サガン鳥栖のユースチーム育成事業応援ファンドについて色々と考えてみた。
皆様、ご無沙汰しております。Twitterではいつもと同じくわいわい楽しんでいますがnoteは久々の更新となりました。
更新をサボっている間に世界中が新型コロナウイルス感染症でてんやわんやとなり、サッカー界にもその影が及んだ2020年となりました。日本は感染者数や死亡者数などを他の国と比べたら「まだマシな状況」と言えるかもしれませんが、確約Jリーグクラブにおいてはかなり厳しい状況となるクラブが増えることが予測されています。
そんな中、昨日このようなリリースがありました。
http://www.sagan-tosu.net/news/p/5188/
この度、株式会社サガン・ドリームス(佐賀県鳥栖市、以下「サガン・ドリームス」)とミュージックセキュリティーズ株式会社(東京都千代田区、以下「MS社」)は、サガン・ドリームスが運営するプロサッカークラブ、サガン鳥栖の選手育成を目的としたファンドの募集を開始しますのでお知らせいたします。
昨年末、U-18、U-15ともに日本一となったユースチーム向けの育成事業応援ファンドがいよいよスタートします。
MS社は、これまでインパクト投資(※1)のプラットフォーム「セキュリテ」で、約900本のファンドを組成してきました。経済的リターンに加えて社会的リターンを追求するこの仕組みを使って、日本で初めて(※2)、投資型クラウドファンディングでJ1クラブ及びプロサッカークラブの育成事業の資金調達を支援するものです。
自分も、応援しているファジアーノ岡山のアカデミーに強い関心を持っているタイプのサポーターです。このリリースを受けて同じようなファジのユースウォッチャーさんたちからも「(ファジでやるとしたら)自分も投資してみたい」「平常時でも何か応援できるシステムがほしい」という声が挙がっていました。今回はこのファンドについて自分なりに考えてみたいと思います。
■背景
背景を考えるにあたり、まずはサガン鳥栖というクラブが置かれている状況に目を向けてみたいと思います。
・約20億円の赤字をどう乗り越えるか
https://www.football-zone.net/archives/285285
Jリーグは28日、2021年シーズンのJリーグクラブライセンスについての決定を発表し、オンラインで説明会を実施した。J1クラブライセンスは44クラブに、J2クラブライセンスは8クラブに交付された。そのなかで、昨季20億1000万円の赤字(当時純損失)を計上したサガン鳥栖は、全クラブの中で唯一「是正通達」された。
https://www.sagan-tosu.net/news/p/4595/
コロナ禍に見舞われる前年、サガン鳥栖は額にして20億余の赤字を計上しました。詳しい背景について、自分はあくまでも他クラブのサポーターなので知る術はありません。ただ、決算資料を見た限りでは広告収入が前年の22億9千万円から8億1千万円と大きく減少しており、これが主に大きく影響したものと思われます。
このように、サガン鳥栖にとって2020年に「財務面においての改善が問われるシーズン」となるはずでした。そんな状況においての新型コロナウイルスの猛威は想定外としか言いようがなかったと思われます。
・降格枠4クラブの乱戦を乗り越える必要性
新型コロナウイルスの感染拡大及び日本国内での緊急事態宣言の発令により、2020年のシーズンは開幕戦を終えた時点でおよそ3ヶ月半の中断を余儀なくされました。その影響から2020年の降格枠を0とする代わりに2021年シーズンの降格枠が4となることが決まりました。
昨シーズンのサガン鳥栖の順位は18クラブ中13位でした。20クラブ中16位に入れば残留出来るとはいえ、油断できない順位とも言えます。
こういった乱戦を乗り越えるためには、たとえ財務面の改善が求められるとはいえども、「強化費を大幅に減らして財務基盤の改善に務める」と言えないのがJリーグクラブ運営の難しいところです。
多くのJリーグクラブは1月末が決算月ですので、2020年度の決算が発表されるのは今年の春頃になります。どのような決算となるのか、見守りたいと思います。
・アカデミーの運転資金の確保を狙う
「財務改善が急務、とはいえ強化費も減らせない」という状況と言えども、「じゃあアカデミーの運営費を削ります」とも言えないこともクラブ運営の難しさだと思います。そういった経緯を踏まえ、本件ファンドの募集情報に目を向けてみましょう。
https://www.securite.jp/fund/detail/6659#headingBenefits
総額約1億円を募集し、業務委託費を差し引いた差額はアカデミー事業の運転資金に使うことが目的とされています。先述の決算資料を見たところ、アカデミー人件費+運営費が例年およそ1.2億〜1.5億ほど、3年で約4億ほどかかっているようです(他にもアカデミー運営においての支出が別項目に入っているかもしれませんが…)。本件ファンドは、この資金の一部をファンドの力を借りて確保するものだと言えるでしょう。これによって先述の「財務改善しつつトップチーム強化費を確保する」という課題の達成にも近づけるのではないでしょうか。
■一般的なクラウドファンディングとの違い
このリリースを見た人の中には「よくあるクラウドファンディングとはどう違うの?」という疑問を抱かれた人も多いかと思われます。
・一般的に見かけるクラファンとはどんなものか
一般的に見かけるクラウドファンディングは「購入型クラウドファンディング」と言われるものです。よくある例だと「新しい商品を開発するための資金を集めたい」という目的で募集し、集まったお金を元手に商品を開発して出資者に後日「リターン」として提供する形になります。
https://camp-fire.jp/projects/view/198728
また、「情勢により経営が困難になった事業へのサポート」という目的の募集例も多く、特にコロナ禍においては様々なスポーツクラブによるクラウドファンディングも実施されました。こういった場合はオリジナルグッズや選手のユニフォームなどファンやサポーターにとって魅力的な「リターン」が用意されています。
https://camp-fire.jp/projects/view/328555
・サガン鳥栖が行う金融型クラウドファンディング
今回、サガン鳥栖が行うプロジェクトは「金融型クラウドファンディング」というものです。金融型クラウドファンディングを分類すると「ファンド型」「融資型」「株式型」に別れますが、そのうちの「ファンド型」に該当します。(他の2つについて気になる方はお手持ちの端末でお調べください)
ファンド型クラウドファンディングも「特定のプロジェクトにへの出資を募る」点では共通していますが、大きな違いは「プロジェクトにて発生した収益金を出資者は『リターン』として受け取ることが出来る」という点です。
再度、ファンド紹介に目を向けるとこのような項目があります。
※ここにある「リクープ」とは「元手を取り返す」という意味で、日本語で言う「損益分岐点」と捉えてください
こういった計算式のもと、アカデミーから得た収益を出資者に分配されるシステムです。言い換えるなら「プロジェクトの結果得た利益の一部を受け取ることが出来る」ということになります。
このように、最近よく見かけるクラウドファンディングとは少し異なるということがイメージ出来るのではないでしょうか。
では、このファンドでのメリットやデメリットを考えてみたいと思います。
■このファンドで資金を集めるメリットとは
・出資者へのリターンが出資額を上回る可能性がある
先に述べたファンド型クラウドファンディングの特徴でもありますが、出資者が得られるリターンは「収益の分配」であるため、プロジェクトが成功に終われば出資額を上回る分配も期待できます。
・金融機関からの融資や出資が難しい状況でも資金調達ができる
サガン鳥栖の状況を加味したら、クラブにとってはこの点が一番大きいと言えるのではないでしょうか。多額の赤字を抱え、財務改善が急務とされている状況において、金融機関は融資を渋る可能性が高いと思われます。そういった中でも、サポーターやスポンサー企業から一口1万円から出資を募ることが出来る、という点は非常に心強い点になると思います。
・集めた額の大半をプロジェクトの運転資金として投じることができる
購入型クラウドファンディングの起案者におけるデメリットになるのですが、「リターンの送付やサービスの提供によるコストが発生する」点が挙げられます。場合によっては、「集まった資金の一部をリターン商品の製造のために使う」ことになり、集まった資金を有効活用できなくなる可能性があります。一方、ファンド型の場合のリターンは「数年間運営した後に生じる利益分配」なので集まった資金(から手数料を差し引いたもの)をそのままプロジェクトの運営に充てることができます。
■このファンドのデメリット
・最大のデメリット=リターンの元本割れの可能性
クラウドファンディングの特徴やメリットでも述べましたが、このクラウドファンディングは「収益の分配」をリターンとしているため、例えばコロナ禍の長期化などによりプロジェクトの運営が万が一想定通りに行かなかった場合は、想定通りの収益が得られない可能性があります。
(とはいえ、Jクラブのサポーターは利益を求めるよりも「愛するクラブの力となりたい」という考えが大きいため、そこまでデメリットとならないかもしれませんが)(ましてユースウォッチャーさんは「親」目線の人が多いからなおさら)
・資金が思うように集まらなかった場合、クラブの運営を左右する恐れもある
アカデミーの運営費の一部を本件ファンドで確保する、という内容は先に述べました。予定通り1億円の資金が集まればいいのですが、万が一想定通りの資金が集まらなかった場合、「クラブの予算確保のためにどこを削るのか」という課題に直面する可能性があります。本件ファンドの不足分をそのままアカデミー運営費から減らすとしても、強化費やその他運営費を減らすとしてもクラブの運営においてかなり大きな決断を強いられることになるでしょう。
■おわりに
本件ファンドは日本のサッカークラブで初の試みであり、注目も集めています。
コロナ禍は各クラブの経営に大きな痛手となったことから、今シーズン以降の資金確保はどのクラブにとっても頭の痛い問題になると思います。自分たちのクラブを未来に残すために、目先の試合結果だけではなく「クラブはどういった人たちに支えられているのか」について改めて目を向けるきっかけとなったのではないでしょうか。
そういった状況下において各クラブが打ち出す施策にクラブごとの特色が見えているように感じました。
いちサポーターとして、クラブのために何ができるんだろうか、と考えつつもまずは今年のシーズンを楽しんでいきたいと思います。
今回、他所のクラブのお話について長々と書きました。色々と失礼な内容もあったかと思われますが、ご意見ご感想などございましたらお気軽にお申し付けいただけると幸いです。
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