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⑥消えない疑いと別れ

今朝もまた、バンバンバンと木の扉を叩くような大きな音が頭の上で聞こえ目が覚めた。

目が覚めている間、考えることと言えば彼の事ばかりで、一方的に連絡を断っている事で、彼を苦しめていることに申し訳ないと思う反面、私がいなくなれば、彼は元の生活に戻れるのだと言う、勝手な安堵感を感じていた。この私の安堵感とは、憎しみ苦しみ悲しみ虚しさ、そんな幾つもの複雑な感情を含んだ思いだ。

私は今衝動に駆られている。会いたいと言う思いとは違った感覚で、〝あそこへ行けば会えるかもしれない〟と言う場所がある。無断欠勤を続けている私は時間が自由にある。〝確かめに行こうか‥〟と言う思いが沸々と湧いてくる。開店時間にお店に行けば必ず会えるにも関わらず。。。
実はこの考えは、彼に対する〝疑い〟以外の何者でもない。
彼とは今年中には入籍しようと約束をしていた。それには条件があった。彼の離婚が成立する事だ。私は彼との結婚をずっと望んでいて、その話が出てからもう3年になる。

3年前の年末が近づく頃、お店で彼がお客さんと何やらヒソヒソと話していた。私は、気になりながらも、聞かない様に他の何かに没頭しようとしていた。そんな私を彼はチラチラと見ながら話をしていたのだった。
私と彼の関係は不倫。私はすでに離婚していた。それまで年越しを一緒に過ごした事はない。そして彼はこの頃はまだ、離婚する理由がないと言っていた。
大晦日の夜遅く、突然彼から電話がかかって来た。同時に、雪の中で同僚と肩を組む写真が送られて来て、「北海道にきている。」と言った。同僚と2人テレビ電話で楽しそうだった。奥さんも一緒か尋ねると2人で来ていると話した。旅行の事は何となく分かっていたけど、行く前に話して欲しかった、と伝え、「連絡してくれてありがとう。」と電話を終えた。彼らはカウントダウンのイベントに参加しているとかで、電話越しでの年越しも叶わなかった。電話を切っても、モヤモヤしていた。
それまでも彼には何度も話したが、年末年始は嫌いだ。苦しくて仕方がない。一緒にいられない事で、彼の家族との生活を想像してしまうから。彼は奥さんと犬と暮らしていて、子供はいない。子供がいない理由は、彼は奥さんが夫婦の営みを嫌うからだと話していた事があるが、本当の所は分からない。
そして彼が大阪に戻り始めて会えた日、車のバックミラーに貝殻がぶら下がっていた。この前の年、私も彼に北海道に連れて行ってもらい、同じ物を貰ったのでどこで貰ったかはすぐにわかった。どうしてここにぶら下げてあるのか?すぐに聞いた。「ガソリンスタンドの人がかけてくれた」と言う。私は疑ってしまった。ガソリンスタンドの人がそんな事する?私達2人の時はそんなそぶり全くなかったのに。だからこれをかけたのは奥さんではないのか?と考えたのだった。
モヤモヤする気持ちをしばらくの間我慢していたが、ある時彼のお店で彼と北海道に行ったスタッフに尋ねた。「年越しの北海道の旅行は奥さんも一緒やったの?」「一緒でしたよ。仲良かったですよ。」とあっさりと聞き出せた。ショックだった。スタッフの言う事と、彼の言う事、どちらを信じるの?と言う話になる。しかし私の中では、そのスタッフは嘘をつけないタイプの人。多分本当だ、と思い込んだ。
後に彼に問いただしたら、荷物を運んだりするのに空港までは来てもらったけど一緒には行ってないと言い張る。こうやって、確信の持てない証言だけを集めても、話は進む事はない。私は諦める事にした。
でも、その後も私の中のモヤモヤは消えず、どうしても許せなくて、この時に本気で【別れ】を彼に告げたのだった。この時、一方的にラインしただけで話し合う事はなかったが返事も来なかったし、私の心は決まっていた。彼を納得させるためには次の〝彼氏〟を用意して戻れないことを伝えるしか無いと考えていた。当時に私が働いていた仕事場のある男の子をターゲットにし、その男の子に急接近し無理やりに付き合うことを承諾してもらった。私の事情も話した。理解してもらうためにはそれしか無いからと。
そしてその男の子と付き合う事になった。

✳︎最後まで読んでくださりありがとうございました。
この続きはまた次回で。

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