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【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第一部  第三話「瑠璃の悩み」


第三話「瑠璃の悩み」

太一が、

「このお店にデザイナーは必要ないんだけど、
アクセサリー販売してるし、
プロのデザイナーが一人いるといいよね」

と採用。

彼も瑠璃より五年あとに採用され、
共働きで現在は子供が一人いる。

「このお店を潰さないために、
新しい事にも挑戦しなきゃジリ貧だよね」

太一が笑うのを社員が顔を顰めて見た。

「笑い事じゃないですよ。
私達再就職できる年じゃないんですから」

瑠璃がため息まじりに言うと、
春木も頷いた。

「そうだよね。もう少し売上上げなきゃ。
なんか新しいデザイン考えないとね」

「私もなんか考えよ」

翠もマグカップを握って言った。

「そういえば瑠璃ちゃん、
家を相続したって言ってたでしょう。
今アパートだし、今度はそこから通うの? 」

太一が思い出したように聞いた。

「えっ? 家? いいな~」

翠と春木がうらやましそうに言う。

「都内のタワマンならね。
でも貰った家は、隣の県の小さな家なのよ。
通えないことはないけど、
遠くなっちゃうからどうしようか悩んでるの」

「そうだよね。だったら売ったら? 
それでこの近くで安いマンション買えばいいんじゃない? 」

美津子が言った。

「そうなんだけど。今は負動産て言うくらい価値なんてないのよ。
マンションなんて買えないわ。
十ヶ月以内だから、
今、不動産屋に相談してるの」

「そっか。この辺だったらまだ価値があるから売れるか」

「そうよ。どうせなら銀座の土地が欲しかったわ」

瑠璃が言い、皆で笑った。

今から二週間前――――――――

突然もらった一本の電話。

「あの、蒼川瑠璃さんでしょうか」

この一声に、

【とうとう私にもオレオレ詐欺が? 】

と驚いたが、
こっちの名前も番号も知っているし、
こんなに丁寧な詐欺師もいないだろう。

それとも新たな詐欺か? 

瑠璃が黙って考え込んでいたからか、
電話の向こうから声が流れてきた。

「あっ、すいません。
わたくし、伍代不動産の伍代と申します」

電話口の年配らしき女性はそういうと、

「実は亡くなったおばあ様の不動産の事で、
お電話いたしました」

「はっ? 」

瑠璃は驚きの余り言葉を失った。

どうやら私には祖母がいたらしい。

彼女は自分の持つ土地について、
その不動産屋に一任していたらしく、

「おばあ様の蒼川エリス様の、
各種契約などのお手続き、葬儀などは、
私共で全て執り行いましたが相続の事でお話が」

「あの、本当に私の祖母なんでしょうか。
親からは祖母がいるという話は聞いていませんが」

両親は瑠璃が大学生の時に事故で亡くなり大学を中退。

掛け捨て保険が二社かけられていたので、
それでなんとか葬式を済ませた。

親戚もおらず、
中退女子の就職などなかなか見つからず、
この会社でアルバイトをしていたおかげで、
先代が保証人となり安いアパートに引っ越し。

持っていたものは殆ど処分するしかなかった。



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八雲翔
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