見出し画像

辺境の地で #1

私にとってオーストラリアは、
ちょっと思い入れのある国で
実は、中学を卒業した
16歳ぐらいの頃から
オーストラリアの山奥で
一人暮らしをしておりました。

当たり前ですが
インターネットなんて存在せず
携帯もテレビなんてものもない。
これぞ、山の中でポツンと
一人暮らしです。

窓から外を覗いても
人が見える訳もなく
家の外に出ても
人が歩いている訳でもない。
数日間、人を一人も見なかった、
誰とも喋らなかった。
なんて日が当たり前の様に
続くような場所。

私、最初は鏡と話しておりました。
暖炉の火を眺めていたら
1日が終わる、なんて事も。

午前中に飲み物を買いに
街まで歩いて出ても
帰りは夕方近くになるような場所で
ヒッチハイクの真似をしてみても
中指を立てられるだけで
誰も拾ってはくれない。
荷物を持っての帰り道は
かなり酷でした。

なぜ、そんな場所に住んだのかって?
ただの怖いもの知らずだったのでしょう。

街に出れば、
初めてみるアジア人に
皆んなが振り返り
若者は必ずジャッキーチェンの
真似をして僕を揶揄い
お肉屋さんの前を歩けば
生肉を投げつけられる。

これは
ヤバいところに来てしまった。。
なんて落ち込むこともしばしば。

そんな、ある日のこと、
僕の家と街の間に
もう何年も使われていないであろう
古い競馬場があったのですが
そこの解体工事の仕事を
手伝えることになりました。

仕事内容は、
競馬場の全てのフェンスを剥がし
木の杭を全て抜いて土地を平すこと。
時間は、朝8時から夕日が出るまでの
週5日間。

仕事初日は、
要らないデニムとトレーナーに
コンバースを履いて
まずはボスにご挨拶。

ですが、ボスから頂いた言葉は、
昼休憩まで端で見ていろ。
仕事に参加することすらできず
ただただ皆んなが働いている姿を
遠く眺めるだけとなりました。

僕以外に働いているのは、
ボスを含めて僅か3人。
3人とも僕の3倍以上はあるであろう
太い腕には刺青だらけ。

左からボス・サイモン・ミック

元猟師のボスのケビン。
まだ30代なのに歯がない
元トラック運転手のミック。
そして、たまに来るちょっと
イケメンなフリーター・サイモン。

そんな3人の男達に混じって
このもやしの様なアジア人に
何ができるのであろうか
と考えながら仕事ぶりを眺めていると
昼休憩に戻ったボスのケビンに
車に乗れと言われ
連れて行かれたのは、作業着屋さん。

僕の要らないデニムとトレーナーは
ボスには余所行きに見えたようで
だぼだぼの古着のツナギと
中古のワークブーツを購入し

これに着替えろ
あと、腕時計も外せ、と。

ここから僕の本当の
オーストラリアン・ライフ
が始まりました。

作業内容は至って簡単。
杭に巻いてあるフェンスを
指の関節がおかしくなるまで
手作業で剥がしていき
剥がしたフェンスを手で丸める。

それを永遠と朝から
真っ赤な夕日が出る時間まで。

言葉も何も要らない作業で
僕的には安心なのだが
何か効率の良い方法は
ないのであろうか、、
とも。

永遠と指先と腕力だけで
フェンスを剥がす毎日。
お陰で手は傷だらけになりました。

1日の終わりは必ず夕日と共に
砂糖がいっぱい入った
甘いコーヒーを飲み
真っ赤に染まる空を眺めながら
タバコを吸う。

これが、彼らのワークスタイル。

競馬場から見る夕日


段々と仕事にも馴染んで
皆んなとも打ち解けてきたと同時に
ボスの家に夕飯に呼ばれるようになり
いつの頃からか夕飯は必ずボスの家で
食べさせてもらう様になりました。

左からビキ・ウェイン・ピーター・ボス

ボスの家には3人子供がいて
全員がサーファー。
一人は後に有名なプロサーファーに。
僕と同い年の息子も居て
名前がウェイン。

ウェインとは、
お互いコミュニケーションを取ろうと
頑張るのですが
実は、同世代との
コミュニケーションが一番難しい。

そんな僕達を見かねたボスが、
今度の週末に一緒に街にでも
行ってこいと。

あれ、、、どうしたものか。。
あまり気が進まない。。

今まで大人が気を遣って
成り立っていた
オーストラリア人との
コミュニケーション。
でも今度は、いつもと違う
同い年とのコミュニケーション。

仕事では決まった単語しか
使わないけど
今回は、会話せざるを得ない
環境になるのか。。。

そんな僕の心配を他所にウェインは
ボスの車が使えると喜んでいる。

もう流れに任せるか。

そんなウェインとの街ブラ当日
僕は仕事初日と同じ
要らないデニムとトレーナーに
コンバース。
ウェインは、ヨレヨレの短パンに
パーカーにビーチサンダル。

思っていたよりも話は弾み
殆ど音楽の話でドライブを楽しみ
街にあるファーストフード店へ。

しかし
そこで僕は街の若者からいつもの
ジャッキーチェン攻撃を受けるのです。
歩いていてもジャッキーと
声を掛けられカンフーの物真似。

しかも、それは皆んな
ウェインの同級生。
そう、この街には
学校は一つしかないのです。

ウェインもまた、
何でアジア人なんか連れてるんだよ?
と、声をかけられる始末。

ジャッキーと呼ばれる僕を見て
申し訳なさそうに下を向くウェイン。
気にするな、と、苦笑いをする僕。

帰りの車は、行きとは違った
静かなドライブとなり
それからウェインと街に行くことは
暫くなくなりました。

そんな街で唯一のアジア人が
ある日この閉鎖的な街に
少しだけ溶け込む事件が起きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?