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医専で浪人した話④入学編Part2

入学式の続きです。

さて、入学式とは言いましたが、予備校の入学式とは大変おめでたい。これは公開処刑というべきかもしれません。

講師陣の説明が終わり、一年使う教材が配られました。

数学、英語、物理、化学と、全部オリジナルテキストでした。あとは市販の参考書がいくつか配られました。
Z会の熟語帳みたいなものをもらいましたが、一度も触らず。まあそういうこともあります。

ページをめくってみると、内容は医学部の過去問と旧帝の過去問と他みたいな内容でした。

さらっと説明すると、医専の授業は講師の実力で激重問題をねじ込んでいく。そんな感じです。1時間かけて1題を解説してみたり。

まあ、春季講習で東大の過去問とかやっていたので、先生の趣味とかもあるのかもしれません。母校に引っ張られがち。でも、自分の母校に誇りを持ってるのは素晴らしいですよね。母校がこんな問題を出していて〜なんて話を聞いていると、自然に笑顔になってきます。入試に捧げる情熱を感じます。

受験に捧げる一生も面白いかもしれません。

そういえば、小学校の英語の授業でなんでこんなわからないことをするのかわからなくなってしまったことを思い出しました。

僕には記憶のない時代から英語の家庭教師がいて、英語は僕の一部でした。そういうわけで英語教育に疑問を感じて、英語の先生になりたいなぁなんて思ってた時期があったなぁとか思い出して懐かしくなりました。

そうそう、母校といえば僕にもあります。
一言で表現するならばゴミ捨て場。
とても汚い。
魑魅魍魎が跋扈する世界で6年も過ごしてしまった僕は、もう取り返しのつかないところまで達してしまいました。僕の衛生観念が一周して潔癖気味になったのはきっと母校のおかげ。綺麗な医者になりたい。

さて、教材を一通り配り終えると、視界が埋まるほどの山ができていました。教室もずいぶん狭くなったなぁと感心します。一瞬だけ例の景色がフラッシュバック。
見た感じ一問一文がまあまあ重いはずなんですが、割とありえない量の教材が積み重なります。向こう一年を視覚的に見せつけられ、少しだけ実感が湧きました。

この日は山積した教材をロッカーに押し込んで帰るだけなんですが、飽きてしまった僕はここで前の生徒に話しかけます。

そうですね、彼はK君とします。

Kは極右の日本男児です。
どうやら彼は再受験生で、背水の陣でここにいるようでした。僕は上の空😶‍🌫️

印象としては、なんだか真面目そう。(罠)
僕は彼から堅実な印象を受けました。(大罠)
彼は家業を継ぐべく歯学部に通っていて、結局医学部に行きたくなったようです。

みなさんご存知かと思うんですが、私立の歯学部って多分医学部よりもきらきらしてますよね。
学費も私医より高いし。ふわふわしてます。上流。

なかなか面白い話を聞いて歯学部あるあるに釣られた僕はすぐに彼と打ち解けました。

幸先良くナイスなフレンドをメイクしてハッピーな僕は、隣のガールズに話しかけます。

そうですね、彼女はタカミヤさん(仮名)とします。

タカミヤさんはよく笑う女性で愛想がいい。
講師たちとも既に仲が良いようで、入学式でもよく茶々を入れていました。

彼女はいわばツッコミ担当。このクラスを支えてくれます。というか、個性が暴れ散らかす医専には、彼女くらい純粋な存在が必要です。

またしても良い友を獲得してしまった。


そして、タカミヤさんの奥にはお嬢がいました。

何を隠そう、このお嬢こそが医専で1,2を争う問題児で、僕たちは散々振り回されてしまいます。

お嬢はなんというかパワー系で、理(ことわり)を破壊してしまいます。

いやそうはならんやろ。この人に論理は通用しない。言語特有の、「そういうもの」という概念が理解できず、逐一お気持ちを表明してしまいます。

「どうしてですかぁ🥺」
「えぇ〜‼️」

これはお嬢の口癖です。しかしメリトクラシー社会の頂点に位置し、美貌と美声と圧倒的自己肯定感を兼ね備えた彼女は無敵。敗北を知らない。

彼女の前では、知性の敗北すらも敗北した。

いや数学は別でよかった。
(一年後、別室はなんと全員落ちてしまうのですが、これはお嬢を無下にした報いかもしれません。お嬢恐るべし)

彼女と受けた英語は、僕にトートロジーを強く植え付けた。鯨は魚じゃないから鯨は魚じゃないんだよ。わかれ。

She is stupid because she is stupid. That’s it.

彼女は深い闇を身に宿していた。

Kとガールズの計3人と知り合った少し後、目をつけていた面白そうな二人組が化粧室へ向かうのを見て、僕は後を追っていた。

後追いで化粧室に入り、なんかケミカルな匂いがするなぁとか思っていると、突然個室の扉が勢いよく開いた。
振り向くと、便座に片足をかけた非行青年達が僕を真っ直ぐに見つめていた。

彼達の足は水浸しだった。

入学編、完。
つづく。

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