見出し画像

【読書雑感】モンゴル帝国関連

①を入手後、関連でいくつか読んだので書いてみました。


①「モンゴル帝国 草原のダイナミズムと女たち」楊 海英(現代新書)

女のいない遊牧民の歴史は成り立たない―。
モンゴル出身の著者による、女性の視点に立とうという試みのもと書かれたモンゴル帝国史(神話から帝国の中興期まで)。
その女性の力に注目した東西の学者たちの研究については、最初の章で列挙され、第2章からは著者のモンゴル帝国史がスタート。
「モンゴルの男たちはみなマザコンである」は、なかなかインパクトのある一言…。
チンギス・ハンも「マザコン」で恐妻家と強調され、母の教え(お叱り?)や妻の助言に耳を傾け、そして娘や息子の妻たち、恩ある女性たちの働きを重んじる面も語られる。
娘や妻たちは、同盟を結ぶ婚姻政策の担い手でもあるためなおさら大切にされる。通婚を断った理由が「(娘が)ブサイクだから」だった相手は怒って切ってるくらいだ(この相手もよくガマガエルみたいな顔って言ったな)。
帝国の後継者の決定に関わる話では妻同士、姉妹たち同士の協力関係も注目される。

代を重ね帝国拡大が止まって内部闘争が激しくなると、妃たちを脅威に感じるほど男たちの力や権威が弱まったのか、政治上の対立をした妃も対立したハーンの命で処刑された。
夫を殺され復讐を果たす妃や、幼い夫を支え再び帝国を勃興させた妃など強い女性たちの戦いにかなり筆が乗ってる感がありつつ、戦いに翻弄され泣くしかなかった妃の嘆きに注目し、妃の一人に仕え権謀数術で恨みを買った女性にも目を向ける。多くの歴史家は非難するが、彼女は激動のユーラシアを生きた典型的な女性である、と。

世界帝国成立に向けた征服戦争や武将たちの活躍等が読みたい方には不向き。しかし、帝国の中枢でその原動力となったのは数多の女性たちである。

「モンゴル軍のイギリス人使節」ガブリエル・ローナイ(角川選書・古書)

著者が丹念に資料にあたり特定した「キリスト教世界の裏切り者」となったあるイギリス人の数奇な運命を辿りつつ、十字軍遠征の実際やマグナカルタ憲章制定の裏事情、モンゴル軍猛攻の直撃を受けることになった東ヨーロッパ各国の悲劇、諸王国の混乱、チンギス・ハン生前の時代と西征を推し進めたモンゴル軍内の不和とその後の分裂の予兆など、当時の状況についても詳しく語る一冊。

ヨーロッパ側は被害を被ったとはいえ、モンゴル軍に征服された土地から奴隷として人びとを売りさばいたのはひそかに手を組んだジェノバとヴェネチア商人、肝心な時に教皇と皇帝が対立し、猛攻撃を受け苦しむ隣国をこれ幸とばかりに挟み撃ちし略奪する国も出て、極悪すぎて本当なのか疑いたくなる。
そして外交と交渉の席に座ったのが、問題のイギリス人。

マグナカルタ制定に関わったと推定される人間が、後ろ楯のない身であったが故にキリスト教社会から弾き出され、生きる場所が無くなり、その能力(語学力とヨーロッパ社会の知識、事情に通じてる)が西征を計画するモンゴル軍のリクルート条件に合致してしいたため、あっという間に取り込まれる。
時代や国が違ってもありそうな成り行き。
というか、プレスター・ジョン伝説ここで出てくるか…。モンゴル高原に着いて衝撃受けたろうな。

しかしながら、モンゴル帝国の使節となり、その上ヨーロッパ勢に捕縛された後、全権大使だし身代金でも払うか何かして総大将バトゥが救出してくれるかと思えば、大ハーンオゴデイの死去に伴い、クリルタイ参加のため西征を切り上げたバトゥは全くそんな気配もなく略奪品回収しつつ帰還してしまったため誰も交渉しに来ず、一緒に捕まったモンゴル人指揮官らと共に処刑され生涯を終える。
救いはないが、この西の果てまでついてきた指揮官にも助けが来なかったから平等か。
バトゥはこの十年後くらいに、普通にルブルクやカルピニの訪問受けてる。この時に見せた豪勢な暮らしぶりの原資って、やはり。

敵は敵としても、互いに協力しあわず利益優先で足元の民衆を脅威に晒したヨーロッパの指導者たちもまた裏切り者じゃないかと思う。

③「天幕のジャードゥーガル」トマトスープ(秋田書店)

①でも紹介されてる人物が主人公。1巻の途中でもう主人公の希望が全て打ち砕かれるし、可愛い絵柄でも和らげることのできない、モンゴル帝国支配のダーティな面もしっかり描き出すハードな世界。連載してる版元サイトの関連コラムも興味深い。

征服され取り込まれた人びとは帝国の中で何を思うか。

この他、「元朝秘史―チンギス・カンの一級資料を読む」(白石典之)や「元朝秘史」、「文庫 チンギス紀1」(北方謙三氏。全巻読み終わるのはいつになるか)、「蒙古襲来と神風」(服部英雄)、つい「遊牧民、始めました。」(相馬拓也氏。これは現代モンゴルの遊牧生活の調査で、著者の回想録というか…)を読みましたが、3冊で留めたいと思います。
簡潔にまとめる文章力がほしい。

國學院大學博物館の蒙古襲来750年水中考古学の展示も見に行きました。管軍総把印…(地元の博物館の中国古印の展示思い出す)。九州では元寇犠牲者の慰霊行事も。

いいなと思ったら応援しよう!