春が来た
否、来てしまったのだ。先日、確か三日前のことだったか、インターホンが鳴って「春」はウチの玄関先に置いて行かれた。やわらかな白色の春だった。
目を、目を開けなくてはならない。開けたくもないのに、ちっとも目なんて開きたくもないのに。春は別に好んではいない。少なくとも僕は春に心が躍ることはないし、このまま誰かへ送りつけてしまえれば楽なのに。
これから「春」は、閃光のように僕の生活を憎たらしく照らし出し、その夢のような一瞬の間に、きっと埃が立つ程荒れ狂っていくだろう。かれこれ数兆年、数百兆年こんな目に遭っているのに、未だに僕は今回だけは穏やかかもしれない、と淡い期待を寄せてしまう。そして僕は今年も「春」を家の中に入れた。否、入れてしまったのだった。