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アナログできちんとできてないことは、デジタル化してもうまくいくわけがない。

◉古くて新しいデジタル

デジタル庁の新設とか、DXーデジタルトランスフォーメーションの推進とか、ここへきてにわかに「デジタル化」に注目が集まっています。

半世紀以上人間やってきた身にとってみれば、いまさら感が強い。なぜかと言えば「デジタル」という言葉とすでに半世紀近く付き合ってきたから。ちなみに私のデジタルリテラシーは、隔週刊の雑誌『ASAHIパソコン』(1988年11月1日〜 2006年3月15日)によるところが大きいです。なつかしいな。

さて、「デジタル」の歴史はじつはすでに相当長い。中学校の数学でしたっけ? 二進法=デジタルって習ったはず。関連して「コンピュータは二進法」なんて話も。当時はちんぷんかんぷんだったですけども。

その後、スペースインベーダーに代表されるテレビゲーム、ゲーセン、ゲーム機、ワープロ、パソコン(そしてパソコン通信)、インターネット、携帯電話、スマホetc. というようにデジタルと付き合っていくことになります。

◉デジタル化の意味とは?

さて、デジタル化とは、簡単に言ってしまえば、世の中のあらゆる「変化」の量を0と1に置き換えてとらえるということ。このことの意味がどれだけ大きいかというと、「0と1に置き換えることができれば、それらはすべてコンピュータで制御できる」ということですね。

そこで発達したのがセンサー技術。京セラがセラミックセンサーで急成長したのはご存知の通り。温度、重量、圧力、濃度、速度、方向、高低、角度etc. あらゆる変化を0と1に変換できればそれはコンピュータで制御できる。一番はじめにこれを取り入れたのは工場の産業用ロボットですね。NC制御とか(NC=数値制御)。それから、もちろん軍事技術。インターネットの端緒が米軍のARPANETだというのはあまりにも有名。

そして、こうしたセンサー技術、そして取り出した数値をコントロールするプログラミング技術が進歩すると、デジタル化によって、さまざまな作業工程、とくにキカイ作業がコンピュータで制御することができるようになります。

そして、各種のデータ・情報がデジタル化されて蓄積されるとデータベースができる。データベースができてサーバーの容量が上がって、プログラミング技術が進歩すると、さまざまなシステムのデジタル化ができるようになってきます。身近なところでは、銀行のATMや鉄道の自動改札、自動車のエンジン制御、スマホをはじめとした通信機器、個人情報管理、音楽、動画、そしてもちろんゲーム機、パソコンなどなど。ネットワークはまた少し別の話ですけども、インターネットもデジタル技術のたまもの。いまやGAFAに代表される巨大企業もデジタル化の象徴のようなビジネスモデルですね。

閑話休題。

さきほど、中学校の数学で習う二進法、といいましたけれど、実はコンピュータとプログラミングの習得には、二進法はもちろん、行列、命題、微分積分とかめっちゃ重要。なのにこういうこと教えるのをやめちゃって、いまさらプログラミング教育なんて言い出してるのは本末転倒も甚だしい。

◉デジタル化のキモは「マニュアル化」と「標準化」そして「効率化」

デジタル化の話です。

以上述べたようなことを考えると、「作業工程がしっかりと確立されていないものはデジタル化は難しい」という結論が見えてきますね。デジタルはもともと「あいまいさ」に不寛容。なので、キカイでやることには相性がいい。

一方、手作業というか、たとえば事務業務などにはいまひとつ相性が悪い。「いやいやOA機器とかあるでしょ? ワープロとかパソコンとか」と言われるかもしれない。まあ、それはおっしゃる通りなのですけれども、それらはあくまでも「事務機器」ですよね。キカイです。でも、伝票の起票とか帳簿つけとか文書作成とかファイリングとかコピーとかは、そうしたキカイを使って「人力で」入力したりしてるじゃないですか。OA(Office Automation)といいながら、ぜんぜんオートメーションじゃない。

何が言いたいかというと、コロナ禍ではじまった在宅ワーク(テレワーク)がなかなか進まない。日本の企業のオフィス業務のデジタル化がなかなか進まないのはなぜか? ということなのです。

先に「データベース」といいました。じつはしっかりしたデータベースを作るためには、当然のことながら、それ以前のアナログでのファイリングの手順=プロトコル、マニュアルがきちんとできている(た)必要があるのです。

ドキュメンタリー番組などで、欧米の紙ベースでのファイリングとか文書作成・管理のシーンをごらんになったことはないでしょうか? 役所の文書係とか、公文書館の担当者の仕事ぶりとか(むっつりした愛想のない人物が、膨大なファイルからたちどころに目当ての文書を出してくるとか)、軍事施設でのドキュメント作成やチェックシート、マニュアルと首っぴきの作業風景とか。あ、映画「アポロ13」でも、分厚いマニュアルと各種のスイッチ、アナログメーター、そして手動で操作しているシーンが出てきますね。アポロ・プロジェクトこそ、アナログによる巨大プロジェクトの象徴かもしれません。先日、半年ぶりにISSから地球に帰還したときに野口聡一さんが乗っていた「クルードラゴン」のコックピットは液晶パネルだけ。アナログからデジタルへの変化という意味でも象徴的でした。

つまり、オフィスでのファイリングにせよ宇宙船の操作にせよ、アナログでしっかりとした仕組みができていて、マニュアル化されていて、作業手順が標準化されていれば、それは比較的(あくまでも比較的ですけど)容易にデジタル化できるというわけです。これは生産技術や機械制御だけの話ではなくてマネジメント、オフィスワークでも同様。

では、日本はなぜ今頃「デジタル化」を叫ばなくてはならないのか? それは、「マニュアル化」と「標準化」をしっかりやらずに、とにかく今やってることをデジタルに置き換えて省力化すればいいんだろ、とばかりにやった(やろうとしている)ものだから、いろいろな歪みが出てきているのではないか? 結果として、デジタル化できない、無理くりにやってもうまくいかない、ということになっているからだと考えられます。当然「効率化」など望むべくもありません。

銀行のシステム、行政システムのトラブル、巨大な工事、施設の事故、公文書の捏造、隠蔽。廃棄。え? 公文書の件は話が違うって? そんなことありませんよ。公文書管理の仕組みと権限が明確化されていれば、政治家であろうと誰であろうと、介入を許すようなことにはなりませんし、そんなことをすれば、告発・糾弾されるシステムになっているはずなんです。

◉在宅ワーク(テレワーク)が日本で進まないワケ

個々のオフィスワーカーの仕事にしても、「職務記述書」で仕事の内容とやり方がしっかりと規定されていれば、在宅ワークは無理なくできる。従業員の仕事ぶりを監視するシステムなんか必要ない。

しっかりした業務マニュアルがあって、業務が標準化されていて、「マニュアル通りにやれば、誰がやっても一定の成果が出せる」ようになっていれば、それはデジタル化できるし、そうすれば在宅ワークだってもっとスムースにできるのです。

これまでに述べてきた通り、デジタル化の土台は、しっかりした「仕組み」です。ムリ・ムラ・ムダのない仕組み。

そして、その仕組みをただ単にキカイ化するだけではデジタル化ではないし、デジタル化は一足飛びにはできない。大袈裟だけども、土台となる確かな仕組みがあって、その仕組みをデジタル化することで、どういう付加価値を生み出すのか? そしてどういう社会の実現を目指すのか? という「思想」があってこそ、デジタル化の果実を得ることができるのです。

物事には必ず順番があり、結果には必ず原因があります。

すぐれた仕組みにはすぐれた土台があって思想がある。結果には必ず原因がある。そこをすっとばしては良いものはできないという、仕事のキホン、モノづくり、仕組みづくりの原点みたいな結論になりました。


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