イノベーション・マネジメントを活用する3つの視点

 大学院時代の先生が書いた、イノベーション・マネジメントに関する本を、ようやく読み終わりました。

イノベーション・マネジメント:プロセス・組織の構造化から考える(野城智也/2016)

 様々な視点が網羅されていて、とても勉強になりました。一方で、東大の技術経営戦略学の講義をベースにしているだけあって、一般人にはちょっととっつきにくいかも・・・。今回は、企画や開発に関わっている方向けに、私のような、イノベーションに関わることを夢見る一般人が、この本に書かれていることをどう活用すればよいかを考え、以下の3つにまとめてみました。
1)様々なメソッドの目的を理解して選ぶ
2)イノベーション・コミュニティに必要な役割を認識する+担う
3)小さなサービス化を続け、学びのループを作る


1)様々なメソッドの目的を理解して選ぶ

 私はメーカー企業に入社してから7年間、R&D系の部署で、新しい商品やサービスを考える仕事をしてきました。異業種の意見交換をしたり、コンサルの方の言う新しい方法を試してみたり、ワークショップを設計してみたりなど、山ほどしてきました。数ある「イノベーションの方法論」に関しては、完全に耳年増です。
 この本は、そんな耳年増知識を、まとめてモデル化(IPMモデル:詳細はこちら)してくれる本です。あとがきに「英語圏諸国と我が国との間には、イノベーション・マネジメントに関する学術の蓄積に隔絶たる差異がある」と書かれていますが、海外のイノベーション研究に触れながらまとめられているため、それも含めてさらうことができます。

 巷にあふれる様々なイノベーションメソッドも、このモデルに当てはめてみると、それが提供しようとしているもの/していないものをクリアにすることができそうです。話がかみ合わない相手がいたら、全く違うところを議論していた、なんてこともあるかもしれません。モデルに自社の活動を当てはめて分析することで、ここが足りないから、だからこのメソッドなんだ、という説得材料にも使えそうです。

2)イノベーション・コミュニティに必要な役割を認識する+担う

 第10章「イノベーション・コミュニティ」では、イノベーションを起こすための人のつながり(価値創成網:詳細はこちら)について触れられています。そこには、コミュニティの中に以下の役割を担う主体がいることが重要と書かれているのです。

・発明者(inventor/creator)
・洞察的解釈者(interpreter)
・ユーザー(user)
・デザイナー(designer)
・構成則戦略者(architect)
・変革促進者(promotor)
(p.272 / 表10.1 イノベーション・プロセスを駆動させる観点から見た価値創成網に参画する主体の役割)

 これはまさに、ハッカソンなどの場で非エンジニアがどう振る舞えば役に立てるのか、と考えていたことに近かったです。(むしろ今気づきましたが、この本に影響されて書いたんだと思います・・・)きっと大小どんなイノベーション・コミュニティの中にも、この人たちは必要になるんですよね。

 会社の中にも、個人的にこういう働きをしてる人っています。ただ、社内同士ですら自前主義の壁があり、活躍できていないのが現状ではないでしょうか。このような役割が必要なことすら、きちんと認識されていない気がします。上記のような役割の人をいかに集めるか、育てるか、認めるか、企画プロセスで活用していくかが、大きな課題ではないでしょうか。まずは成功例を作るところからかな・・・

3)小さなサービス化を続け、学びのループを作る

 第12章「イノベーション・マネジメント:日本への提言」では、具体的にどうすればイノベーションシステムのパフォーマンスが上げられるのかという提言が書かれています。中でも興味をひかれたのが、こちらです。

 単にモノを供給・提供するという発想を脱して(中略)サービスを提供する供給方式に転換していく。人工物の開発者・供給者はサービス提供のための交渉・対話を通じて、ユーザーとの双方向のコミュニケーション回路を構築し、さまざまな「やりながらの学び」による実践知を蓄積させていくことができる。
(p.399 /12.9 提言5:「やりながらの学び」による持続的価値向上より抜粋)

 モノからサービスへの価値転換は、私が学生時代の頃からずっと言われていて、でもそれはあくまでも、ユーザーの受け取る価値を最大化するために、という理解でした。しかし上記では、サービス化はイノベーションの文脈でも役立つ、と言っています。モノをサービスとして捉えるということは、体験価値の設計をするだけにとどまらず、サービス(モノ)の改善をしていけるようなしくみを作ることも意味するということです。

 サービス化によって作るしくみが、イノベーション・プロセスを促進するものであると考えると、そのサービスの対象は必ずしも顧客ではないかもしれません。販売パートナー、製造パートナー、そして未来の顧客に向けたサービスを小さくても創造し、継続することで、IPMモデルの様々な場所での学びを得ることができるのではないでしょうか。流行りのフューチャーセンターなどは、それが目的のような気がしてきました。


 いかがでしたでしょうか。とはいえ、私もまだ具体的に活用してみたわけではないので、「やりながらの学び」を蓄積したいと思っています。以上です。

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