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【不妊治療】

付き合った当初から、彼は会うたびに「子供を産んで欲しい」と冗談混じりに話していた。彼には子供がいなかった。〝どんな事でも即実行〟そんな彼にも、願っても叶わないことがあるんだと、運命を考えた。「私はもう自然には妊娠しないと思うから、どこかで若い子に産んでもらい〜。」などと私も冗談混じりに、でも本気でそれでも良いと思っていた。本気で彼の遺伝子は残すべきだと思っていた。

その時、私は彼の才能にすでに惚れ込んでいた。
その時私は43歳。子供を授かる年齢的にはもう遅すぎる。だけどもし授かることが出来たら、、と彼に不妊治療を受けたいと話した。彼は基本的には人工的な事を快く思っていなかったと思うが、何も言わずすぐに快く理解してもらえた。そして事実婚でも受けられる病院で治療を受けることになった。

まずは彼は精子の検査、私はホルモンのバランス等、2人の基本的な検査を受ける。その後の治療方針として、私は真っ先に顕微授精を申し出た。私は年齢的にも残された時間は限られていた。
顕微授精とは卵子と精子を取り出して顕微鏡の上で合体させ授精卵を作り出し、ある程度育ててから育ちの良い形の良いものを子宮内に戻すと言う方法である。
そもそも卵子とは、本来は毎月右左どちらかの卵巣から一つだけ排卵されるものである。しかし不妊治療ではまず良い卵子をたくさん摂るために排卵誘発剤というものを使用する。その誘発剤により卵巣内で造られる卵子の数が増えるのだ。生理周期に合わせてホルモン療法と毎日注射を受けないかなければならない。卵巣は通常よりも多くの卵を包みやや大きく膨らんだ状態だ。そして卵巣に育った幾つもの卵を取り出す手術を採卵と言う。採卵当日には男性の採れたての精子を持って行くか、一緒に行って病院の一室で採ってもらうのだ。彼は一緒に行って、その部屋で頑張ってくれた。
ちなみにこの部屋には男性に喜ばれるようなDVDとプレイヤーが用意されている1.5畳ほどの個室である。彼は後に、色々考えたらなかなか出せなかった💦と漏らしていた。彼は感情や感覚よりも頭が先に働いてしまうからその理由もよくわかる。

卵巣内にたくさん育った卵子を手術で取り出すのが採卵である。それは全身麻酔で行われる。余談だが、麻酔をかける時〝一緒に10数えてくださいね、その途中で麻酔が効いてきます〟と言われます。その麻酔で何とか10数えようと思うが、必ず途中で堕ちてしまう。そんな無駄な抵抗をして麻酔の凄さを実感して楽しんでいた。

目が覚めると、現実に戻る。どんな卵子がいくつ取れたのか?帰るまでに取れた数と使えそうな数が知らされる。すでにここである程度の見通しが立つ。まず単純に数の問題で、使える卵子が多ければそれだけ良い受精卵が出来る確率は高くなる。それに加えて使えるものがないと言う、最悪の事態も想定しておかなくては、期待だけでは心が持たない。

この採卵を私は彼との為に3度した。

受精卵を体に戻すのは、1つ又は2つまで。多胎妊娠を防ぐ為である。卵子がたくさん採れて受精卵が2つ以上できた場合には、翌月まで凍結保存してもらえる。それには当然1日単位でお金が発生するが子供を望んでいる者にとって、それはお金に変えられない事なのだ。
私も彼の子供を授かる為に、出せるだけのお金を費やした。

約1年程頑張ったが、彼との子供を授かることは出来なかった。
彼との出会いは運命かもしれないと思っていたが、違ったのだと絶望した。
この時、私の中で、何かが壊れ変化していたと思う。
願っても努力しても叶わない事に生まれて初めてぶち当たり私は砕けていた。

その悔しさに彼が寄り添って一緒にいてくれたから、今までやってこれたようなものだった。

✳︎最後まで読んでくださりありがとうございます♪
今回は番外編です。


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