マイクをやめて家に来てくれ

 選挙活動にマイクを撤廃、もしくは一部地域のみ使用可能にし、戸別訪問を解禁したほうがいいのでは、という意見を見た。
 私は、とても合理的だと思うからやっていいと思う。
 というのも、街頭演説や選挙カーってのがきらいだ。

 私は昔からなぜなぜと親に聞きたがる人間だったため、三十過ぎても気になることにはなぜなぜと質問をたくさんしたい。おまけにクソがつくほどのマジメで頑固。納得できないことをなんとなくでやりたくない。
 だから有権者として、立候補者にあらゆる質問をしたい。
 だが、古き悪いシャイなニホンジンだから、大勢の他人がいるなかで立候補者と話したくない。関係のない人間に見られながら、立候補者に「これについてどう考え、どう実行するのか」なんて聞きたくない。
 知りたいなら羞恥心など捨てろ、その程度なら本心から聞きたいんじゃないだろうとか、そういうことを言われそうだが、ニホンジンは羞恥心の塊らしいのでむりだ。
 でも知りたい。でも大勢の前なんて嫌すぎる。
 だからこそ、こちらに訪問してほしい。

 政治、選挙に興味のないニホンジンは「家に来るなんて迷惑だからやめてくれ!」と言うだろう。自分も興味がなければ容赦なく叫ぶ。でも、どでかいマイクで選挙カーを乗り回し、無差別によく聞き取れない主張をされて不快感に喚き散らすのと、ドアに「戸別訪問お断り」のシール貼るのとどっちが楽かといったら断然後者。
 寝たばかりの赤ん坊が選挙演説に起こされて泣き喚く。夜勤帰りで眠たい労働者が、マイクの音で叩き起こされて体調不良になる。朝早くに家を出て、急ぎ足で電車の駅に行ったら目立つ位置に陣取った立候補者が邪魔でたまらないし、そもそも通行の妨げだ。
 そういう目にあった有権者は、選挙運動にどんな感情を抱くかなんて想像、簡単すぎるだろう。
 私にはあいにく赤ん坊などいないので労働者のパターンだが、不快だ。憎悪すら抱く。

 とは言え、立候補者っていうのはかなりすごい存在だと、私は思っている。学生時代から思い返せば、心当たりのある人間はいくらでもいると思うが、「代表者として手を挙げる」のは容易ではない。
 学生のクラス代表や生徒会を決めるのにも一悶着あるというのに、地域の、国の代表者として手を挙げてんだ。挙げない我が身からしたら、尊敬でひっくり返る。
 ただまあ、残念ながら立候補者の全員が完ぺきなホワイトではないというのが、連日のニュースで知られている。カネを不正にもらったり、労働者にひどいことを言ったりやったり、そういうやからが存在する。

 だからこそ、私は慎重に選挙に臨みたい。
 選挙活動に憎悪を抱いたりもするが、立候補者を恨んでいるわけではない。なぜなら、彼らだって決まりに則って活動しているのだ。
 ただ活動方法がひどいって、そーゆーはなし。
 家に来てもらえたら、私のしたいなぜなぜが聞けて、かつ立候補者の人間性にじかに触れるいい機会にもなる。
 立候補者ときちんと対話をしたいってのは、立候補者にとってはものすごく負担になるはずだ。選挙期間は限られて、そのなかでどれほどの人と接しなければならないか、そのストレスはどれほどか、私にはもはや想像もできない。正直かなり申し訳ないけど、やってほしい。
 やってもらえたら納得して投票できるし、立候補者の熱意が伝われば他人へ話し、立候補者をすすめることもできる。今の選挙活動は、立候補者がとても遠い。政治がタニンゴトにしか感じられない。自分の声が届くなんて現実的に思えない。身近でないのだ。