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好きな主人公1「黒ねこサンゴロウ」

 手元に本がない状況で書くので引用ができないものの、そのまま書いていきます。とことんネタバレします。

 文:竹下文子、絵:鈴木まもる「黒ねこサンゴロウ」シリーズの主人公、サンゴロウは、記憶喪失でうみねこ島に流れ着いた黒ねこで船乗り。愛船はマリン号。うみねこ島には、世話になったカジキじいさん、友達で医師のナギヒコ、サンゴロウを親分と慕う弟子(自称)イカマル、第1巻で旅を共にした人間の男の子ケンと「大きなインパクトを与える女性」ポジションの女の子ミリ(ケンの親戚)、といった人々との交流はあるものの、仕事を請け負いながら1人で船の上にいることがデフォルトです。マリン号とよく(心の中で)会話してます。

 単純にかっこいい。異性として惚れるというより、こういう生き方をしたいという憧れを強く抱いた(当時10才の私)。島では腕の良さで知られ、交友関係もありながら、自分がよそ者であるという感覚がぬぐえずにいる。1人で(マリン号と)いる時間を愛しつつも、旅先や新しい人やものとの出会いがあれば、興味をもってそのまま受け入れ、助けることを迷わない。気持ちが荒むときがあっても、それを認識してコントロールする。決して冷めているわけでも考えていないわけでもなく、自分が十分と思う内容(基本少ない)とタイミングで発言する。そしてなぜか子どもに好かれる。

 結構な危険な状況を頭の回転と経験則で華麗に切り抜けるのも、船と一体となって海を感じるさまもシンプルにカッコよい。ただそれだけでなく、一人称で物語が書かれていることもあり、土台にある孤独感・喪失感のようなものを含め、見聞きするものと同じように感情の動きをフラットに観察して自分自身と対話しながら世界と関わる、というあり方も、これまでの人生の指針になってきたかもしれない。
 
 最終巻「最後の手紙」でサンゴロウは、ついに記憶を取り戻したうえで過去と決別するという選択をする。これに至るまでの物語の構成とクライマックスシーンの過去の旅とのつながりが鳥肌もので、シリーズのこの締めくくりから、いかに人との出会いが自分を成長させ、闇に飲み込まれそうになるような時にも世界につなぎとめてくれるかを思うわけです。
 そしてこの選択に加えて、(おそらく)島を離れて新しい旅に出てしまう、というのが最高にサンゴロウ。理想の自由。

 ちなみに、好きな巻は4巻「黒い海賊船」(イカマル視点でめちゃくちゃサンゴロウがかっこよい)と5巻「霧の灯台」(サンゴロウ視点のミニマムな美しい物語)。
 ちなみに、最終巻に出てくる通信局の女の子(名前はないが、通信の最後に「サンゴロウさん気をつけて!」と読者を代弁してくれる)は実はイカマルと幼馴染の同じくサンゴロウ強火担で、飲み屋で今日のサンゴロウ談義に花を咲かせている、なんて妄想もしたり。
 

#わたしの本棚

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