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滞納女性居住者の背景(その1)

 昨日、我が家の大家業1棟目で起きた滞納居住者の話をしました。

 その中のお一人で、私が大学生の頃まで住んでいらっしゃった女性のお話は、その後も私の記憶にずっと残り続けました。


 その女性は容姿端麗な清潔感のあるロングヘア―の女性で、学生の私から見ても、さぞかし会社でもモテる女性なんだろうなという華やかな雰囲気の美しい女性。


自分も、社会人になったら、こんなオトナの女性になりたいなというようなイメージと合致するような凛とした方だったと記憶しています。


 私の家の1棟目の不動産は、通勤に便利な東京の駅近物件のため、主に社会人向けの1Kの物件で、契約上も単身者限定の入居となっています。


 ところがある日、彼女の周囲の部屋から「深夜赤ちゃんが泣き続ける声がする。」という苦情が複数入るようになりました。そして、その女性には前月の賃料から滞納しているという問題も…。


 不動産屋さんを通して改めて「苦情」についてお伝えすると、滞納の状況を確認して貰っていた段階では分からなかった話が、新たに出てきました。彼女はここまでの期間に、妊娠・出産・失業していたのでした。


 私はまだ学生ではありましたが、彼女の置かれた深刻な状況について、同じ女性としてとても他人事には思えない気持ちでおり、大家である私の父親がその状況に対して、どのような判断をするのか、固唾をのんで見守っていました。


■大家・父の下した判断

 結局のところ、私の父は、保証人として契約書に名前が載っていた九州の彼女の親に自ら連絡を入れ、彼女の深刻な状況を説明し、母子を何とか実家へ帰れる状況にしてあげて欲しいという交渉をしたのでした。


 そして、滞納分については免除するからという事で、彼女には部屋を明け渡して貰い、後から聞いた話では父は敷金2ヶ月分を滞納分と相殺することなくそのまま彼女へ返還したそうです。


実家へちゃんと帰れるように、生まれてきた赤ちゃんをちゃんと守るという気持ちを放棄しないで済むようにね、という事でした。



 現在の殺伐とした日本社会で、ここまで大家が介入してやることが、やり方としてベストかどうかは私には分かりませんが、私は父親のそうしたお節介なやり方が好きでした。


父としては、正当な方法で権利主張をして取れるものをすべて奪った挙句に、「出ていけ」とすることもできたでしょうが、そうしたやり方で乳飲み子を抱えた女性をただ追い出すことは、

たとえ出来たとしても、自分の生き方としてはいい方法ではないという事だったのだろうと思います。


 また、私も離婚して子供を連れて苦渋の判断で実家に出戻った立場なので感じることなのですが、


やはり実の親だからこそ様々な感情から「とても言えない」「顔向けできない」と思ってひとりで抱えこみ、

結果、最悪な状況となるというのは、私の前後の世代では「頻繁に見かける感性」のような気がします。(私自身もそういう傾向にある気がしています…。)


「人に迷惑をかけないで生きる。」
「自分のことは自分で。」


 合言葉のようにこうした考えを刷り込まれて育った子供たちは「たすけて」がなかなか言えない大人になりました。また、取り囲む社会もそういう雰囲気をよしとする世界になっていた気がします。


 けれども、親子関係を含め、無理のない範囲でみんなが余っているものを分かち合うだけで、お互いもっと幸せになるし、豊かに安らいだ気持ちで生きていける世界というのは出来るんじゃないかなと感じます。それが、社会をしなやかで強固な構造にもすることにも繋がるのではないかと。


 先ほどの女性の話の続きですが、
そこから、5年とか6年という時間が経過した後、手紙や連絡など何もないまま、彼女の名前で当時の滞納金額が突然振り込まれていたそうです。


とても言葉には言い表せない感情が、彼女の振込履歴には乗せられていたでしょうし、父もそれをちゃんと受け取ったようでした。


大家業には
そんな何とも言えない味わいある報酬もまた、ある気がします。










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