客観性に欠けた感情モンスターに負けないように
柳原 至門
東京大学 経済学部 金融学科 4年
はじめに
ご覧になっていただきありがとうございます。初めましての方は初めまして、柳原至門と申します。
熱意高め、負けず嫌い。一方で、責任感を感じやすく、落ち込みやすい。そんな感情に左右されやすい人間がポートフォリオゲームに挑んだ時、何を感じ、何を学んだのかをお伝えできればと思います。
ポートフォリオゲームとは、各チーム5人×5チームが、所定のルールのもと学生のみで株式を運用し、4ヶ月後の最終的な結果で勝利を競う非常に挑戦的なカリキュラムの一つです。講師からは最低限考慮すべき数字の扱い方を講義で教わり、必要な時には質問もし放題。また、各チームのチームメイトは学年も専門分野も性格もバラバラ。特殊な条件下ではありますが、学生は企業分析やテクニカル分析を学びながら、日々戦略を立てていきました。
「熱意」をメインの武器とするリスクテイカーの危うさ
チームには株式運用の経験者はいませんでしたが、習った指標をスクリーニング項目として組み替えてみたり、課金した四季報オンラインで企業分析をして頻繁にミーティングを重ねることで、少しでも多くの経験を積みながらチーム一丸となって貪欲に勝利を目指していました。
その中でも、チームリーダーに選ばれた自分は誰よりも頑張らねばという思いで試行錯誤していました。毎日市場が開く前から掲示板などで情報を集め、9時に取引が始まってから取引終了の15時まで常に株価をチェックし、その後も関連するニュースを探してすぐにグループに共有するなど、今振り返ると「不器用な熱意」ではありましたが、日々励んでいたことでチームメイトもついてきてくれていました。
その分、例えばストップ高銘柄を引き当てた時には人一倍喜び、逆に損切りを少しでも失敗すると酷く落ち込んだりと、一喜一憂してばかりの日々でした。この考え方・状態が後に大きく足を引っ張ることになるとはその時はまだ気づかず、当時はただただ必死にリスクと対峙し戦えているつもりでいた覚えがあります。
「自分のやり方」に過剰な信頼を抱いた時に生まれた隙
先にネタバレになってしまいますが、自分のチームは緑色のグラフの動き(グラフ①参照)をしていました。ボラティリティが高めの銘柄で頻繁にポートフォリオを組み変えていたため、常にグラフはガタガタで波瀾万丈ジェットコースター。
自分達が戦略を立てても、マクロ的なサプライズがあるとその戦略は簡単に打ち砕かれること、そして、それはなぜ打ち砕かれてしまったのか、短期的なものなのか、などなどチームで振り返りながらPDCAサイクルを回す。その中で「自分のやり方」というのが段々形作られてきていたものの、結果がついてこない状態が途中まで続いていました。
転換期を迎えたのは、中盤のどん底から急上昇した勝負後半。途中大きく落ち込んでしまった失敗を踏まえながら丁寧な分析に努めなんとか1位に戻れたため、自分の中でこの逆転は大きな自信になりました。その後も丁寧なアプローチを続けるきっかけになればよかったのですが、「自分のやり方は正しかったのだ。自分の直観を信じれば大丈夫。」という変な自信に繋がってしまったのもこの時でした。
感情モンスターは常に自分の中に
圧倒的な差をつけて1位に躍り出たのも束の間。2月に入ってからは各社の四半期決算短信が連日公表されていたのもあり、戦い方に大きな変化がありました。
「『噂で買って事実で売れ』と言われるくらいなのだから、噂による過熱感に便乗しながら短期間で乗り換えるサイクルを回せばいいのでは」
まさに博打。自分たちなりのスクリーニングこそあれど、講師から教わったはずのリスク管理やボラティリティの考え方、その他知識として学んだはずのことはそっちのけで、短時間での浅い企業分析と市場の感情に委ねた運任せの戦い方になっていました。
当時は完全に感情に支配されていたと思います。客観的事実に基づく裏付けが少ない状態で自分の直観を信じ、感情に左右された議論で意思決定をしていく。リーダーの自分が完全に支配されていたため、チームメイトの良さを引き出すこともできず、悪い意味でチームを巻き込んでしまったと思います。
自分の中にいた感情モンスターが暴れ出てきた感覚は今でも忘れられません。そうなってしまっては後は堕ちていくのみ。博打で失敗しそれを取り戻すようにまた博打に出る。自爆する形でゲームに負けて対戦を終えたのは、今でこそ必要な経験だったと思えるものの、苦い経験となりました。
リスクが多いストーリーを生きるからこそ、自分でハードモードにしないために
黒のグラフは、ゲーム開始時に5期生全員による投票の上位3銘柄を、適切にリスク管理した上で4ヶ月「放置」した時の動きです(グラフ②参照)。リターンとしては+31.62%。
要は、毎日株価と睨めっこして一喜一憂する必要なんてなかった。最初に時間をかけて、丁寧に、客観的な事実をもとにリサーチをしていれば、途中で予想外の事象が発生してもブレることのない軸をしっかり持つことができたし、結果もついてきたということです。
ポートフォリオゲームは、自分達学生は現実では1円も失うことなく終えられるという、リスクを負うことのないゲームではありました。ただ、もし今回のように感情モンスターに襲われながら自分や会社の資金で投資をしたり、人生をかけて起業していたらと思うと非常にゾッとするとともに、キャリアを歩む前に学ぶことができたのは大変ありがたいことだったと思います。
5年後、10年後を100%予想できる人は当然ですが存在しません。それこそ、明日の自分についてですら完全に予想できる人もなかなかいません。そんな不確実な世界でリスクを取っていく上で、客観性や軸がいかに重要か。客観による訓練を踏まえた上でようやく主観・直観が武器として洗練されるのだと強く痛感した経験になりました。
おわりに
IAを卒業してからも、今回の経験を何度も振り返ってきました。この記事では書ききれなかった思いも沢山ありますし、同期の皆も各々自分なりの深い学びを得られたと思うので、それだけ意義のある機会を提供してくださったのだと改めて森山氏をはじめIAの講師陣・運営には感謝の念に尽きません。
他人や社会に対して盲目的に期待してしまうがゆえに感情の振れ幅も大きくなりがちな自分が、客観性の重要さを身をもって学んだ4ヶ月。短いようで非常に濃く、人生を見直す貴重な期間になりました。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
これから長いストーリーを生きていくあなたが、自分の中に潜む感情モンスターに負けないように。そして、「客観性に基づく直観」を武器に、リスクと対峙し挑戦を続けられるように。自分の経験が誰かの武器を見直すきっかけになればと思います。