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【特集:島しょ国プロジェクト】安定供給可能な再生可能エネルギーと共に産業振興を実現

日本(沖縄県):海洋温度差発電と海洋深層水複合利用の「久米島モデル」

佐賀大学 海洋エネルギー研究所(IOES)


世界初の発電と実用化に成功
 佐賀大学海洋エネルギー研究所は50年以上にわたって海洋温度差発電(OTEC)に取り組み、2013年に沖縄県久米島で世界初の長期実証研究に成功した。海洋温度差発電とは、水面近くの温かい表層水と冷たい深層水の温度差を利用してタービンを回し発電する技術である。太陽光や風力発電に比べて気象条件の影響を受けにくく24時間安定した電力供給ができ、表層水と深層水の温度差が20℃程度ある赤道付近に適地が多いため、特に島しょ国のエネルギー源として注目される。
 海洋温度差発電の大きな特長は、発電に利用した海洋深層水を複合利用できることにある。海洋深層水は年間を通じて水温が一定で低く、ミネラルも豊富であることから海産物の養殖、化粧品、飲料にも活用できる。

実験棟および研究棟からなり鉄骨3階建て、
敷地面積約10,000㎡、佐賀県伊万里市山代町に立つ
伊万里サテライトをパラオ共和国が視察
久米島では海洋深層水の低温性、富栄養性、
清浄性などを生かし、車エビ、海ブドウ、
牡蛎などの養殖に活用する
海洋深層水利用産業は、かつて久米島の主要産業だった
サトウキビ生産の約2.5倍規模に成長している

複合利用で産業と雇用も創出
 
久米島での実証事業は久米島町、海洋深層水利用ビジネスを目指す民間企業による産官学協力のもと行われ、今年で12年目を迎えた。発電成功までは「実用化は不可能」とする風潮が強く予算面での理解が得られないなどの苦労も多かった。現在は、発電に加え海洋深層水を利用した産業、さらに海水淡水化研究・事業とも組み合わせて「久米島モデル」と呼ばれ、世界70カ国以上から視察者が訪れた。海洋深層水を使用した事業は約25億円にのぼり人口約7,000人の島に約140人の雇用を創出するなど「海洋温度差発電を核とするグリーントランスフォーメーション(GX)型社会モデル」と言える。国際協力機構(JICA)では2023年5月からパラオなどへの導入検討に向けた現地調査を行っている。

マレーシアとの地球規模課題対応国際科学技術
プログラム(SATREPS)の様子
佐賀大学元学長の上原春男博士の名を冠した
「ウエハラサイクル海洋温度差発電基礎実験装置(30kWOTEC)」

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本記事は国際開発ジャーナル2024年9月号に掲載されています
(電子版はこちらから)

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