「おもんない人」の失言

(ファジの試合から実家に帰る電車でこのnoteを書いています)

今日の試合後、いつものようにスタジアムの外でサポーター仲間とワイワイ話していると、別のサポーター仲間の一人が怒り心頭で僕達のところに来た。

話を聞くと、どうやらその人の席の近くにいた観客が終始ファジアーノの選手たちの体格や外見を揶揄するような発言を繰り返していたとのことである。

2点差を追いかける展開だっただけに、不満から暴言を吐いているのかと思って聞いていたが、どうやらそうでもないらしい。

彼は「うまいこと言ってやった」感を出していたそうだ。

揶揄発言のたびに一緒にいた友人と思しき人の様子を伺いながら何度も同じフレーズを繰り返していたそうだ。

「その人、『天丼』のつもりなんですかねぇ」と僕は答えた。

『天丼』とは、お笑い用語で「一つのネタやギャグを繰り返すことで、繰り返し笑いを生む」というものである。

一番わかり易い例をあげるなら、2020年のM-1チャンピオンであるミルクボーイの漫才であろう。

彼らは「オカンが言うには◯◯らしいで」「ほな△△やないかい!」というやり取りをネタの中で何度も変化させながら行うことで畳み掛けるように笑いを作り出すスタイルが得意である。

ただし、「天丼」は万能ではない。最初にウケなかった場合は2度目3度目もウケないどころか、「また同じやりとりかよ」とシラケさせてしまう可能性も孕んでいる。

サポ仲間が遭遇した観客は、おそらく「ウケる」と思って揶揄する発言を繰り返したのだが、令和の今はそういう発言を面白いと持て囃される時代ではない。

試合中ずっとスベり続けて、周りに不愉快な想いをさせて、おそらく一緒にいた友人にもそういう想いをさせていたに違いない。

最近はめっきり見る機会も減ったのだけど、地上波の報道を見ていたら定期的に政治家の「失言」の話題が騒がれることが多い。

そういう報道において、コメンテーターやら『街の声』(という名目でその局や番組のスタンスに合ったコメントを抽出したもの)による「どうしてこんな事を言ってしまうのか理解出来ないですね」といったコメントが添えられることが多い。

正味な話、そういう問題発言をしている時点でその本人の認識と今の時代での許容ラインに何らかの齟齬が生じているのは疑いがない。

では、なぜそのような発言が行われてしまうのだろうか。

僕が思うに、そういう人たちは「ウケる」と思って発言しているからだろうと思う。

たいていの場合、「問題発言」が行われたその瞬間は(報道される映像を見る限りでは)場は笑いに包まれていることが多い。

政治家であったり大企業の役席者はそういった「みんな笑ってくれる」場で話す経験のほうが圧倒的に多い。

おそらくそういった場数をこなした中で、「自分が言ったらみんな笑ってくれる」「これはきっと自分にはユーモアのセンスがあるからに違いない」と誤認してしまうからであろう。

だからこそ、「今日も『うまいこと』を言ってみんなを笑わせてやるか」と考えたことで「問題発言」や「失言」が生まれているのだと僕は思っている。


僕には、中学生の頃から現在に至るまで毎週欠かさず聞いているラジオ番組がある。

その番組は数年前、存続の危機に陥った。パーソナリティーの「失言」を取り上げたネット記事を見た評論家が(番組を聴かずして)彼を批難する声明をTwitter上で行ったのがきっかけとなり、一般メディアでも取り上げられる大問題となったのである。

ちなみにその放送回は自分はリアルタイムではなくタイムフリーで聴いていた。経緯としてはリスナーからの(エロ)相談にパーソナリティーが答えるコーナーで寄せられた(エロ)相談への解答であった。

このパーソナリティーは地上波のレギュラー番組を何本も持っており、「今わざわざ深夜ラジオを続けなくてもいのでは?」という声があるなか、ファンとの大事な接点となる番組として長年大事にしてきたという経緯がある。回答内容に問題はあったとはいえ、当該発言は(当時の)彼の価値観において真摯に考えた上での回答であったといちヘビーリスナーとしては感じていた。(自分が聞いた感想としては、「あー…言われてみればたしかにそうなる可能性もあるよな…」と全く知識のない分野への学びとして吸収していた)

この問題に対して翌週、謝罪放送回として冒頭からパーソナリティーがお詫びをする中、途中からスタジオに乱入してきた相方によってパーソナリティーの考え方や人間性を徹底的に批判するという流れとなった。

これをきっかけに彼も心境が変わったらしく、コンビの不仲も解消されラジオは現在も続く長寿番組となっている。

冒頭に挙げた「選手を揶揄する観客」の彼には、おそらくこれまで自分のことを全力で批判してまで止めようとしてくれる人がいなかったのではないかと思う。

ありがたいことにと言っていいのかわからないが、僕がスタンドで観戦しているとき、相手のプレーや主審のジャッジでイライラして大きな声を出した際にはサポ仲間の一人に「うるさい!!!」と怒鳴られることがある。そのおかげで冷静さを取り戻せることが多い。

Twitter(現:X)において時々言われるのが「悪口は自分が言われた内容の投影」というものである。普段から暴言を吐かれている人ほど、自分が言える立場になった場合は暴言を吐く例が多い、という言説である。

「野次るな」とは言えない。だが、他人を揶揄するような発言は許されない時代となっていることを皆自覚すべきであろう。


と、書いている現在は無事に帰宅しております。

次は勝とう!!ソロモン、次はゴール決めまくってくれ!


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