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映画「マネーショート」から考察するリーマンショックの原因の本質と現在のコロナ相場の類似点と相違点

映画「マネーショート」の要約

物語は2008年9月15日に投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻し、その影響が世界経済に大きな打撃を与えた、いわゆるリーマンショックに至るまでのアメリカ金融業界を周到に描いている。2007年アメリカの住宅バブルの崩壊に起因した、サブプライム住宅ローン債権やその他の債権の資産価格の暴落とその経緯を、犯罪まがいに利用して利益を上げていた金融機関と、その内情に気づきCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)債務不履行にかける保険のようなもので、大儲けをした一部のトレーダーを対立軸にストーリーが組み立てられている。
今回は、この映画からリーマンショックの原因の本質と現在のコロナ相場の類似点と相違点について考える。

リーマンショックの原因の本質

サブプライムローンとは、貧乏人にも住宅を買えるようにしたローンの手法であり、金融機関はそのリスクを証券化しCDOという商品を作ることでリスクヘッジをしていた。CDOとは、優良な債権とサブプライムのようなリスク債権を組み合わせた金融商品のことで、住宅バブルの間は収入の少ない人でも債務不履行に陥ることがないと多くの人々が考えていたため、買い手は多大な利益を得ていた。
そして、金融機関はもっとCDOを売ることができないかと考えた。このような経緯で作られたのが、債権のリスクを対象にした保険のような金融商品、CDSである。ある債権が不履行になるかどうかを賭ける商品であるため、元になるローンを対象にして無限にコピーを作り出すことができる、これがCDSの特徴だ。当時のアメリカの住宅ローン証券の発行額は、約100兆円程度であった。しかしCDSの発行額は世界のGDPの総額に匹敵する、6千兆円という巨大な額にまで膨れ上がっていた。
その結果、2008年に住宅バブルが崩壊したことで連鎖的にその影響が拡大し、世界経済に大きな打撃を与えたのだ。これがリーマンショックの概要である。リーマンショックの原因は連鎖的に作用するCDSに焦点が当てられることが多い。だが、本質的な原因はリスクの高いサブプライムローンを含むCDOを多くのトレーダーが正確に評価できなかったことにあると言える。

バリュエーションの重要性

リーマンショックの本質的な原因はリスクの高いサブプライムローンを含むCDOを多くのトレーダーが正確に評価できなかったことにあると上記したが、CDSにもまた同じことが言える。貧乏人が家を買うのは借金を返せなくなる恐れがあるためハイリスクなことだが、当時は家を売れば買った時より高値で売れると言われていたため、多くの人が問題視していなかった。金融機関は、貧乏人に貸したローンが返済不能になった時に備えたローンの保険、すなわちCDSを用意していた。もしローンが返済不能でも、CDSを買っていれば返済不能な分が補償される。しかし、当時の金融機関は「バブルはいつまでも続く」と考えていたため、返済不能リスクが過小評価されており、実際のところCDSは1/200という破格の安さで売られていた。これはつまり、5千円のCDSを買えば、ローンが返済不能になった場合100万円が補償されることになるのだ。
このように、リスクを過小評価していたことがリーマンショックの本質的な原因であり、正確なバリュエーションが重要であると言える。

コロナ相場との比較

2020年のコロナショックと2008年のリーマンショックを比較し、その類似点と相違点を考える。
類似点は言うまでもなく、二つのショックが景気後退を招いた原因であることだ。リーマンショックは金融機関の危機、コロナショックはウイルスとその原因は異なるが、実質・名目GDPの両方が大きく減少しており、二つのショックが与えた影響の大きさを物語っている。
この二つのショックによる景気後退の下でも、大きな相違点がある。それは、ショック後における株価回復の早さだ。日経平均株価を振り返ると、リーマンショックはその暴落後、以前の株価を越えるまでに約5年要していた。一方で、コロナショックはその暴落後、以前の株価を超えるまでに1年もかからなかった。この要因は二つ目の相違点、財政出動と金融緩和の規模の違いにあると考えられる。コロナショック後は各国政府が大規模な財政出動を行っており、各国の政府債務拡大幅はリーマンショックを受けた2009年の約2倍にまで及んでいる。また日本株の場合、日銀によるETFの買入れ政策を無視することはできない。
リーマンショック後は世界的な金融規制が敷かれ、健全性が担保された市場が運営されているように見える。しかし、金融も人の営む行為である以上完全ではない、いつかまた無力な一般市民を巻き込んだ悲劇が再び訪れるかも知れない。日銀が必死に日本経済のハリボテを取り繕っている現状(日銀のETF購入政策)を考えると、他人事じゃないと思わざるを得ない。
このような経済活動の虚構を理解するためにも、マクロ・ミクロの両方の視点を持ち、世の中を俯瞰的に捉える能力が必要になってくるだろう。

まとめ

・リーマンショックの本質的な原因は、リスクの過小評価であり、正確なバリュエーションの重要性を教えてくれた。
・経済活動の虚構を見破るためにも、映画の最初に出てくるWhat gets us into trouble is not what we don’t know. It’s what we know for sure that just ain’t so. という言葉を忘れてはならない。

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