庭園蛙化
基本的に会社とかでは庭園好きの片鱗を見せない。
けっこう気を遣ってる。
例えば。
上司との会話の中で。
「こないだの休みは何してたの?」
と聞かれた時。
「東京国立博物館行ってました!今大覚寺展やってるんですけど、大覚寺は自分が毎年必ず訪れ
るほど好きな庭園で、それが東博で展覧会やるなんて俺得でしかないんですよ〜」
と、言うのをグッと我慢して。
「上野の方に行っていました!」
と言う。
他にも。
取引先の相手と
「出身どちらなんでしたっけ?」
という会話になった時。
相手が「横浜の金沢なんですよ」と言う。
それに対して真っ先に頭に浮かぶセリフはこう。
「あー!旧伊藤博文金沢別邸があるとこですよね!庭園から八景島シーパラダイスのジェットコースターが見えるんですよね!ジェットコースターが見える庭園って、ここと、あと、小石川後楽園くらいしか無いですよね〜。東京ドームシティのサンダードルフィンが見えるっていう笑」
もちろん、言葉にするわけはない。
「あっ、シーパラのとこですよね?こないだ彼女と行ってきました!」
と言う。
シンプルに。
やばいやつだと思われるから。
今思ったことだが、「旧伊藤博文金沢別邸」というこの長い名前もやばい。
「兼六園」とか「六義園」のようにさらっと言える庭園ならまだギリ許せる。
しかし。
「旧伊藤博文金沢別邸」をすらすら言うのはさすがにやばい。
急になんか話し出して相手は「え?え?」となる。
他に「旧芝離宮恩賜庭園」とかもやばい。
聞いてる方が「おお…」と身構えるからである。
そんな自分が庭園好きの片鱗を出してしまうケースがある。
ひとつは、シンプルに聞き上手な人と出くわした時。
「こう見えて意外と庭園とかが好きでして」
などと言ってしまう。
まんまと口を滑らせてしまう。
しかしここでもポイントがある。
「意外と」と言う。
相手が抱いている自分のイメージとギャップがあることをわかってますよ、と先に伝える。
「庭園とかが…」の「とか」もミソ。
クッション言葉。
よくわからないけど。
もうひとつ。
庭園好きを公言するケース。
それは。
相手が自分の趣味をひけらかしすぎている時。
芸術なのかスポーツなのかは知らないが、相手がこっちのペースを無視して暴走し始めた時。
空気が変わってきた時。
この場合はこちらも食い気味にひけらかす。
あえて攻めることでその場の空気を守る。
オフェンスディフェンス。
要するにバランスをとる。
相手がここまでひけらかしてくれたんだから、こっちも同じだけひけらかしますよ、というスタンス。
これは一種のマナーだと思っている。
これらはすべて。
庭園蛙化を防ぐための高等テクニックである。