千の顔を持つ女ーGivenchy Ysatis ー
美しい薔薇には棘があるー
美しい人、とりわけ美女に対してよく使われる言葉だ。
また、似たようなところでunder the roseは英語で「秘密」の意。
謎めいていて、崇高で、棘がある。
美女に対するそんなイメージは、万国共通なのかもしれない。
そしてそれはきっと、間違いじゃない。
どんなに元の素材が良かろうと、磨かずして輝くことはない。
人目をひくほど美しい人というのは、見えないところで必死に、身になる努力をしてきた人だ。
装い方、見せ方。角の立たない身のこなし方。
主観にとらわれず、どう見えるかを客観視する目をもち。
地味な研究と実践を繰り返してやっとたどり着く境地。
たゆまぬ向上心のなせる技だ。
それができる人に美意識がないわけがない。
こだわりがないわけがない。
その内に秘めた情熱や、研ぎ澄まされた美意識が、秘密めいた雰囲気や鋭さに感じられるのだろう。
さて今回のnoteは、そんな美女に相応しい、「千の顔を持つ」フレグランス。
GivenchyのYsatisだ。
トップは、フローラルオリエンタル伝説の名香、BYZANCEにとてもよく似ている。
凛としたかっこいい美女、もしくは線の細い、「美しい」と表現されそうな男性に似合いそうな、中性敵な印象の出だしだ。
ミドルはベースのカスタードノートを軸に、さまざまな花々の香りが現れては消えていって香るたび、異なる印象。
謎めいている。
咲き溢れるは、闇夜にぼうっと浮かび上がる大輪の花。
蔦の絡む洋館の庭に、一面に咲く白い花はのイメージで
「愛らしさ」「かわいさ」は決してない。
ベースは「体温」や「吐息」など、どこか生々しい「色香」を感じさせる、濃厚な「華」(花ではなく)の香り。
けれども、男性用整髪料を思わせるような、一昔前のマスキュリンな香りも度々鼻を掠める。
美しさの中にほんのひとさじのスパイス。艶やかな淑女が時折、すっと見せる男性的な冷酷さみたい。
フェミニンとマスキュリンを自在に行き来する。
とらえどころがなく、だからこそ魅惑的な「誘う」香り。
↓のイメージがまさしくぴったりとはまる。
ジバンシィはそのブランドコンセプトが本当に格好いい。
由緒正しきフランス貴族の末裔である創設者、ユベール・ド・ジバンシィはこう言った。
「エレガンスの秘訣は、あなたがあなた自身であること。」だと。
他の誰でもない、あなただけの美を目指して。
ジバンシィの香水をまとうとき、そうやって背中を押されるような気がする。
イザティスは、使いやすいか使いにくいかでいえば、はっきりいって相当使いにくい。
けれどももしつけこなせたら、圧倒的にかっこいい。
ゆえに、美の探求に余念がない、「我こそは」と思う紳士淑女の皆様方にこそ試していただきたい。
そんなフレグランスだ。
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生きにくい世の中だ。
社会が、男達が、そして時には女達自身が、
「女性はこうあるべき」という身勝手な 、矛盾した願望を押し付ける。
貞淑であれ 淫らであれ
母であれ 女であれ 妻であれ
優しくあれ 激しくあれ
押し付けれた理想像に従順に従うことも
真っ向から喰らいつくこともせず
「理想の女」はただ艶やかに微笑む
時々で、千の仮面を優雅に付け替えながら。