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【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第六部  第八十三話「高木の訪問」

第八十三話「高木の訪問」

瑠璃がシアンと裏庭から出てくると、

一人の男性が門の近くに立っていた。

瑠璃より少し年齢は上か?

隙のない身のこなしから、

警察? 自衛官? と感じた。

誰? 

瑠璃は眉間にシワを寄せると、

男に近づいた。

「何か御用ですか? 」

「子供がいたんですね」

「は? 」

怪訝そうな顔で相手を見ると身構えた。

「蒼川エリスさんにお孫さんがいたとは、

私は知りませんでしたが、

一部の人間は知っていたようですね」

「はぁ、それが何か? 」

「いえね。いきなり監視対象から外されて、

私の仕事もなくなったので、

どんな人物なのか直接見てみたかっただけですよ」

高木が笑った。

何年も監視対象とされていた、

あの家に眠ると言われた三種の神器。

どこでも狙っていたはずが、

いきなり調査が打ち切りとなったのはひと月前の事だ。

一体何が起こったのか分からないまま、

本部は解散させられた。

石橋は元の仕事に戻され喜んでいたが、

高木は納得がいかずに調べていたところ、

上から全面中止命令が出た。

一体なぜ?

これ以上は自分の身の上が危険なこともあり、

納得がいかないままに、

違う部署に異動させられた。

瑠璃は男の話に、

相手の顔をよく観察した。

あっ!

そうか。監視カメラを設置した人物か。

もう危険はないと思い、すっかり忘れていた。

瑠璃は忌々し気な顔で相手を見た。

「その節はどうも。

国が室内に監視カメラを設置するなど、

考えてもいませんでしたので、

驚きましたよ」

「あなたはいつカメラに気が付いたんですか? 」

「なんでそう思うんですか? 」

「私が何年あの家を監視していたと思うんですか」

「命令とはいえ、大変でしたね。

で、何か分かりましたか? 」

「なにも。だから突然監視対象から外れたあなたに、

少し興味を持ったんです」

瑠璃はため息をついて笑った。

「それはご苦労様です。

ずっと見張られてたなら分かりますよね。

私の個人情報も全てご覧になったと思いますけど、

ただの会社員です。

老後の貯えもない私に、唯一祖母がこの家を残してくれて、

子供と二人暮らしていけることになりました。

家のお陰で犬も家族に出来ました」

「あれだけ調査していたのに、

子供の事だけは分かりませんでした」

「それはそちらのミスでしょう。私の責任ではありません。

他に用がないなら、これを最後にしてください」

「俺も訳の分からない仕事から解放されて、

ホッとしています。

俺達の間ではあなたは魔女だと噂されているんですよ。

でも今日、こうやってお話してると、

本当に魔女なんじゃないかと思えてきました。

どんな魔法を使ったのかは分かりませんが、

この先は何事も起こらないことを祈ってます。では」

高木はそれだけ言って去って行った。

彼もまた、三種の神器に振り回された一人なんだろう。

瑠璃はシアンを見ると、

「考えたらあの人も気の毒よね」

といって家の中に入った。


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八雲翔
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