将来何になりたいの? #6
YUTAという名前は
ここでは覚えやすい名前で
アメリカのユタ州を連想するらしく
自然に僕の名前もユウタでなく
ユタになっていて
街のショッピングセンターに行けば
伝言掲示板に
ボスの奥さんやミックの奥さんが
もしユタが街に居るなら
何時にここで拾うわよ。
なんてメッセージが貼られていて
お陰で大量の買い物をしても
この頃には歩いて帰る心配は
なくなっていた。
僕がいつも買うのは、
お米(ボソボソしたやつ)
パン・玉子・牛乳・ハムとチーズと
カップラーメンくらい。
あとは、歯磨き粉とか
シャンプーとかの日用品。
野菜の摂取は、ボスの奥さんに任せていた。
ある日、ボスの奥さんに
日本食を食べてみたいと言われ
試しに牛丼を作ってみたのだけれど
美味しくなかったのか
それからは一度も頼まれていない。。
お年頃のボスの息子ウェインは
親から少しでも離れたくて
僕の家に遊びに来るようになり
ボスも僕の家だと安心するらしく
週末は泊まっていくことも。
将来は何になりたいとか
彼女はいるのかとか
少し悪ぶってみたり
普通の高校生の会話を楽しむ中で
ウェインは時々
歯のないミックの話をする。
僕はミックみたいには
なりたくないんだ。
だから勉強してこの街を出て
将来はジャーナリストになって
色々な国に行きたい。
もしかしたら
きっと、ボスやボスの奥さんから
そう言われているのかもしれない、
勉強しないとミックみたいになるよ。
と。
けど、僕はミックが好きだった。
僕がトラクターの運転を誤って
納屋に突っ込んだ時も
バイクの運転で滑って
ボスお家の塀に穴を開けたときも
落ち込んでいる僕をみて
FIX VERY EASY とだけ言って
黙々と直してくれている。
どんな時も寡黙に
僕を支えてくれているミック。
ミックがなんだか悪く言われている
そんな気がして
とても悲しい気持ちになったりもした。
この街に来て、僕も何度か
将来何になりたいの?
と聞かれたのだけど
もし僕に、
将来に明白なものがあったら
この街にはいない気がしていた。
受験とか就活とか、そして仕事とか。
16歳の僕がこの先に思い浮かぶものに
想像だけで疲れてしまった。
だから一度逃げたかった。
そんな理由でこの地まで
来ていたのかもしれない。
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