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【BOOK INFORMATION】平和国家としての役割を果たせ

『内戦と和平―現代戦争をどう終わらせるか』
第三者が仲介する和平調停は内戦を終結させる一つの手段となるが、シリアに代表されるように想定通りに進まないのが実情だ。こうした現実を踏まえて、本書では、和平調停の望ましい姿と日本の役割がまとめられている。今回、著者である東大作氏が要旨を解説する


 現代の戦争のほとんどが凄惨な内戦である。アフガン戦争やイラク戦争のように、米国が政権転覆を図り、その後の新国家再建に失敗し内戦に突入したケース、国内の異なる勢力が戦い続ける「純粋な内戦」、純粋な内戦で始まったものの周辺国やグローバルな大国が介入し戦闘が拡大した「国際化した内戦」など、形態はさまざまだ。現在、世界の約50カ所で内戦が勃発し、7,000万人もの難民が発生している。それを一つの要因としてポピュリズムが台頭しており、世界秩序を根底から揺るがしている。
 こうした内戦をどうしたら克服できるのか。本書では、紛争下の和平調停に焦点を当てて、ここ数年、筆者が現地で調査を続けてきたイラク、シリア、南スーダン、アフガニスタンなどを主なケースにその解決策を探っている。
 本書の一つの論点は、筆者がこれまで紛争後の平和構築において強調していた「包摂的な政治プロセス」の重要性について、紛争下の和平調停においては異なる面があり、より柔軟な対応が必要だという点である。まだ激しい戦闘が続いている段階においては、すべての当事者が参加する和平交渉ではどうしても和平合意ができないこともあり得る。その場合、まず影響力を強く持つ勢力で基本合意し、その後より幅広い勢力と包括的な和平合意を結ぶなど、柔軟な対応が必要であることを、南スーダンやアフガンなども例に分析・主張している。
 もう一つの論点は、シリアなどで典型的に見られるように、グローバルな大国(米国やロシアなど)や周辺国(サウジアラビアやイランなど)が、「国連特使の仲介努力を歓迎する」と表面的には和平に協力する姿勢を示しつつ、実際には自らが支援する勢力への軍事的・財政的な援助を続けた場合、内戦はさらに拡大し、多くの人が犠牲になるという点である。シリア内戦ではイランがアサド政権、サウジアラビアが反体制派を支援し、紛争は拡大し続けた。筆者はこうした事態を、「国連の濫用」と呼んでいる。そして、紛争下の和平調停においては、グローバルな大国と周辺国が内戦を終わらせるために一枚岩になり、支援する勢力に対して「戦闘を停止し和平合意するよう」働き掛けない限り、国連の仲介には限界があることを強調している。他方、国連が紛争後の平和構築において主導的な役割を果たして一定の成功を収めた東ティモールやシエラレオネなどの例も取り上げ、国際的な平和活動に対してバランスのとれた評価を提示している。
 最後に、筆者自身の現地調査の経験から、対立する部族や宗派、政治勢力の双方から、日本が「平和国家」として信頼されている現状を踏まえ、対立する勢力の対話を促進する、「グローバル・ファシリテーター」としての役割を果たすことができると主張している。激化する米―イラン間の対立の構造的な要因であるイランとサウジの覇権争いを理解し、解決に向けた日本の役割を考える上でも、意義のある本だと考えている。


『内戦と和平―現代戦争をどう終わらせるか』
東 大作 著
中央公論新社
880円+税


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本記事は国際開発ジャーナル2020年3月号に掲載されています
(電子版はこちらから)

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