#8 マインドセット ~第1回医療デザインサミット session2 医療人の働き方をデザインするより~
2021年11月21日、記念すべき第1回医療デザインサミットが開催された。この記事ではサミットのセッション2『医療人の働き方をデザインする』について少し視点をデザイン寄りに変えてお届けする。
このセッションでは3名の異なる立場の医師がそれぞれ働き方に関する課題や自身の現状などについて語ってくれた。
こちらが今回のグラレコになるが、いつも以上に素晴らしい仕上がり!
グラレコはお馴染みPTのりょーこさん(https://note.com/ryoko_pt)。
勤務医目線の働き方デザイン(野﨑医師)
研修医のリクルートも担当してるが研修医の環境をホワイト化したことで研修医は増えたそうな。ただし、指導医まではそうもいかないのが現状。3次の救急病院に勤務する外科医はそれなりに忙しい。
そういった医療現場の現状をデザインはいかに変えるか?
いくつかの参考事例が挙げられた。
メンバーシップ型?それともジョブ型?
日本における医療人の働き方はそのほとんどがメンバーシップ型である。フランスの事例に倣って、PHSだけでもジョブ型にできないか?
ユニフォーム2色制
看護師の超過勤務も病院においては非常に厄介な問題だ。それをちょっとした工夫で可視化することで解決した事例もある。
熊本市医師会 熊本地域医療センターの「ユニフォーム2色制」と「ポリバレントナース育成」による持続可能な残業削減への取り組みである。看護業務の効率化 先進事例アワード2019において、最優秀賞を受賞している(詳細は以下のリンクから)
この事例はちょっとした手間でとてつもない効果を上げており、非常にデザイン性の高い事例と感じた。
院長、管理者としての立場からの働き方デザイン(服部医師)
医師の働き方が変わればコメディカル含めたすべての職員の働き方もデザインできると話してくれたのは、病床数:約480、常勤医師:130人以上が所属する総合病院の院長先生。
この規模の組織のトップという立場からみた病院医師の仕事にかかわる因子としては①健康、②モチベーション、③病院経営、④地域への貢献、⑤公平性が挙げれらる。さらには、『残業時間の管理≠働き方デザイン』ではなく、いかに生産性を上げるかということがである(『生産性アップ=働き方デザイン』)。
これらの因子を踏まえすべての医師と年2回の面談を行っている。さらに特筆すべきは各医師の思い入れのある医療がこだわり(患者さんのためになっていないサービス)かどうかを話し合っていることである。こだわりだとなった場合には、患者さんのためになってはいないので捨ててもらうことで生産性を上げているとのこと。
しっかりとコミュニケーションをとることで、労働投入量(≒時間)と医療サービス提供量(≒診療報酬点数)を可視化し、生産性アップ(働き方デザイン)につなげている。
院長先生が行っている全医師との年二回の面談。このコミュニケーションにより見える化をしてフィードバックをし、フィードバックをすることで働き方をデザインする。
フリーランス>開業医目線の働き方デザイン(薬師寺医師)
自衛官、大学病院勤務、留学、フリーランス、起業(しかも2社)、主夫、開業と波乱万丈な医師人生を送っている。
誰もができるわけではないけれど、もっと自由な選択ができるかもしれない、こんな人生もあっていいんだという一つのケース。
ちょっと雑な紹介かもしれないけど、興味のある方はまずは動画を見ていただきたい。あとはこんなことやっているのでこちらもぜひ。
ワークライフバランスも、〇〇(看護師などの職種)という医療職ならば、絶対にこうしなくちゃならない(病院で看護師をしなくてはいけないなど)ってもしかしたら思い込んでるかもしれない。そこから解放されれば、フリーランスなど色々な働き方もできたりする。
薬師寺先生を見ていると、やりたいこと、できること、私生活、これらのバランスをとるってこと。
そのあたりのマインドセットを変えることが医療人の働き方デザインにつながりそう。
マインドセットを変える
で、今回感じたのは、働き方を改革する場合にその職場の全職員(場合によっては患者さんや利用者さん)のマインドセットを変えていかなければ成り立たない問題なんだなって。
それぞれ個人が暗黙の了解的に持っている、例えば、業務上の、
・必須ライン(最低限必須と思われること)
・期待ライン(さらに期待していること)
・オリジナリティ(個人の価値観:組織理念へのコミットメントや、優先事項(金・家庭・やりがいなど)や得意不得意や特性など)
をお互いに認識すると、
①暗黙的に了解していたはずのことに相違がアルかナイかがわかる。
↓
②相違があった時に、すり合わせをする必要がアルかナイか、の分別ができる。
↓
③すり合わせをする必要がアルものについては、アイデアが出せるようになる。
↓
④アイデアが出せれば改善に向かうことができるようになって、その改善策にお互いが納得して取り入れられればスムーズにマインドセットすることができる。
↓
⑤マインドセットが上手く運べば、状況認識がかわり働き方に対する認識と意識が高まる。
という過程を経て働き方のマインドセットが改革できるのだと思う。
可視化=コミュニケーションデザイン?
今回のセッションでは、過去の勉強会同様に可視化というのも一つのテーマであると感じた。
例えば、
・日勤夜勤でユニフォームを変える
・面談で管理職と従事者の業務認識(上記のマインドセット)
・家庭の時間を重視するか?
・自分の時間を重視するか?
・独立へのキャリアステップを重視するか?
・目の前のパフォーマンスを重視するか? など
これら、個人のマインドをお互いが理解し合えるように可視化するといいのかもしれない。
研修医の働き方と運転免許の話
近頃の初期研修はブラック研修からホワイト研修へとどんどん変わっている。今どきの若い先生は(発言がおじさん)SNSなどの情報ツールが発達したり、そもそも働き方のマインドが変わってきているのでブラック病院ではなかなか集まらないようになってきた。
研修医にはもちろんハイパー(忙しいのを是とする研修医)とハイポ(忙しくないことを是とする)の2種類がいるが、ハイポとはいかないがブラック労働は良しとしない考え方の研修医が増えている実感はある。
服部先生も、最初は研修医の働き方を変えたそうだ。シフト制にし、休みが増え残業時間は劇的に減った。ただ、良医の育成<時間外削減になっている可能性もある。これに関してはもう少し時間がたたないとわからない。
さて、最近の研修医は入職当初から改革された働き方を受け入れているからもしかするとマインドセットを変える必要がないのかもしれない。
ここで思いだしたのがこのツイート。
ちょっと意味合いは違うけど改革するには新しい人から変えていって、変わらない人たちが去るのを待つといったような。
でも研修医が変われば、だんだん指導のマインドにも変化は訪れますよね!
主治医制からチーム制へ
PHSの話ではないけれど、1人で10人患者さんを診るより、3人で30人診たほうが効率が良い。今までは主治医が担当患者さんのすべてを365日24時間対応してきた(主治医制)。でも、それでは効率が悪いし休みもろくに取れない。チームで患者さんの対応をすれば順番に休めるっていう仕組み(チーム制)。
もしかしたら医師側にも自分の患者さんはほかの先生には診させられんっていう人もいるかもしれない。それこそ服部先生の言うこだわりなのかもしれない。
こだわりであれば断捨離したほうが良いかもしれない。Sustainableな医療を提供するにはうまく休むことも重要だと思う。
一方で、患者さんもこの先生じゃなきゃダメ、365日24時間対応しろっていう人もいる。
お互い主治医だからっていうマインドからの脱却が必要では?
そういえば最近タイムリーな書籍が発行されていたので紹介します。
ここでもシステムとマインドセットを変えようってありますね!
視聴者からのコメント
医者がブラックだという認識はみんな持っているんだけど、ブラックな中で成長してきた先生たちの次世代の育成への悩みや課題感が面白かったです
で、後進育成の任のない薬師寺さんは俺スタイルでワークライフバランス取れてるじゃないですか。
ワークライフバランスに教育、という部分が絡むと難しいのだな、とつくづく感じます。
教育ってある程度時間の投資が必要だけれどバランスとか言われちゃうとそこ難しいやないかと。
でも、そこに恨み言を言わずににこやかにやられてる服部先生と、ワーカホリック(誉めてる)だけど他人にそれを求めちゃいかん!と理性で留めている野崎先生の対比が面白かったですw
きっと裏では色々思う所もあるんだろうなぁ~と、体育会系育成時代の最期を飾った私としては感慨深かったです。
りょーこ(このサミットのグラレコを担当)
先ず、セッション2のキャスティング自体が、デザインだと思いました。
それぞれの立場や角度から、全く違う視点のように捉えていますが、実は目指すところや感じるところは一緒だと感じました。
また、デザイン観点からは、偉そうなことは言えませんが、デザインを感じた点は・・・
日々の当たり前を打破する?当たり前を当たり前じゃないと意識する!には、やはり可視化して、メラビアンの法則の様に視覚に訴る事が効果的だと感じました。
視覚に入れば、意識して行動変容が起きるキッカケとなる。
それらをスムーズにすり込む仕掛けがデザインの力であり、自然に受け入れられ、心に印象が残ることで、実際に効果も現れてくる。
今回は、短い時間で、広くある程度の情報を盛り込みましたが、テーマや事例を絞って深掘りするセッションがあっても良いかと感じました。
心の調律師さん(実はこのセッションのモデレーターを担当)
デザイン思考で重要なのは、「複数名でアイデアや意見を出し合うこと」。そして、その複数名が立場、専門性、背景が多様であればあるほど、テーマについて多角的な視点で考え、新たな領域の考察を生み出す可能性が高まると考えます。
今回は、専門分野も立場も違う3名の医師に加えて、非医療従事者がモデレーターを担うことによって、各スピーカー単体での良さだけでなく、素晴らしい『化学反応』が起きた会になりました。私たち視聴者にとっても、様々な角度から考察することができました。
そして、『イノベーション = ハイテクノロジー』とは限らず、固定観念を外したり、ルールの本来の目的を考え直すことが、イノベーションの糸口になることをあらためて確信しました。効率化を追求することによって最も省かれる対象になりうる『対話の時間』を増やしていくことが、働き方改革を推進する最大の秘訣と思えたことが最大の発見でした。
このセッションを通して、視聴者の「現場」で使えるヒントになれば嬉しいです。
日本医療デザインセンター 桑畑(本イベントの総合企画)
さいごに
この記事をお読みいただいて、
「なんか気になっちゃったなあ」
「もしかしたらこういうアイデアどうかしら」
という方は、
ぜひ本セッションの動画をご視聴いただければ嬉しいです。
また、当センター主催の勉強会にご参加いただけるとなお嬉しいです。
特に今回はスピーカに医師しかいなかったので、医療人の働き方をデザインしきれなかった。だからこそいろいろな職種の方に参加していただければと思います。
勉強会は毎月第3木曜日の夜行っています。
詳しい内容などにつきましたては日本医療デザインセンターのWebサイトやSNSでご確認下さい。
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では、また!