2024/7/9 ライブ当日記
先日、生まれて初めて大好きなバンドのライブに行ってきました。当時のことを忘れないように、備忘録として勢いのまま書き残します。また彼らに会えるように。
はやる気持ちが抑えきれず、開演の5時間前にはみなとみらいについてしまっていた。久しぶりのみなとみらいをうろうろ散歩でもしようかと思ったけれど、どうせならもう物販に並んでしまおう、と、13時過ぎにはぴあアリーナに到着した。昨日は暑さで体調を崩し、解散から10年ぶりに1日限りの復活を果たしたアイドルのライブにも行けなかった。が、今日は少し涼しくて助かった。海沿いなのも涼しい理由なのかしら。
物販に並んでいる最中、流石に時間を持て余してしまうことを憂慮してみなとみらい線直結のマークイズにある本屋さんで買った文庫本が思いのほか面白く(暇と退屈の倫理学というやつです)、物販に並ぶまでの時間を潰すことができた。たまに本から顔を上げると、様々な年齢層の観客、思い思いのグッズや青をベースにしたおしゃれ着を身につけた面々。みんなおれと同じバンドが好きで、はやる気持ちを抑えきれずに物販に並び、フォトスポットで写真をとるんだと思うとなんだかこの空間が愛おしく思えてきた。一人で来ている観客同士、なんとなく距離をとっているのも、内省的なこのバンドのファン同士という感じがして、うんうんそうだよな、と心の中で語りかけてしまう。
物販に並ぶにも整理券が必要で、物販が始まってからさらに1時間半ほど待って、ようやくおれの番がきた。Tシャツ、ステッカー、マフラータオル。Tシャツの黒はありきたりすぎるような気がしたし、かわいい青のTシャツもあったけれど汗染みが目立ちそうだと思ったので、白のTシャツを買った。白のTシャツは、今回のライブで使用されたバカでか赤字スピーカーを背面にプリントした、なかなかいかしたデザインだ。この3点で十分だと思っていたけれど、あと幾らか買うとトートバックももらえたので、マフラータオルをもう一本買った。なんぼあってもいいですからね。物販を終えたその足で近くのショッピングセンターのお手洗いを借りてTシャツに着替えると、薄手の生地のおかげで地肌が透けてしまっていたので、慌てて下着を着直した。
まだ開場までは時間がある。おやつを食べ、本を読み、本を読んで時間を過ごした。いい時間になってきたので、コンビニで缶ビールを買った。サッポロ黒ラベル。テラス席のイートイン(テラス席のイートイン?)でプルタブを引き、500mlをぐいぐいと飲む。少し体が熱くなると同時に、先程まで抑えていた気持ちが蘇る。あぁ、彼らにとうとう会えるんだよ!
サカナクションに出会ったのは小学生の頃、友達の家で遊びながら適当につけていたモード学園のテレビCMが流れた。一瞬で虜になった、というわけではない。ただ、頭に引っかかるあのサビ。二回、三回、聴くうちに画面の右下に「サカナクション」の文字。ようやく市民権を得たか、得ないかのYouTubeでサカナクションを検索した。聴いた。夜の踊り子。「テレビで聞いてる音楽と違う!」、小学生ながらそう感じたのを覚えている。彼らならではの内省的な雰囲気、難解な歌詞、心臓に訴えかけるようなノリのダンスロック。その後はとにかく彼らの音楽を聴きあさる日々だった。サカナクションを起点にして、フジファブリック、ゲスの極み乙女。、クリープハイプ、などなどなど。もう聴かなくなってしまったバンドも多いが、一日中音楽を聴きあさったあの日々は、今の自分を形作っているはずだ。その後、中学校では文化祭でバンドをやって大滑りし、高校では作曲に挫折し、大学ではCDショップでバイトをし、またサークルでバンドをし、共通の音楽の趣味で彼女を作り、別れ、作り、別れ、振り返ると、全てあの時、サカナクションがあのCMを手がけたことが、おれの人生の一つの分岐点だった。確実にそうだったのだ。
こんな思い入れがあるくせに、彼らの姿を直接観に来るのは、今回が初めてだった。中学、高校時代は部活動に明け暮れ、お小遣いもほとんどもらえず、大学に入ってからはコロナウイルスでことごとくライブが中止になった。そんなわけで、今回が初めてサカナクションのライブを観る機会になった。ようやく、ようやく、十数年越しに、サカナクションに会いにきたんだ!
缶ビールを飲み干す。少し雨がぱらついてきたので早めに会場に戻ることにした。開場まではまだ1時間近く残っていたが、お手洗いを済ませ、会場に向い、クロークに荷物を預けた。開場までの暇つぶしのため、念のためにポケットに忍ばせた文庫本はもはや読む気になれなかった。心拍数が上がるのはアルコールのせいだけではない。
SS席から順番に会場へ案内される。かろうじてS席に滑り込んだおれは、社会人になったらファンクラブに入会することを固く決意する。入場する。只者ではない雰囲気の中年男性とすれ違う(のちに野村社長であったと知る)。ブロック最前列に向かう。策にもたれる。少しステージからは斜めだけれど眺めは十分だ。どうなるんだろう、どうなってしまうんだろう、あのステージの上に、もうすぐ、憧れの、彼らがやってくる!!!
諸注意のアナウンスがされ、いよいよ会場が暗くなった。
遠くの嵐の音と雷雲の映像、突如Ame(B)のコーラス、土砂降りのイントロとともに、サカナクション復活を告げる映像!!!そして飛び出すサカナクション!!!とうとう、会いにきてしまった…!!!思わず、涙が出てきた。初めまして、サカナクション、お帰りなさい、サカナクション!!!
最初のブロックは、陽炎、アイデンティティ、ルーキー、Aoi、プラトー。サカナクションの復活を告げる疾走感あふれるキラーチューン達。これぞ、踊れるロックのサカナクション。
踊り疲れて肩が上がらなくなる頃に、ユリイカ、流線、ナイロンの糸、ネプトゥーネス、さよならはエモーション。内省的で、葛藤を抱えながらも、バンドとして音楽に真摯に向かう決意を感じさせるセットリスト。バンドとしてだけでなく、山口一郎自身の長い2年間の闘病生活を連想させられた。
「みんな一緒に踊れる?」。ホーリーダンスはカップリング曲ながら数ある楽曲の中でも屈指の人気を誇る。楽曲自体の完成度はもちろん、曲同士のつなぎもサカナクションの魅力の一つ(だと聞いてきました)。曲の繋ぎは続いたまま、しばらくメンバーの姿が消えた。突如ステージに降ろされたディスプレイが割れ、中に浮かぶサカナクションクラブ形態!バッハの旋律を夜に聞いたせいです。ネイティブダンサー。会場を一つにさせるダンスミュージック。そしてミュージック。曲名負けしない、音楽史に残る大サビは再びバンドセットで(よくMステで見てた演出!)。
最後のブロックは、ショック!、モス、新宝島。sakanaction以降のサカナクションを代表する、アフロビートや昭和歌謡の要素を取り入れた妖しくポップなロックチューン。これからも自由に、縦横無尽に、音楽界を泳ぎ続けるサカナクションの進化を期待させられた。
本編最後の曲は、忘れられないの。銀テープがバンドメンバーに降り注ぎ、より一層、彼らが輝いて見える。永遠にしたいこの夜を!散々汗と涙でぐしゃぐしゃになった目をマフラータオルで擦りながら、彼らの姿を焼き付けた。
アンコールは夜の踊り子と三日月サンセット。あの時おれの人生を変えた夜の踊り子と、サカナクション最初期の名曲を同時に聴くことができた。おれのためのアンコールか!?と思うほどに、最高のアンコール。本当に!ようやく!会いに来ましたよ。
アンコール途中のMCでは、山口一郎のこの2年間を主としたこれまでのこと、スタッフやメンバー、オーディエンスの感謝、そして今後の抱負が話された。メンバー同士の空気感、詩的な楽曲の歌詞とは異なりまっすぐ語られた山口一郎の言葉。
アンコール、本当の最後はシャンディガフ。優雅な1日の終わりを切り取ったような、フランス映画のエンドロールのような一曲。バンドの背後で流れるスタッフロールを眺めていると、まさに映画の超大作を見たような気持ちになってくる。さまざまな人々の支えがあってこそのサカナクション、サカナクションあってのおれ、おれも誰かの支えになれるんだろうか。
会場を出ると21時を回ったみなとみらいはまだ少し蒸し暑い。サカナクションは、バンドとして、葛藤を抱えて紆余曲折しながらも今日まで活動を続けてきてくれた。ダンサンブルなロック、内省的な歌詞、クラブミュージックとの融合、sakanactionという超大作を経てさらにレベルアップした楽曲たち。その全てを余すことなく見せてくれた本公演、「SAKANAQUARIUM 2024 “turn”」は、サカナクションそのものを語った一本の自伝的映画のようであった。
完全復活を遂げたサカナクションは、また、来年、再来年、ライブやフェス、製作を通じて彼ららしさを洗練させつつも、自由に音楽活動を続けてくれるはずだ。どうか無理せずに!ゆっくりと!一ファンからのエールを送らせていただきたい。
おれ自身にとっても、今年は学生最後の年(になるはず)であり、一つの人生の転換点を迎えようとしている。今、彼らの音楽に真摯に向き合う姿勢を受け、改めておれの人生の指針を取り戻すことができるかもしれないと感じている。本公演のセットリストを並べたプレイリストを聴いて、思索に耽る。月の光に照らされながら。
追記
- 誤字修正 (7月12日1時)
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