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空き家のあれこれ 活用編「民泊」Vol.3 「旅館業法による民泊」

 前回のVOL.2では「民泊新法による民泊」を利用した空き家の活用方法を説明しました。今回のVOL.3では、同じ民泊でも「旅館業法による民泊」の事を書いていこうと思います。


旅館業法とは

 法律としては昭和23年に制定された古い法律です。
旅館業法は、旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もって公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的に定められたそうです。

 この法律では旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、「宿泊」とは「寝具を使用して施設を利用すること」とされています。この旅館業を経営する場合は、旅館業法に基づく営業許可を得なければならないこととなっています。

 本来であれば住宅を利用する場合であっても、有償で繰り返し宿泊所として提供する「民泊サービス」を行うことは基本的に旅館業にあたるため、旅館業法に基づく許可を得ることが必要となります。
 VOL.2で説明した民泊新法は、民泊需要が増加した際に、旅館業の営業許可をとらず安全面衛生面がなされていない民泊が増えたため、一定のルールを定め民泊サービスの普及をはかるために新たに法律として制定されました。
 旅館業法に基づいた民泊は、民泊新法による民泊と営業形態が変わってきますので説明していこうと思います。


「旅館業法による民泊」ってなんぞ?

「宿泊料を受けて」「人を宿泊させる」「営業」にあたる場合は、旅館業登録が必要になります。
自宅の空き室に、たまに泊まりに来る友人・知人からお礼としてお金をもらっていた場合は旅館業登録は必要ありません。ですが、空き部屋があると宣伝し、不特定多数の人を宿泊させ、繰り返し宿泊料としてもらっている場合は業としてみなされるので旅館業の登録が必要になります。

旅行業法では旅館業を3つの形態に分けています。
以下の3つに当てはまらないものは旅館業として認められていません。

旅館・ホテル営業
・ホテル営業の場合、一室9㎡以上の部屋を10室以上
・旅館営業の場合、一室7㎡以上の部屋を5部屋以上
・フロントの設置義務が必要

簡易宿所営業
・5部屋に満たない客室
・2段ベッドを設置している
・一人あたり3.3㎡以上の床面積の確保

下宿営業
・1ヶ月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業

 3つの営業形態があり、それぞれに許可をうける条件がかわってきます。
「旅館業法による民泊」として空き家を活用する場合は、簡易宿所としての営業が一般的だと思います。空き家をホテル・旅館としての活用は、部屋数もそうですがフロントの設置義務も必要なうえ、設備投資も多く必要なので許可を得るのが大変です。


「旅館業法による民泊」のメリット・デメリット

メリット
・宿泊日数の制限がない
「民泊新法による民泊の場合」は年間180日までという宿泊制限がありますが、「旅館業法による民泊の場合」は宿泊制限が無くなる為、通年営業することができます。

・営業許可が必要なため安心感を与えられる
営業許可を得る為には、様々な基準を満たす必要があるため宿泊者に安心感を与える事ができます。

・少ない初期投資で始められる
簡易宿泊所は、客室一人あたりの床面積が3.3㎡以上確保すれば、1つの部屋に複数人数を宿泊させられます。簡易宿泊所であれば、より少ない投資で多人数に対応できる宿泊施設の営業が可能です。

デメリット

・営業許可のハードルが高い
旅館業法に適応した多くの基準を満たす必要があります。

・住居専用地域、工業地域では営業ができない
民泊新法による民泊は基本的に立地制限はなく、どの地域であっても申請はだせます。ですが旅館業法を適応させる場合は住宅専用地域、工業地域では営業ができないので、空き家の立地次第では営業許可を得ることができません。

・地域によって独自の条例がある
例えば旅館業法上で換気、採光、照明、防湿及び清潔その他宿泊者の衛生に必要な措置を取らなければいけないのですが、基準は自治体が決めています。地域によって独自の条例があり、それにともなう設備投資が必要になってきます。

・立地が重要
多人数が泊まれる宿泊施設の為、立地が重要になってきます。駅などの公共交通機関の近くであったり、観光地の近くであったり需要が大事になってきます。アクセス状況が悪い場合は、駐車スペースの確保も必要です。


旅館業法による民泊(簡易宿所)運営の流れ

上記のチェックシートが、簡単にまとめた簡易宿所営業までの流れです。
ここからはシートを元に書いていきます。
まずは空き家を民泊に利用できるか確認してみましょう!

1.満たすべき構造設備の要件

まずは、所有している空き家が簡易宿所として活用できるか考えていきましょう。民泊新法とは違い、クリアする要件が多いです。

・立地条件
簡易宿所を営業する場合、住宅専用地域や工業地域で営業する事はできません。それと「民泊新法による民泊」とは違い、多人数が宿泊できるため、空き家の所在地が、需要のある場所にあるかも重要になってきます。

・客室の延床面積が33平米以上ある(※1)
旅館業法が緩和される前は33㎡以上の部屋が必要でした。旅館業法が緩和され10名未満の宿泊者を想定している場合は3.3m²に当該宿泊者の数を乗じて得た面積以上の部屋があれば大丈夫です。3.3㎡は2畳分の大きさなので6畳間であれば、1~3名まで宿泊できる事になります。

・2段ベッドなどを設置する場合、上段と下段に1m以上の間隔がある
簡易宿所は、いわゆるゲストハウス、山小屋、カプセルホテルみたいに多人数が宿泊できる形態です。もし、2段ベッドを設置する際は天井の高さを考える必要があります。

・適当な換気や、採光および照明、防湿ならびに排水などの設備がある
・宿泊者の需要を満たせる規模の入浴設備がある※
近隣に銭湯などがあり、入浴に支障がないと認められる場合は除く
・宿泊者の需要を満たせる規模の洗面設備がある
・適当数のトイレがある
・都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合している など

上記の構造設備に関しては、自治体によってまちまちですので空き家所在地の保健所に相談してみることをお勧めします。もし、GHや山小屋等に泊まった事があるのであれば、自分の空き家で運営できそうかどうか想像しやすいとおもいます。そのうえで、ご自身の空き家を活用したいとなれば、まずは相談してみるのが一番の近道です。


2.関係各所への相談

空き家の構造や立地条件が合い、ゲストハウスや民泊として活用できる!と思ったら関係各所に相談にいきましょう。そのまま活用できる状況の建物は、過去に民宿や旅館を営業していた事のある空き家くらいです。各所に相談してみて営業するうえで何が足りないかを確認するべきです。

「用途関係」の確認
旅館業登録をする前に、旅館業を営業することが認められている構造の建物か、また営業が認められている土地にあるかを調べる必要があります。

・建築関連の確認
建築基準法及びその地域の条例の要件を満たしていて、申請が可能かを確認
・都市計画の確認
都市計画法及びその地域の条例の要件を満たしていて、申請が可能かを確認

各自治体ごとに担当部署の名前は変わってきますが、建築や都市計画など行っている部署は必ずありますので、相談にのってもらえるはずです。
ここで営業できる要件を満たしていなければ申請は出来ませんので、必ず申請前に確認をするようにして下さい。

「消防関係」の確認
民泊を始めるためには、旅館業法に基づく営業許可を取得するだけではなく、消防法令に基づく基準に適合しているかの確認が必要です。

旅館業をはじめるには、消防法令に適合していることを証明する「消防法令適合通知書」が必要になります。消防設備に関しては各自治体で細かい条件が異なりますので、管轄の消防局でどんな消防設備を揃えればいいか確認してみてください。

「構造設備」の確認
簡易宿所として民泊を営業するために、構造設備の要件をクリアしなくてはいけません。空き家を活用して営業するためには、設備の工事は必ず必要になってきます。

「用途関係」「消防関係」の確認をして後に営業できそうであれば、所轄の保健所へ相談にいきましょう。旅館業法の許可申請は保健所に出しますので、資料を持っていき構造設備の要件をクリアするためにアドバイスをもらいましょう。
相談する際に、家屋の状況、設備、立地等がわかる資料は用意しておいたほうが良いと思います。役場や消防署で得た情報、建物の状況がわかる平面図等の資料や図面などです。


3.設備の工事

各所で相談した情報をもとに、足りない設備があった場合工事が必要になってくると思います。工事を行う際も、しっかりと理解して施行してもらう事が大事ですので信用できる地元業者をみつけましょう。


4.旅館業許可申請書類の作成

 全ての要件で問題がなく準備が整ったところで書類の作成になります。自治体によって提出を求められる書類が異なると思います。
ここでは、糸魚川市内で旅館業申請書を出す場合に必要な書類を書いていきますので、参考程度にとらえてください

4-1 旅館営業許可申請書(第1号様式) [Wordファイル/26KB]
 図面相談の結果、施設基準に適合していると認められる場合は旅館業許可申請書がいただけます。
4-2 申請者情報 [Excelファイル/14KB]
  法人であれば、全ての役員氏名を記入
4-3 営業施設の所在地を中心とする半径100メートル以内の見取り図
4-4 営業施設の各階ごとの平面図
4-5 建築基準法第7条第5項又は第7条の2第5項の規定による検査済証の写し
  及び消防法令の適合通知書
4-6 申請者が法人の場合は、定款又は寄付行為の写し
4-7 飲料水として水道水以外の水を使用する場合、水質検査成績書の写し
4-8 手数料 22,000円分(窓口でのキャッシュレス決済)

自治体によっては必要になる書類もかわってきますので、所轄の保健所に相談する際に、しっかりと確認しておきましょう。


5.保健所に許可申請

これらの書類を保健所の担当窓口に提出します。
申請が受理されると、保健所から建築指導課や消防局、警察署、都道府県庁などの関係部署へ照会をします。

申請するにあたり満たすべき要件がありますので、下記に該当していないかチェックしてみてください。
1.成年被後見人または被保佐人
2.破産手続き開始の決定を受け、復権を得ていない
3.旅館業法違反などによる刑の執行などが終わって3年が経過していない
4.営業許可を取り消されたことがあり、取消日から起算して3年が経過していない
5.暴力団員でなくなった日から5年が経過していない
6.申請者が法人で、役員が上記1〜5のいずれかに該当する
7.未成年者の法定代理人が上記1〜5のいずれかに該当する

申請者が上記に当てはまる場合は、許可が下りないことがあります。
すべてクリアできているか事前に確認しておくことが大切です。

構造設備の基準や申請資格などを満たしていても、下記に該当する場合は許可が下りないことがあるので注意が必要です。
・施設の設置場所が、公衆衛生上不適当であると判断された場合
・消防法や建築基準法などの法令を遵守していないと判断された場合
・学校や児童福祉施設などからおおむね100mの区域内にあり、それら施設の清純な環境が害されるおそれがあると判断された場合
・該当不動産の用途地域がホテル旅館運営不可能な場合

・そのほか、自治体の条例を遵守していないと判断された場合


6.保健所の立ち入り検査

関係部署への照会が終わると、申請した内容と相違ないか保健所の調査員が現地調査をおこないます。改めて、空き家となっている物件が要件を満たしているか、消防設備が万全かどうかチェックされます。
この立ち入り検査の時には立会いが必要になります。


7.許可証の受領、営業開始

 許可を得て営業するのですから旅館業法に加え、建築基準法や消防法、風営法など、様々な法令を遵守する必要があります。多くの人が利用できる施設になるので、清潔な環境を提供できるよう営業しなくてはなりません。

営業するにあたって下記の事も忘れずにしておきましょう。
「防火対象物使用開始届出書」の提出
「防火対象物使用開始届出書」は民泊施設の利用を始めることを、所轄の消防署に伝える書類です。営業開始の7日前に提出する必要があるので忘れずに。
・周辺への周知活動
営業を開始する前に、民泊施設の周辺の方々に周知する事も必要です。不特定多数の方が利用しますし、住宅宿泊事業者(空き家の所有者)ですから管理責任がともなってきます。どういった利用をしていくのか近隣に周知して、理解していただく事が大事です。


あとがき

 空き家の活用方法として「旅館業法での民泊」の流れを書いてみました。
 空き家を所有している方の活用方法としては、「民泊新法の民泊」とは違い難しいと思います。「民泊新法の民泊」では、遠方にある空き家であっても住宅宿泊管理業者に頼んで管理してもらえますが、「旅館業法での民泊」では、現地に管理スタッフを置かなくてはいけません。

空き家を購入して、ゲストハウス等を開業したい方は良い物件を見つけたとしても、まずは土地の用途指定条件や建築基準法に違反してないか確認してみましょう。購入した場所が住宅専用地域や工業地域だったりした場合や、違法増築されているような物件だったら営業する事ができません。

地方には古民家や大きな家の空き家が多くあり、ロケーションの良い場所にある空き家は本当にもったいなぁと思います。糸魚川市も宿泊できる場所が少ないので、開業に興味を持った方はぜひお願いします!


前回は「民泊新法による民泊」を書きました。
空き家の活用方法としては、こちらの方が手を出しやすいと思います。

空き家に関係する事を、あれこれ書いたものをまとめているので、良ければご覧になってみてください。

糸魚川が気になったら、空き家バンクもチェックしてみてくださいね!