ニコニコメドレーシリーズの構成単位を「楽曲」から拡張する試みと実践
クリスマス5日目——。(※1)
こんにちは、いえふです!
この記事は、ニコニコメドレーシリーズ Advent Calendar 2024に参加していません。えっーーーーーーーーー!😭。
しかしながら、傍目から見てたらちょっと書きたくなってきたので、前々から考えてたことを記事に書いて見てもらうにはよい機会だなと思い、せっかくだし書くか!と思い、新規にメドレーも作りながら書きました。ぜひ見て聴いてください!
前書き
ニコニコメドレーっていいですよね。
でも、作っているときにたびたび思うことがあります。
「使いたい部分はここだけど、頭とかお尻にいろいろくっついてきちゃうな……」
とか。
「アレンジが使っている楽曲に寄っちゃうな……」
とか。
そういう問題をなんとか打ち破るために、方法論から変えてみようという結論に至りました。
というわけで、その解決策のひとつとして思いついたのが、メドレーに使用する単位を「楽曲」から「モチーフ」というより抽象度の高い音楽的な概念に拡張する、ということです。
ただ、拡張といっても、視聴体験としては全く新しいものが聴ける!というものではありません。あくまで、ニコニコメドレーシリーズとして上げられているメドレーの中ではあんまり使用されているイメージのない方法だな〜と思い、考え方を紹介してみようというところです。
まあ正直メドレーは自由に作ればよくて、考え方なんか添え物だと思ってますが、ただ依拠する思想がなければあまり作られないかもしれない……と思い書きました。
長文になりますが、よろしくお願いします。
15000文字!??!
理論編
今からモチーフという概念を導入するために、ニコニコメドレーシリーズの現状だったりモチーフの説明だったりを長々と書きます。理論とはちょっとおこがましい気がしますが……。
御託はいいからどんなメドレー作ったんだよ!?という人は「実践編」くらいまで飛ばしてください。
また、前提となる音楽理論の知識は、理論編ではひとまずあまり必要ありません。音とかリズムという語彙くらい?粗を探しながらみてください。
ニコニコメドレーシリーズにおける楽曲の固定
ニコニコメドレーシリーズの作品でよく見られる構成単位は楽曲です。
ニコニコメドレーシリーズの作品では、楽曲は固定的に使用される場面が多いかと思われます。
ここで、ちょっとだけ使用する語彙に関する細々とした議論をします。
この記事では、固定とは楽曲の音の並び(休符や間なども含む)のまま使うことで、改変とは固定の対義語でメロディやリズム(あとで導入しますが、モチーフも)を変えることという意味で使っています。ちなみに、改変といっても、古典音楽理論〜ポピュラー音楽理論的に変形します。微分音とかは使いません。
また、メロディと旋律という語が混ざっていますが、どのように使い分けているか私にもあんまりわかっていません。というか、必ずしも使い分けていません。本来同じ意味ですしね。
ただ、大体ですが、メロディの方は、楽曲が持っているリズムや音程が確定した具体的な音の並びを指しているときに、旋律の方は、作曲技法など何らかの方法で自分たちでリズムや音程が確定させた音の並びを指しているときに使っている気がしています。まあでも、あまりあてにしないでください。
そして、音の並びは、メロディや旋律からもさらに抽象的になっていると考えてください。音の高い低い、リズムの遠い近いがかっちりと決まっていたり、部分的に決まっていたり、まだ決まっていなかったりするような感じの状態のときを音の並びと呼びます。
楽曲によって固定されることが何か悪いのか?という問いが生まれた方もいるかと思います。私は別に問題だとは思っていませんので、安心してくださいという言葉が正しいのか知りませんが安心してください。あくまでニコニコメドレーシリーズの作品の傾向の分析として聞いてくれたらと思います。
さて、固定的になりやすい理由はいくつかあると思いますが、ここでは5点あげたいと思います。
理由1: 繋ぎ
1つ目は繋ぎです。
ニコニコメドレーシリーズは繋ぎとともに歩んできたと言っても過言ではありません(繋がれている感のないメドレーに対して拒否反応を示していた方もいましたね)。そのため、繋ぎを魅せるために作られることも多々あるかと思われます。
繋ぎが上手いと思うタイミングの多くは、何らかの音楽的な共通点や類似点が表現できているときかと思います。例えば、メロディを共通部分で繋いだ共通音繋ぎです。
共通音繋ぎは、複数のメロディ同士がある箇所で一致しているのだという気付きや驚きがありますし、ひとつに繋げられたメロディが共通部分によって同時間内に多層化されるので、視聴体験としてコスパも良く、音楽全体としての流れを遮らないためによいものだと感じられるのだと思います。
共通音であることを視聴者に示すには、原曲通りのメロディで認識してもらう必要があるため、繋ぎを強く意識したメドレーにおいて奏でるべきメロディは、使用した楽曲そのままに固定化される、ということです(※2)。
要するに、ニコニコメドレーシリーズでは楽曲の生の性質から繋ぎの魅力を引き出しているはずなので、メロディを固定して使うことが自然である、ということですね。
理由2: 使用時間
2つ目は、メドレーにおける楽曲ひとつの使用時間です。
ニコニコメドレーシリーズにおいては、一曲の時間あたりの比重が少ないことも楽曲のメロディで固定化されやすい原因です。
ちょっと極端ですが、例えば、駆け抜ける系やカオス系などでは、一曲の使用時間一曲がかなり短いです。短いにもかかわらずメロディに改変が行われると、「本当にその曲かどうか」で混乱を招きやすいでしょう。楽曲の情報の確実性を担保するために楽曲のメロディの固定が行われているということですね。
まあ逆に言えば、使用時間が十分に長ければ、その改変箇所の周りが原曲との誤差を補正してくれるため、改変(の他にも例えば耳コピミスなど)があったとしてもあまり問題にならないと思いますので、改変する余地が残されているかと思います。
ただ、メドレーと銘打たれている作品群の中では、ニコニコメドレーシリーズの作品は楽曲ひとつひとつの比重が少ない方かな?とは思います。曲数が多いですしね。
理由3: 楽曲の均質性
3つ目は、楽曲の均質性です。
基本的に、改変には特別な意味や意図があるときにしか用いられないと思います。盛り上げたい!とか。
ニコニコメドレーシリーズの作品では、基本的にはそれぞれの楽曲がある程度均質になるように作られており(※3)、改変するためには特別な場面だと思う箇所を設けることが多いと思います。
この均質性による楽曲の特別さの制限によって、楽曲が固定されやすいのだと思います。
理由4: 楽曲のエンタメ的側面
4つ目は、楽曲のエンタメ的側面です。
ニコニコメドレーシリーズの作品には音楽を再構成するという側面もありますが、メドレーとしての本来の役割といっても過言ではない「ある楽曲群が連続して流れること」を求める人も多いでしょう。
そのため、必要以上にメロディを改変することを求めないため、固定されているままのことが多いということが考えられます。
理由5: 改変を使用する意義の少なさ
5つ目は、改変を使用する意義の少なさです。
まあ、上で長々といろいろと書きましたが、おそらくほとんどの人が積極的に改変する意義を感じていないとか、意識していないからだと思います。改変、やろう!って言ったらそれだけでもやってくれるかもしれません(無茶振り合作のFullkenパートとかありますしね)。
ニコニコメドレーシリーズにおいて、楽曲は主となる出発点でもありますが、ニコニコメドレーシリーズでよく使用される技術や文化などからの要請によって、メロディの固定という要請がなされやすい要素だと言えます。
しかし、これから固定に縛られないということを流儀とするために、楽曲のメロディを抽象化した概念である「モチーフ」を導入します。これを用いて、もう少し「柔らか」なメドレーを作ってみましょう!というのが、本記事の目的です。
それでは、モチーフで具体的にはどのように柔らかくするのかを見ていきましょう。
モチーフとは?
さて、モチーフとは何でしょうか?
Wikipedia先生によると、
独立した楽想を持った最小単位のいくつかの音符ないし休符の特徴的な連なりを言う。
…………………………………?
具体例を見てみましょうか。
よく説明されるものだと、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」があります。
ダダダダーンってやつですね。
この曲は最初のダダダダーンから作った「似たパターン」をひたすら繰り返すことでできている楽曲です。あらかじめダダダダーンのような音の並びを決めておいて、これをたくさん変形して曲を構成していきますよ〜という楽曲になっているわけですね。
詳しい解説は音楽理論を網羅的に解説してくれている解説サイトSoundQuest様に頼りましょう。学生時代は特にお世話になりました……(当時はSONIQAでしたが)。
ただ、SoundQuestの説明は作曲のための説明に寄っていて、「提示」という部分が必要になってきそうな感じがしますが、今回は編曲なので、提示のことはあまり考えなくてよいとしましょう。視聴者がそのモチーフを知っていたり、知らなくても問題ないと考えたり、新しく知ろうとしたりしていることを期待しましょう。
まとめると、親となる音の並びがあって、そこから「リズム」OR「相対的な音の高さ」は保ちながら、子となる旋律を産み出して、楽曲を作曲していく形式があります。この親となる音の並びのことをモチーフと呼んでいます。そして、少なくともこの記事ではモチーフの提示は必須でないとします。
本記事では(特定のメロディをモチーフとしたときに)「メロディの改変」と「モチーフを親として子旋律を作る」をあまり区別しません。実際の操作としてはあまり変わらないので。「モチーフの改変」とか言うこともあるかもしれません。ないかもしれません。
あと、モチーフに抽象化したものの、「元となったメロディ」のことをモチーフとよく呼んでいます。抽象化しただけなので、メロディもモチーフとなりうる可能性があることに注意してださい。
メドレーにおけるモチーフ
モチーフという概念をわざわざ導入する妥当性はあるのでしょうか?
というわけで思いつく限り検討してみましょう。
楽曲をモチーフに拡張するということは、楽曲は単なる音の並びとして抽象化され、子となる旋律を生成するモチーフとなるということです。
つまり、モチーフはメロディや旋律と比べると弱い概念(広い概念)であると考えられます。
モチーフは旋律の元となるもので、可塑性のある柔軟なパーツのようなものです。形を厳格に決める必要はありません(※4)。そのため、モチーフを元に作られている楽曲も、必ずしもモチーフによってだけ作られるわけではなく、オリジナルのフレーズも含まれることもあります。上で例としてあげた運命もダダダダーンだけではありません。
つまり、わざわざ楽曲からモチーフに拡張してニコニコメドレーシリーズの作品を作ると述べている理由のひとつには、今回の構成単位であるモチーフはあくまでメドレー上で旋律を作るためのパーツであることを強調するためです。もちろんメドレーなのでほとんどはオリジナルのフレーズではないのですが、それでもメロディの構成は元の楽曲の音の並びに必ずしも縛られないようにするというのが目標となるように、モチーフという概念を使用するということです(※5)。
……まあ、あんまりわかんない!!!という人は、「改変をすることにためらいがない概念」だと思ってもらえればと思います。
実践編
というわけで、ここからは実践的な部分にフォーカスしてみましょう。
ここからは音楽理論の概念がたびたび出てきます。基本的なリズムの概念、調、音程(n度などの度数表記のこと)、音階などの知識です。なるべくフォローしますが、わからなかった場合、適宜調べてください。
今回、モチーフ的な手法でメドレーを作成したので、まずは実際の音源を聴いてみましょう。
なお、動画の方ですが、曲名表示の方法に迷って結局以下のようにしたのですが、ネタバレ要素が強いので、最初はもしかしたら動画を見ずに聴くだけの方が、視聴体験としては良いかもしれません。
それでは、どうぞ!
(多分新しい動画だからか埋め込み失敗しています)
見切り発車で作った作品なんですが、良い出来になったんじゃないでしょうか!?!
それでは、解説していきましょう。
実際の改変方法
実際にどのような改変を行ったのかを見ていきましょう。
前提として、今回のメドレーでは「主要になるモチーフ」と、「あまりがっつり変更しないモチーフ」に分けています。「主要になるモチーフ」は、
好きな惣菜発表ドラゴン
オーバーライド
メズマライザー
の3つです。(重音テト関連曲ばっかだな……)
それ以外は「あまりがっつり変更しないモチーフ」です。これによって、メリハリがつけられたのかなと思います。
『世界一可愛い私』だけちょっと越権(?)しちゃってる気がするんですが、まああんまり気にしないことにしましょう。
基本的なアイデア
改変をたくさんすると言っても、やりすぎると同一のモチーフかどうかがわかりにくくなり、効果的になりにくいと思います。そのため、生成したメロディごとにモチーフとして何らかの共通部分を設けるとわかりやすくなります。とりわけ「音の高さ」「リズム」という軸から共通点を設けてあげると良いと思います。
それでは、いくつか見てみましょう。
何もしない
もちろんモチーフ元のメロディをそのまま使っても構いません。
このメドレーの結構な箇所でそのまま使っておりますが、特にどっしりと楽曲を聴かせるときに使いました。例えば、『メズマライザー』のAメロやイントロ、『オーバーライド』のBメロ、『冒険の旅』、『メクルメ』などです。
コードによるメロディ改変
今回これ単体では使っていませんが、ノンダイアトニックコードを使ったときにメロディを変える力が働くことがあります。
ノンダイアトニックコードとはダイアトニックコードではないもので、ダイアトニックコードは調から自然に作られるコードたちのことです。ノンダイアトニックコードを使うとより豊かに楽曲を作ることができます。
ちょっと改変技法を混ぜた使い方をした部分で申し訳ありませんが、2:36の『メズマライザー』です。ここは♭Ⅵ(この調ではF)のコードによって、ファ#の音がファになっています。

モチーフの音階を変更する
メロディには音階が備わっています。
音階とは、メロディでおおまかにどの音を使うかを決める音の集まりのことです。例えば、長調や短調などのことです(他の種類を知りたい方はWikipedia先生に聞きましょう)。「おおまかに」ですので、テクニック次第では、音階以外の音を使用しても構いません(上述した、ノンダイアトニックコードを使用した際にメロディ側で合わせるなど)。
メロディごとに音階を変更することによって、さまざまな形で改変します。
簡単なもので言うならば、モチーフとなったメロディが長調だった場合、短調に変更したものです。そもそもこのメドレー全体を通して短調気味ですから、短調になることは自然ですね。
例えば、1:16あたりの「世界一可愛い私」です。

元の長調のメロディの主音から3度、6度、7度の音を下げてあげると短調になります。
ただし、単純にこれだけしても、周りの音とぶつかってしまうので、メロディ全体の高さの調節が必要です。長調から短調に切り替えた場合、半音3つ分下げる(短3度下げる)とよいです(同主調を短3度下げると主調の平行調になります)。
また、あとで解説しますが、和声的短音階という音階を活かして改変している場面も多いです。
まあもっといろんな音階を使ったらよかったなと思っています。理由は、長調から短調への変更は、次の「モチーフの音の高低を変更する」と同一の操作を行っているからです。
モチーフの音の高低を変更する
メロディの全体を半音n個上下してキーの音に補正する(=m度上下する)という操作があります(※6)。
わかりやすいのが3:06あたりの『好きな惣菜発表ドラゴン』でしょうか。

(実際には下がっていますが、個人的にわかりやすくするために、上げる方向で説明しています)
一番左がモチーフと同じメロディで、それ以降が高低を変更した改変箇所です。
前に説明した『運命』も似たような改変方法で音楽を展開しています。同じモチーフなのがわかりやすいので、オーソドックスな方法かもしれません。
ちなみに、6度上げる(3度下げる)という操作は、上の長調から短調に切り替えるという操作と同じ操作です。
メロディの形状を保って改変する
上のものをさらに抽象的にします。
メロディの音を線で繋いであげると、グラフのような形になります。このグラフの形状をだいたい保ってあげても、モチーフに共通点があるように聞こえます。
1:13あたりの『好きな惣菜発表ドラゴン』です。

よく見ると、全体の音の高さ(5度)と、仮に5度上げたとしても、改変例の方は、後半のメロディが若干異なります。しかし、旋律の形状を保ちつつ、大まかな山と谷が一致しているためある程度共通したものに感じられます。
また、今回よく使った改変方法として、和声的短音階という音階が活かした方法があります。
和声的短音階とは、短調の一種です。実は短調には3種類あって、そのうちのひとつがそれです。短調(自然的短音階)の7度の音(ハ短調/C minキーだとシ♭の音)を半音上げたもの(ハ短調/C minキーだとシの音)です。
なぜそんなことをするのかというと、音楽理論的には、導音と呼ばれるものが欲しいからです。メロディを終わらせる(終止と言います)ときなどに、シ♭→ドのように全音で進むより、長調みたいに、シ→ドのように半音で進んでくれた方が気持ちいい、という考えです。このうち、シの音が導音です。
というわけで、短調で長調におけるシのような使い方をするために、一時的に短調(自然的短音階)から変形した音階が和声的短音階だと思ってください。
さて、和声的短音階が活きるようにするにはいろんな方法があると思いますが、メロディの終わりの音を和声的短音階の7度の音になるように改変する方法があります。

お尻の部分が高くなっており、全体としては形状が崩れていますが、部分的には形状を保つ形になっています。
そして、最後の音が和声的短音階の7度の音(シ)になっており、次の展開を期待させる”タメ”になっています。
メドレーではサビが使われることが多く、このような"タメ"の部分を使える機会が少ないため、自由に作れるメリットが出た部分だと思います。
リズムを保持する
さらに抽象化して、モチーフからリズムのみを抜き出して改変してあげても良いと思います。
大胆にやってみた例が、1:28からの『オーバーライド』の部分です。多分画像がなくても全然違うことがわかるかと思います。
正直ここまで行くと単体では『オーバーライド』がモチーフだと認識できるかはわかりませんが、まあその前に一応オーバーライドのフレーズを使ってはいるので、周りにモチーフが使われていることに頼ってこのように大胆に改変してみてもいいのかもしれません。
リズムのみを変更する
逆に、音の高さや形状などは保ってあげて、リズムを変更するという方法があります。
今回あまり積極的にやっている例が少ないので、これのレパートリーをもうちょっと増やしたらよかったなと思っています。例えば、シンコペーションとかを使うと良いかもしれません。
1:17あたりの『好きな惣菜発表ドラゴン』を見てみましょう。

画像だとわかりにくいですが、16分音符にギュッっと詰めてます。というか聞いてみてもわかりにくいと思います。裏の伴奏に使われているので。
ともかく、これによって速いフレーズが生まれます。
ちなみに、前半後半両方とも高さを変更しています(上下に2度)が、形状が同じです。
新規フレーズの追加
既存楽曲に囚われず、新しくオリジナルのメロディをくっつけます。繋ぎを念頭に入れると結構邪道な感じがしますが、メロディを展開するには有効な手段のひとつです。
1:45からの部分です。『ゼルダの伝説メインテーマ』を途中でカットしてオリジナルのフレーズを挟んでいます。ここでは旋律的短音階と呼ばれるものを使っています。先ほど述べた短調の3種類のうちのひとつです。6度と7度の音を半音上げます。
短調の6度と7度の音を上げることによって、ほとんど長調のようなメロディになります。今回の場合、この後同主調であるC maj / A min キーに転調するので、長調を想起させるために使っています(※7)。
カットする
逆に、フレーズをカットすることもありです。こちらはニコニコ大百科の記事「ニコニコメドレーシリーズの技法」の再構成の項目にもあるのは確認しました。今回は主要な改変としてはみなしていませんので、動画の方では解説しておりません。
今回使った例として、『メクルメ』の最後の部分はメロディをカットして、後続に繋げている、といったものがあります。
改変方法は、思いついた分はとりあえず以上です。もっとこんなのがあるよとか、こういうまとめ方の方がいいんじゃない?というのがあれば教えてください。
メドレーをモチーフで作ったときの特徴
モチーフからメドレーを作った場合、その制作過程や完成品にどのような特徴があるのでしょうか?
アレンジや構成の自由度が増す
使用する旋律が固定的ではないので、楽曲のメロディからの影響も少なく、アレンジや構成の自由度が上がります。
ニコニコメドレーシリーズの作品は固定的であるため、基本的にはメロディの引用のみで作られることが多いです。もう少しアート風に言えばパッチワークのようなものだと言えます。
ただし、パッチワークでればあるほど、元の素材の味が出てしまい、原曲の方向性に引っ張られやすいという影響を、少なくとも私はよく感じます。
メドレー制作中に、「こういうアレンジしたいんだけど、ここで原曲のイメージを壊したくないから、元に近いアレンジをするか〜〜」といった事態が頻発することがあります。
また、一曲では問題なくても、これが積み重なってアレンジが平均的になる・汎化する傾向も感じることがあります。「次の曲に繋ぐためにはちょっと大胆なアレンジがしにくいな」という感じですね。
構成も同様です。「こんな構成にしたいけど曲がないな」というような状況が結構ありました。
が、今回は、この自由度のおかげでこういった問題を解決できる旋律のレパートリーがたくさん作れたため、私は結構気を楽にしてアレンジや構成をすることができました。
良い面を結構書いてますが、自由度が増すということは、音楽的に考えることが増えるということを意味します。コード進行やメロディの構成など、普段メドレーを作成するときには楽曲に依拠していた部分も新しく考える部分が増えてしまいます。
繋ぎに対して緩い
ニコニコメドレーシリーズの作品では、よく楽曲の力学を用いて繋ぎを行っていますが、モチーフによって作った場合、この楽曲が解体されてしまい、繋ぎという技法が軽くなってしまいます。
このため、従来の繋ぎとは異なる審美性で評価する必要性があるかもしれません。
しかし、1:50~の『smooooch・∀・』と『オーバーライド』という、n度ズレを起こしている楽曲同士も共通部分を想起させる繋ぎができるという力技も可能です。
ということで、ある意味では共通部分を引き出せる幅が広がったとも言えるかもしれません。
視聴者に対する負荷が高い
改変されたモチーフは、元の楽曲から離れている分、採用された改変がその楽曲由来のものだと感じさせるには認知への負荷が高く、視聴者にとって、元の楽曲との照合には時間がかかってしまうかもしれません。その分丁寧にモチーフを使用する必要があります。
モチーフの取り扱いには注意
メドレーである以上、何らかの既存の楽曲を期待している可能性が高いです。改変をしすぎることによって、メドレーとしての体験が損なわれてしまう可能性があります。
これを補填する方法としては、比較的モチーフ元の共通性を保った改変を多く行うことや、モチーフを繰り返し用いることによって、その楽曲を使っているということを示していくことが重要だと思います。
曲ひとつあたりの使用時間が短いメドレーとの相性が悪い
おそらくですが、駆け抜ける系やカオスメドレーとの相性が悪そうです。理論編で言ったように、短くなり曲数が多くなるほど、正確性(固定的であること)が求められると考えられます。なので、改変が前提となるモチーフでは相性が悪いかもしれません。
ただ、駆け抜ける的に繋げられた旋律をモチーフとしたメドレー、それはそれで面白そうです。
楽曲の多様性が減る
メドレーでモチーフを使う場合、反復的に用いるべきではないかという話をしました。
しかし、ニコニココメドレーシリーズにおいては、ほとんどの場合、曲が切り替わるたびに新しい楽曲が当てられることが多いと思います。
このため、メドレー内の楽曲の多様性や曲数という観点からはちょっと寂しい結果になるかもしれません。
曲名表示どうしよう
今回はモチーフを使うことを前提としていますが、改変部分やオリジナル部分を作ってしまった場合、曲名表示はどうすればよいのでしょうか?
今回はなるべく網羅的に解説することを前提にしたので、あまり問題が起きていないように思いますが、実際にはもうちょっとシンプルに曲名表示することになると思います。その場合、どこかの曲の一部として書くことになるような気がしますが、良いのかな……?良いのかも……。
また、編曲的に用いられたフレーズはわざわざ書かなくても良いような気がしています。今回モチーフから生成したフレーズは、大まかに言えば、主旋律や重ねで用いられる「メインのフレーズ」とそれより細かいサブのフレーズに分かれていますが、「サブのフレーズ」の方は編曲的に用いていますので、あんまりメドレー的に重要ではないのかもと思っています。
派生作品のことをあまり考えていない
歌ってみたとか原曲再現とかがやりにくそうです。基本的に聴くことに特化しているので、他の派生作品を生み出すのは難しいかもしれません。音MADとかはいけるかもしれませんが。
……といったところでしょうか。
モチーフメドレーに関しては以上です。おおよそのことはわかっていただけたでしょうか?大丈夫かな……。
あと、なんか書き忘れてないか……?と不安になっています。また気づいたら書き足します。
モチーフにあまり関係ない制作後記
メドレー自体の感想
モチーフで作ったメドレーのあれこれは、しっかりお伝えできたでしょうか?個人的には自由に作れたのが楽しかったです。
なんか、このメドレーの雰囲気、ラスボスっぽいですよね。好きな惣菜発表ドラゴンか重音テトの第2形態とかなのかな……とか思いながら作っていました。
まあ実際後半の『好きな惣菜発表ドラゴン』がラストに盛り上げで使ったのはそういうイメージのもとです。勇ましい好きな惣菜発表ドラゴンをイメージして作っております。
『世界一可愛い私』や『冒険の旅』、『メクルメ』を出したタイミングも、今までのモチーフで展開されている中で、新しい楽曲がためてためて出てくるという展開にできており、満足です。アレンジもディストピアのマザーAIとの決戦みたいで素敵です。好きな惣菜発表ドラゴンとは共存している……?
今回、構成やアイデアがゼロの状態で作りました。ふだん作る時は、ある程度頭の中で、楽曲や繋ぎに対して「どう使えるかな~」と吟味するのですが、今回編曲でゴリ押せるかも!と思って、実際結構勢いで作れました。アレンジ期間も3~4日程度で作れたので、よく頑張ったと思います。
といっても順風満帆だったわけではなく、『メクルメ』~『メズマライザー』イントロの部分はかなり苦戦しました。『メズマライザー』サビで転調した後の展開で、『好きな惣菜発表ドラゴン』サビと『メズマライザー』イントロは使いたいという考えがありましたが、その間に挟む曲が結構悩んでいました。やはり改変ナシ部分を考えるのは編曲でゴリ押せないため、苦戦しました。
結局『メクルメ』の「窓に爪を立てる」の「る」が導音だったため「いける!」と思って採用し、そのあとは自然と『好きな惣菜発表ドラゴン』と『メズマライザー』の順番が決まりました。よかったよかった。
影響
雰囲気がラスボスっぽいのは、今回参考にした『王亡き樹冠のミストルティン』の影響です。
がっつりは似ていませんが、節々が似てる気がします。特に前半の転調の構成は同じですね。
この曲はカービィのラスボス楽曲ですが、『CROWNED』、『すくえキングダム!しれんクエスト』、Wiiで用いられているモチーフでできています。
カービィのラスボス楽曲は、複数のモチーフを用いて作っていることも多く、モチーフメドレーの考え方の源流になった楽曲がたくさんあります。
しかし、カービィの楽曲はカービィの楽曲でしか作ることができないと思います。スマブラとかオールスターなどのゲームでも、ジャンルを超えてメドレーが作られることは少ないです。ニコニコメドレーシリーズはこういったジャンルを超えて作れるのが良い点ですね。
他にはどのようなものに影響を受けたかというと、例えば『CROWNED』からアレンジの影響を受けています。
オーボエやヴィオラで16分でテロテロしたフレーズがあったのはこれの影響です。全体的にカービィのラスボス楽曲は、オーケストラアレンジなのに疾走感があっていいですね。安藤浩和さんが自分の作った曲に対して「オーケストラの音を使ったテクノ」だというような旨のことをおっしゃっていて、すごく素敵だなと思った記憶があります。以降、結構参考にしているアレンジの考え方ですね。
最後の方、『メズマライザー』を使って、E♭maj / C min キー→C maj / A minキー→A maj / F♭ minキーと転調しています。こういった転調しようと思ったのは、『いつしか双星はロッシュ限界に』の2:47あたりの影響を受けています。そのまんま使ったわけではありません。
また、A maj / F# minキーに転調したのは、本当はループのためにさらに転調して、F♯ maj / D♯ minキーに戻すためでした。これは、思ったより時間かかりそうだったし、キリも良さそうだったので結局そのまま終わる構成になりました。
心残り
今回やりたくてやれなかったのは、モード(旋法)での改変です。モードというのは、簡単に言えば、長調チックな旋律や短調チックな旋律からちょっと変更して雰囲気を変更する技法のことです。7種類(長調と短調のまんま一緒のものも含めて)あります。最近の曲だと『clumsy trick』のAメロが、短調チックなメロディで「冷静に」の「に」の部分だけ通常の短調にはない音(ドリア旋法の音)を使っています。
普通、ノスタルジックにしたり異国情緒にしたりするときに使われやすいので、この曲で!?と若干意外ではあります。そういう使われ方をしているので思いつくのは『フォルアースに吹く風』です。カービィしか語彙がない……。
(フォルアースの英語名、アースフォールなんだ)
あと、さっき挙げた『王亡き樹冠のミストルティン』の3:14~の裏のバイオリンのフレーズでも使われています。こういうフレーズを作りたかったな……。
ちなみに、改変で使わなかっただけで、ドリア旋法は0:32あたりのストリングスで使っています。結構かっこよく使えたかなと思っています。
制作期間
この作品と記事と動画の制作を、18日くらいに始めてアドベントカレンダーの最終日の1日後の26日にあげる予定でしたが、見積もり大失敗案件でした。音源は25日くらいにはできてたのに…………アレンジは3〜4日で出来たのに…………。
いや、21日くらいまでほぼ何もやってなかったのが原因ですね。先伸ばしって、しちゃいますね。
しばらくの期間、生活がこれに支配されていてつらかったですが、自分を突き動かすという意味では活力的に生活できていたので、たまにやる分には精神衛生上良いのかもしれません。
しかし、卒論書いてる気分にはなったので、やっぱり、あんまり、うーん。というか、もう忘れちゃったけど、卒論の文字数より書いてる可能性があるな。
まあともかく、書き上げられてよかったです。
終わりに
ニコメド、複数の主題を統合する音楽群を包括的に表せるマインドはあると思うけど、特に昨今では全体で共有しているメロディが少ないのと原則表示文化があるのと曲数が多いのとで、メロディが固定的であるのを要請すると思うので、実際的にはゲームEDのメドレっぽく旋律を柔軟に変えつつ組む形式はムズ
— いえふ (@ief_yeahfoo) October 17, 2019
うんうん、その通りだね(※8)。
というわけで、昔は無理そうだと考えてたことを、文章がヨレヨレながらも考えをまとめられて「ムリ」から「できる」という方向性で文章化できてよかったです。
またモチーフメドレーを作ることはあるんでしょうか?意外とタイパがよかったので、動画の方をどうするかだけ考えて、また作れそうな予感もします。でもどうせまた年単位で期間が空いちゃうんだ!(月村手毬)(※9)
というわけで、気が向いたらみなさんも作ってみてください。あと、モチーフを主催側で先に決めておいて、合作とかやっても面白そうかもなとか思いましたので、やってみてください。
また、他の新作メドレーですが、今はまだ選曲段階というか、吟味の段階です。いつになるかわかりませんし、作り始めるかどうかすらわかりませんので、待っている方がいるのならば、気長にお待ちください。
それではまた!
モチーフ、めちゃくちゃもちーづとタイポしました。
f、ホームポジションの要なのに????
脚注
※0 noteって脚注付けられないんですね。採番、がんばります。
※1 クリスマスの12日間という曲があります。クリスマスって2日目以降本当にあるんだ
※2 もちろん共通点や類似点以外にも、前の曲からの流れの良さなど、さまざまな繋ぎの良さがあると思いますが、今回は一旦置いておきます。ただ、流れの良さというのは、繋ぎというミクロっぽい技術で呼ばれていますが、もっとマクロな構成的な良さなのではないかなとも個人的には思ったりします。
※3 反論として、例えば使用時間が極端に異なることが考えられます。ただ、短ければ短いほど正確性を期す必要があると思うので、結果的に固定されそうな予感がします。
※4 ただ、実務上「何らかの曲を先に作っておいて、それをモチーフとする」ということが採用されることの方が多そうな気がします。知ってる範囲なら『星のカービィ トリプルデラックス』が作中で特定のモチーフを多用していますが、これは『ボヨヨンバッタン・ファクトリー』を元に作っているとのことです。
※5 オリジナルのフレーズが大半を占める"メドレー"を作ったとき、それは本当にメドレーだと思われるのかどうかは気になりますね。私は場合によってはメドレーではないなと思ってしまいそうですが、作ってみる価値はあるかもしれませんね。
※6 もしかしたら、これもモードを変更したと呼ぶのかもしれませんが、確証はないです。
※7 必ずしもこのような目的で使うのではなく、普通にメロディを作る方法としてあります。例えば、ドーナツホールのBメロの「あなたを傷つけてはしないか」の「はし」の部分が旋律的短音階です。
※8 ここでいう「表示文化」というのは、「ニコニコメドレーシリーズの作品は曲名を表示されることでその楽曲が存在することを示すという点で、曲名表示に被支配的である」という考え方です。しかしながら、今回用いた「固定」の方が馴染んでいるなと思って、棄却された考え方です。
※9 そんなに学マスに触れてないはずなんですけど、学マス多いですね。何でだろ?