるもので
彼女は小学校からだんだん標的にされてくことが増えていき、やがていじめに変わっていった。
すらっとした体型にまでケチがつく。
学校という小さな小さな社会は残酷だ。
【続】