タブレット端末の出荷台数を調べてみました
タブレット端末がどれくらい国内で出荷しているのかを調べてみた。
電子情報技術産業協会のサイトに国内出荷台数の推移データがあったので、Excelに数字を入れて資料を作ってみた。それがこちら↓
2020年度はギガスクール構想で出荷台数が増えていると思っていたので、やっぱりそうだなーと納得したのだが、よく見るとなんかおかしい。数字が小さいのだ。出荷台数の単位が千台となっており、2020年度は145万台ということになるが、それではあまりにも数字が小さい。だいたい1学年に100万人くらい生徒がいるわけで、小中学生全員に配ると1,000万台くらいないとおかしい。まだ100%配付されていないかもしれないけれど、600万台くらいは固いだろうし、一般の購入者もいるので145万台ではあまりにも少なすぎるのである。
それで、もういちど他の資料にあたってみたら、桁が一桁違っていた。こちらがMM総研が発表した国内タブレット端末出荷台数。2020年度は1,152万台となっている。↓
なるほど1,000万台超えなので納得できる数字である。しかし、なぜこんなことになったのだろうと、もう一度電子情報技術産業協会のサイトをよく見てみたら、調査対象が「自主統計参加会社」と書かれている。実際にこの統計資料に参加している企業は国内の7社だけということがわかった。こんなのを「国内出荷台数」と堂々と統計にするのはちょっと紛らわしいではないか。ほんと。
で、その国内7社は、NECパーソナルコンピュータ(株)、シャープ(株)、Dynabook(株)、パナソニック(株)、富士通クライアントコンピューティング(株)、(株)ユニットコム、レノボ・ジャパン(株)という企業である。AppleやMicrosoftやAmazonやGoogleなどが入ってないので数字が小さかったのだ。
この7社をよく見てみると、NECパーソナルコンピュータの親会社は中国のレノボ・グループであり、シャープの親会社は台湾のフォックスコングループである。Dynabookはシャープの子会社になっているのでフォックスコングループの孫会社である。富士通クライアントコンピューティングも大株主はレノボであり、7社中5社は中国レノボと台湾鴻海に集約されてしまう。残り2社のパナソニックとユニットコムだけが純粋な日本企業である。
が、パナソニックもタブレットは特殊業種向けの「タフブック」だけの製造であり一般向けはない。ユニットコムは「パソコン工房」というブランドで店舗を出している企業であるが、自前のタブレットはほぼ作っていないという状況なので、大雑把に言えば純粋に日本製のタブレットはもうないのである。
先程のMM総研の資料に戻ってメーカー別の出荷台数を表したのが下のグラフである。国内出荷台数の5割以上がAppleのiPadとなっている。MicrosoftはSurfaceだと思われるが、この資料をざっくり見るとNECと富士通とDynabookで300万台くらい出荷しているように見える。先程の電子情報技術産業協会の統計では7社全部で145万台だったのでなんかおかしい。それでもう一度、電子情報技術産業協会のサイトをよく見るとタブレット出荷台数統計のトップページに「キャリア向けに出荷したタブレット端末は含んでいません。」と書かれているのを発見。もう一体なんの統計データなのか意味不明である。(日本の業界団体って全く無駄な仕事をしているのだなと改めて思いました。。。統計を扱うときに間違いそうです。)
最近、YouTubeで80年代の企業CMを見ているのだけれど、あの頃はパーソナルコンピュータにしろ、ステレオやカセットデッキなど、日本のメーカーが次々と自前で作っていて、なんかワクワクする時代だったなあと改めて思う。それに比べて、なぜ今ではこんなふうに僕らが実際に仕事で使うようなものでさえ、新しい製品を作らなくなってしまったのだろうかと不思議に思う。
こういったモジュール型の製品は中国の人件費が安いから、というのはもう一昔前の話であって、今ではその理由は通らない。現にThinkPadはレノボの製品だがその一部は日本製である。日本企業が昔のようにちゃんと自分のブランドで作ればいいのではないのだろうか?
実は、今回、純粋な日本製のタブレットを作っているところはどこなんだろう?という疑問からタブレットの製造業者を調べていたのだが、残念ながらもうそんな製造会社は日本にはないということがわかったのだ。ほんとに残念である。
このタブレット端末製造については、一昨年あたりからギガスクール構想が始まるのがわかっていたので、ものすごいチャンスがあったのだ。先程述べたように一気に1,000万台以上のニーズがあり、毎年100万台は追加発注希望があり、3年ごとには買い替えニーズもあるのである。
ところが、この千載一遇のチャンスに入り込んできたのは日本企業ではなく、Googleだった。Google for EducationというソフトとともにChrome OSを搭載したChromebookを売り込んできたのである。Google for Educationはかんたんに言えばG SuiteにClassroomという学校向けツールを加えたもので、それらを猛烈な勢いで学校現場に浸透させていった。
MM総研では今回のギガスクール構想による教育業界のタブレットに関しても調査されており、その結果を東洋経済がまとめているのだが、学校向けタブレットOSのシェアが下記のとおりとなっており、Googleの浸透ぶりがよくわかる。
また、同じく上記1741自治体の調査で実際に学校で使われているクラウドツールを調査した結果が下図であるが、G Suite for Education(Google for Educationの以前の名称)が54.4%、Microsoft 365が38.4%という状況で、上記のOSのシェアと同様にアプリの浸透も両社が強い。(下図も東洋経済作成)
結局、ギガスクール構想というタブレットやアプリを売り込むチャンスを日本企業はみすみす逃す結果となったようである。
しかし、それでもまだチャンスは残っているような気がする。このギガスクール構想は一過性のものではなく、今後も続いていくのである。諦めずに、もう一度国産タブレット端末を作って、きちんとしたアフターサービスとClassroomに負けないソフトウェアを作れば、学校現場に売り込めるのではないだろうか?
日本企業の強みは製品の完成度と、きめ細かなアフターサービスだと思う、現在のタブレットはすぐに商品が在庫切れになりモデルチェンジが早い。サイトで見ていてもこの前まで売れ筋だったタブレットがもう市場に出ていない。学校現場では頻繁なグレードアップは不要で、それよりも在庫切れを起こさない安定的な商品供給が求められると思う。故障すれば修理したり、入れ替えなければいけない。適切なアフターサービスが重要なのである。町の電気屋さんが最近見直されてきているが、いざ洗濯機が壊れた、エアコンが効かなくなったといったときに、すぐに来てくれるサービスを日本人は求めているのだ。
アプリケーションについても日本の場合、もっときめ細かなものを開発することができるはずである。最近日本製の「ロイロノート」というアプリが学校現場に入ってきているが、それなどはGoogle for Educationでは物足りないという表れであると思う。もっとたくさんのEdTechのスタートアップが出てきても良いと思う。今現場は困っているのである。
しかしなんといっても、タブレットそのものが国産であることが重要だと思う。子ども向けには国産の製品を与えてあげたいし、ぼくらの子ども時代には次々と開発される日本製の電化製品が家にどんどん入ってきて、そんな製品を作ることができる日本というものに誇りをもっていた。現代のように日本や日本人を卑下するような自虐的な風潮なんてなかった。あの頃のように、もう一度、今の子どもたちにも「日本に生まれてきてよかったなー」という実感を味わってもらえたらなと思うのだ。