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【国会議員の目】参議院議員 公明党 秋野 公造氏

現場の状況を確認・理解 国会質疑を通じて保健政策を実現 ~優れた日本製品の活用は双方の利益に~

長崎大学で医学を学んだ秋野公造氏は、熱帯医学にも通じ、厚生労働省の医系技官として感染症対策などに取り組んだ後、参議院議員となった。結核など国内外の感染症の問題に取り組み、現地で調査した課題などを国会の質疑を積み上げて、実際の政策に反映させているという。具体的な実践について聞いた。
                   (構成:本誌ライター 三澤一孔)

参議院議員 公明党 秋野 公造氏

あきの・こうぞう
1967年生まれ。長崎大医学部卒、同大大学院博士課程修了。長崎大学、米国シーダース・サイナイ・メディカルセンター、厚労省に勤務。2010年、参議院議員に初当選(現在3期、福岡県選挙区)。環境・内閣府大臣政務官、財務副大臣を歴任。胃がん予防のためのピロリ菌除菌の保険適用を実現。NTDs根絶議連幹事長、ストップ結核パートナーシップ推進議連事務局長。剣道五段。

秋野氏の公式HPはこちらから
※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2024年8月号』の掲載記事です。


再建の病院に日本の薬や機器を

 2013年11月、瞬間最大風速105mの台風ヨランダ(台風30号)がフィリピンを襲った。死者は6,000人を超え、114万世帯が被災し、一時400万人以上が避難した。日本は被災直後に国際緊急援助隊の医療チームや自衛隊部隊を派遣し、防疫や住民へのワクチン接種などを実施した。しかし、国立東ビサヤ地域医療センター(レイテ島・タクロバン市)の再建など長期的な課題が残った。
 同医療センターは機能を失い、なかでも出産が困難となっていた。また、結核治療の拠点となる町立病院では、診療録が失われ、結核患者の投薬の情報が紛失した。このまま結核患者が適切に抗結核薬を服用できなくなると、抗結核薬が効かない多剤耐性結核が広がることを懸念した。
 そこで、現地にて、オナ保健相(当時)や日本大使館と必要な対策について調整して帰国。同医療センターを日本の支援で再建するとともに、まずは結核の検査のために、顕微鏡の供与から支援すべきと国会で質疑した。岸田文雄外相(当時)が「再建を支援していきたい」と答弁し、顕微鏡が供与され、同医療センターの建て替えも決まった。
 同医療センターの外来診療棟は日本の協力で2017年に完成したが、日本発の遺伝子増幅技術「LAMP法」を活用する結核検査キット(TB-LAMP、栄研化学(株))などを導入できなかった。フィリピン国の結核診断ガイドラインに収載されていなかったためだ。
 フィリピン保健省に国際協力機構(JICA)専門家として、(公財)結核予防会の竹中伸一先生が派遣されていた。竹中先生の働き掛けもあって、2019年に結核診断アルゴリズムが改定された。フィリピン側の制度が整い、国会で、同医療センターやフィリピン各地でTB-LAMPを導入ができないか質疑。外務省は「導入を進めていく」と答弁して方針を変えた。
 同様のことが世界的にも起きている。日本は、世界の結核対策に巨額の支出をしながら、「ストップ結核パートナーシップ」に対する支出が不十分で、「世界抗結核薬基金(GDF)」の調達リストには日本の優れた医薬品や医療機器が掲載されていなかった。竹中先生が、2019年に同パートナーシップの技術アドバイザーとして着任した後、日本の2つの製品がリストに掲載された。多剤耐性結核に有効な大塚製薬(株)のデラマニド(商品名はデルティバ)の小児用25mgと、富士フイルム(株)の携帯型X線撮影装置だ。

入国前結核診断は10年がかり

 私はストップ結核パートナーシップ推進議員連盟で事務局長を務めるなど、国内外の結核対策には力を入れて取り組んでいる。
 感染症病床に結核患者が入院できるよう地方から国に対して規制緩和が求められた際には、陰圧とHEPAフィルターの設置を要件とするよう求めて実現した。結果として、これまで明確でなかった結核病床の要件が定まった。
 また、2023年に、「国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等に関する基本戦略」と「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が閣議決定された。決定に先立つ与党審査で、政府原案には、結核についての記載がなく、薬剤耐性に関する記載が不十分であるなど、課題を指摘した。
 結果として、結核が日本においても依然として最大の慢性感染症であり、世界的にも重要な課題であるといった内容を盛り込み、薬剤耐性対策の推進を独立の項目とするなどの修正を反映させた。
 今後の結核対策については、海外からの流入対策が重要だ。「入国前結核スクリーニング」の実現に向けて10年近く、国会で質疑を続けて、とうとう今年度実現したい旨の答弁を得た。
 振り返ると、2015年、東京五輪の感染症対策として文科大臣に質疑した。文科大臣は出入国管理の重要性について答弁した。
 そこで、2018年に、出入国管理を所管する法務省に質疑。法務省は入国者に対して「診断書の提出」という具体的な手法を答弁した。また、国内の結核対策を公立病院が担う部分もあることから総務大臣に必要な支援を求めた。
 2019年には法務省は、対象国についての考えを答弁した。
 検討が進み、2023年には、厚労大臣から「来年度(2024年度)にはスタートしたい」と答弁した。
 2024年には外務大臣と法務大臣が今年度(2024年)開始に向けた取り組みを答弁した。
 各省庁にまたがる課題を整理するのは立法府の役割だ。たらい回しだとしても粘り強く政府内の合意形成に努めた。いよいよ入国前結核スクリーニングが実現する。

スナノミ症をNTDsの中に

 2016年12月、結核、HIV/エイズ、マラリアの調査のためケニアを訪ねて、スナノミ症の課題にも取り組むことになった。スナノミ症は、砂地に生息するノミの一種、スナノミによる皮膚感染症だ。1〜2cmの大きさのノミがいると聞いて驚いたが、主に足に寄生し、血を吸って大きくなる。適切な治療がないと足の切断に至る。
 スナノミ症を世界保健機構(WHO)が定める「顧みられない熱帯病」(NTDs)に位置付けて支援を強化すべきと考えた。厚労省からWHOに働きかけてもらおうと、2019年国会で質疑した。稲津久厚労副大臣(当時)よりWHOからスナノミはNTDsに含まれるとの見解を日本政府として確認したとの答弁が得られた。さらに、その明文化を求め、副大臣が「働きかける」と答弁。翌20年にWHOはNTDsの「疥癬(かいせん)およびその他の外部寄生虫症」にスナノミ症を追加した。よって(公財)グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)による治療薬などの開発支援の対象にもなった。

ケニアを視察する秋野氏=2016年

感染症対策に国境はない

 優れた日本製品を供給することは、世界に貢献しつつ国益になる。
 現場のニーズを知り、日本の実力を理解している日本人が国際保健の要所にいる必要がある。優先順位を決めて、実行するためには経験が必要だ。例えば、竹中先生のもとに後継者を送り、成功事例を継承してほしい。
 有為な若者に「退路を断たないと国際保健に貢献できない」と感じさせる状況は改善すべきだ。
 2013年のヨランダの後、フィリピンの首都マニラではしかが大流行し、その後、日本でもフィリピン株のはしかが大流行した。海外の感染症対策に貢献することは、日本を守ることにもつながることを忘れてはならない。


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本記事は国際開発ジャーナル2024年8月号に掲載されています。
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