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【連載小説】『お喋りな宝石たち』~竹から生まれし王子様~第二部 第十七話「魔法使い瑠璃?」




第十七話「魔法使い瑠璃?」

それからというもの、
瑠璃は妖精たちに特訓を受け、
老体にムチを打ち、
老眼にも負けず、筋肉痛にも打ち勝ち頑張った。

この年になって、
こんなことしてるなんて誰かに見られたら、
絶対危ない人だと思われる。

瑠璃は口をへの字にしながら、
ほぼ毎日訓練を続けさせられた。

お陰でひと月もすると、
ある程度使えるようになってきた。

会社でも体をほぐす動作が増え、

「最近、運動でも始めたの? 」

と美津子に聞かれた。

「車通勤になったから、
少し体を動かさないと運動不足になっちゃうでしょ」

「確かに」

春木もパソコンから顔をあげると、
両手をあげて上半身をほぐした。

瑠璃は先日不動産屋に顔を見せた後、
アパートの更新時期だったこともあり契約を解除し、
月極駐車場を探してもらった。

ついでに知り合いの中古車ディーラーを紹介してもらい、
値段にあう車を落札。

貯金を全部使い果たし、
略無一文で祖母の家へと引っ越しした。

引っ越し荷物も洋服と身の回りのものくらい。

あとはすべて処分した。

春木が車を出してくれ、
社長、翠、美津子までもやってきて、
瑠璃の家を値踏みしていた。

「ちょっとここまで距離はあるけど、
通えない距離じゃないもんね。
一時間かからなかったし、
ラッシュを回避すれば四、五十分で来れるんじゃないの」

翠がリビングに座るとテラスを見た。

「でしょう。ここには祖母の思いが詰まってるから、
一緒に過ごせなかった分、
少しずつ祖母の思い出と付き合っていこうかと思って」

瑠璃の話に太一が不思議そうに言った。

「お祖母さんは瑠璃ちゃんの存在を知ってたのに、
何で会おうとしなかったんだろうね。
一人暮らしだったなら、
尚更会いたかったと思うんだけどね」

「分からない。ただ、祖母の事は、
父からも聞かされてなかったから、
何か言えない事情があったのかも」

「そうか………」

瑠璃の話に太一も深く頷いた。

瑠璃はご苦労様と買ってきた引っ越しそばを、
リビングのテーブルに運んだ。

「悪いわね。私なんか何もしてないのに、
お昼も頂いちゃって」

美津子は笑うと美味しそう~と蓋を開けた。

近所には先日挨拶に行き、
日持ちする和菓子を配った。

向こう三軒両隣。

ここに住む以上自治会にも入ることになる。

戸建ての大変さをひしひしと感じていた。

「田舎はのんびりしてるって言うけど、
この辺は東京と変わらないね」

太一もそばを食べながら話した。

「そうね。都内から越してくる家族も多いんですって。
ここには祖母の代からの知り合いもいるので、
私としてはちょっと安心」

「そうだよね。まるっきり知らないってわけじゃないもんな」

春木も庭を眺めた。

「俺もさ。嫁に家が欲しいって言われてんだよね。
こうやって見ると戸建てってやっぱりいいな~」

「だったらローン組んで購入すれば? 」

翠が言った。

「春木君は今マンションだっけ? 」

「うん。うちは夫婦そろって一人っ子で、
実家も東京のマンション。
いずれはどちらかと同居になると思うんだよね」

春木が瑠璃を見た。

「同居になるなら家は必要ないもんね」

そんな話をしているとフォスが走る姿が見えた。

姿を消しているとはいえ、
座敷童がいるって噂になったらどうしよう。

「どうかした? 」

瑠璃が誰もいない部屋を見ている姿に美津子が聞いた。

「あっ、ごめん。何でもない。
ちょっとぼう~っとしちゃった」

瑠璃は笑うと、そばを食べた。



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