<論文>薬剤耐性グラム陰性菌の治療:CRE(IDSAガイダンス)
Infectious Diseases Society of America Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections
Published by IDSA, 9/8/2020
カルバペネム耐性腸内細菌科(CRE)
少なくとも1種類のカルバペネム系抗菌薬に耐性、またはカルバペネマーゼ酵素を産生する腸内細菌科と定義される。CREは、一部のカルバペネム(例えばErtapenem)に耐性があっても、その他(例えばメロペネム)には耐性がない場合がある。CREは、複数の潜在的な耐性機序を持つ異種の病原体グループであり、カルバペネマーゼ産生株と非産生株に大別される。米国で最も一般的なカルバペネマーゼはKlebsiella pneumoniae carbapenemases(KPC)であり、あらゆる腸内細菌科によって産生される可能性がある。他の注目すべきカルバペネマーゼには、New Delhi metallo-β-lactamases(NDM)、Verona integron-encoded metallo-β-lactamases(VIM)、imipenem-hydrolyzing metallo-β-lactamases(IMP)、oxacillinase(例えばOXA-48)がある。カルバペネマーゼ産生株であるかどうか、そして産生株の場合、どのようなカルバペネマーゼかは、治療判断に重要である。
modified CIM法やCarba NPテストなどの表現型検査は、産生と非産生を区別することができる。分子検査は、特定のカルバペネマーゼファミリーを同定することができる(例えばKPCとOXA-48との鑑別)。遺伝子同定のために米国の臨床微生物検査室で使用されている分子プラットフォームがいくつかある(Verigene®、GenMark ePlex®、FilmArray®など)。表現型と遺伝子検査はすべての臨床微生物検査施設で実施されているわけではない。
質問1:CREによる単純性膀胱炎治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:CREによる単純性膀胱炎の治療には、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール、Nitrofurantoin、アミノグリコシド単回投与が望ましい。カルバペネマーゼ検査の結果が不明または陰性の場合、Ertapenem耐性だがメロペネム感受性のCREによる膀胱炎では標準的な静注メロペネムが望ましい。
根拠:有効性を評価した臨床データはないが、これらは尿中に高濃度で存在するため、活性があればCREによる膀胱炎に有効であることが期待される。一般的に、アミカシンやPlazomicinのほうがその他のアミノグリコシドよりも感受性がよい。Plazomicinはアミカシン耐性でも活性が維持されている可能性がある。カルバペネマーゼ陽性の場合はメロペネムに感受性でも避ける。上記にいずれも活性がない場合、Ceftazidime-avibactam、Meropenem-vaborbactam、Imipenem-cilastatin-relebactam、Cefiderocolが代替選択肢になる。FosfomycinはNitrofurantoinよりも治療失敗となる可能性が高い。コリスチンはそれでも選択肢がない場合にのみ検討されるが腎毒性に注意が必要。
質問2:CREによる腎盂腎炎と複雑性尿路感染症(cUTI)治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:Ceftazidime-avibactam、Meropenem-vaborbactam、Imipenem-cilastatin-relebactam、Cefiderocolは、Ertapenemとメロペネムの両方に耐性のCREによる腎盂腎炎およびcUTIに対する望ましい。Ertapenemには耐性があるがメロペネムには感受性があるCREによる腎盂腎炎およびcUTIに対しては、カルバペネマーゼ検査の結果が不明または陰性である場合には、メロペネム長時間投与(2g q8h、>3hかけて)が望ましい。
根拠:どれか1つの抗菌薬を優先するにはデータが不十分である。腎機能が許容されれば1日1回のアミノグリコシドによる治療完遂が代替選択肢である。
質問3:カルバペネマーゼ検査の結果が不明か陰性である場合、Ertapenem耐性だがメロペネム感受性のCREによる非尿路感染症の治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:カルバペネマーゼ検査の結果が不明または陰性の場合には、Ertapenem耐性だがメロペネム感受性のCREによる非尿路感染症の治療には、メロペネム長時間投与が望ましい。
根拠:Ceftazidime-avibactamが代替選択肢だが、すべてのカルバペネム系に耐性のCREのために温存することが望ましい。Meropenem-vaborbactam、Imipenem-cilastatin-relebactamは推奨されない。
質問4:Ertapenemとメロペネムの両方に耐性のCREによる非尿路感染症の治療で、カルバペネマーゼ検査の結果が不明か陰性である場合の推奨抗菌薬は何か。
推奨:カルバペネマーゼ検査が不明か陰性の場合、Ertapenemとメロペネムの両方に耐性のCREによる非尿路感染症の治療には、Ceftazidime-avibactam、Meropenem-vaborbactam、Imipenem-cilastatin-relebactamが望ましい。
根拠:大部分はカルバペネマーゼ非産生またはKPC産生菌によるが、上記はその追加情報がなくとも望ましい選択肢である。ポリミキシンベースの他のレジメンよりも臨床成績がよく毒性も低い。上記の抗菌薬の間での比較研究は限られている。Meropenem-vaborbactamよりもCeftazidime-avibactamのほうが耐性が出現しやすいことが示唆されている。Cefiderocolは非尿路感染症で有効かつ安全な患者層が定義できるまで、その他の推奨薬が使えない場合にのみ推奨される。メタロ-β-ラクタマーゼが常在する地域(中東、南アジア、地中海)から最近渡航した患者の場合、Ceftazidime-avibactam+アズトレオナムまたはCefiderocol単剤での治療が推奨される。メタロ-β-ラクタマーゼへのアプローチはKPCやOXA-48産生菌に対する活性も提供する。腹腔内感染症では、チゲサイクリンやEravacyclineは許容可能な単剤療法の選択肢である。高用量チゲサイクリンが標準量よりも有効かもしれない。活性はカルバペネマーゼの存在や種類に依存しない。これらは投与後に急速に組織内に分布し、尿中濃度や血中濃度は低くなるため腹腔内感染症の治療に限定されるべきである。
質問5:カルバペネマーゼ産生CREによる非尿路感染症の治療の推奨抗菌薬は何か?
推奨:Ceftazidime-avibactam、Meropenem-vaborbactam、Imipenem-cylastatin-relebactamは、KPC産生菌による非尿路感染症の望ましい治療の選択肢である。NDMやその他のメタロ-β-ラクタマーゼ産生CRE感染症に対しては、Ceftazidime-avibactamとアズトレオナムの併用療法、またはCefiderocolの単剤療法が望ましい。Ceftazidime-avibactamは、OXA-48産生CRE感染症の望ましい。
根拠:カルバペネマーゼの詳細が不明な場合KPC産生として対応するのは合理的である。薬剤間の比較研究は限られている。OXA-48が同定された場合は、Ceftazidime-avibactamが望ましく、Cefiderocolが代替選択肢となる。Meropenem-vaborbactam、Imipenem-cylastatin-relebactamはOXA-48産生菌に対する活性は限られているか全くない。
質問6:CREによる感染症の治療にポリミキシンは使えるか?
推奨:CREによる感染症の治療にはポリミキシンBとコリスチンは避けるべきである。コリスチンは、CREによる単純性膀胱炎の最後の手段として考慮することができる。
根拠:ポリミキシンベースのレジメンはその他と比べて死亡率と腎毒性の増加が示されている。CLSIではポリミキシンの臨床的有用性とin vitroの感受性の正確性への懸念から感受性カテゴリーが排除されている。ポリミキシンBは非腎性クリアランスのためCRE膀胱炎の治療に用いるべきではない。
質問7:CREによる感染症の治療における併用療法の位置づけは?
推奨:抗菌薬の併用療法(アミノグリコシドかフルオロキノロンかポリミキシンとβ-ラクタム薬との併用)は、CREによる感染症の治療にはルーチンでは推奨しない。
根拠:有効治療の可能性を広げるために経験的治療で併用療法をすることは合理的だが、β-ラクタム系薬がin vitroで活性を示した後に併用療法を継続してもそれ以上の有益性が得られるというデータはなく、むしろ有害事象の可能性を高める。併用療法よりCeftazidime-avibactam、Meropenem-vaborbactam、Imipenem-cylastatin-relebactamに付加価値があることは示されていない。これらの単剤治療とこれらを含む併用療法を比較したデータはない。アミノグリコシド、フルオロキノロン、ポリミキシンに関する既知の毒性に基づき、望ましいβ-ラクタム系薬に活性がある際は併用療法を推奨しない。
<感想>
CREとなると中規模市中病院ではあまり見かけないかもしれません。メロペネムについては,2g q8hの高用量かつ長時間投与(extended infusion)を行う施設はほとんど見かけないかと思います。「コリスチンは、CREによる単純性膀胱炎の最後の手段として考慮することができる」なんていう記載は何とも現実味のない想定のように思えてしまいますが米国ではしばしば遭遇する事態なのでしょうか。
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