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だって空が見たいから

 あれから雨は降り続いている。そして、僕の任務も続いている。
 起床のベルはない。それでも僕はマルゴーマルマルに起きて、装備の点検を済ませる。常に生乾きの隊服を着て、それだけは豊富にある水で顔を洗う。
 食堂に向かう通路はかつて部隊の仲間で犇めいていたが、今は僕一人だ。ヒメモリに靴を隠されて朝食を食いそびれることも、ない。
 缶詰を沸かした湯で温めて胃袋に流し込むと、僕は食堂を出て階段を登る。任務のために。
 天気塔、と周囲の街の臣民達からは呼ばれていた。確かに塔で、そして天気に纏わる施設だ。以前は、天気予知をここで行っていた。
 今では街は水の下だ。晴れた日に干される色とりどりの布も、手を振る子供も全て雨が流し去った。
 僕は塔の頂上につくと、そこに据えられてある銃座に座る。そして、じっと雨雲の合間に目を凝らすのだ。
 敵国の浮汽船が来たら、いつでも撃ち落とせるように。
 ヒトフタマルマルになるとまた食堂に降りて、朝のメニューに乾パンを足しただけの食事を摂って、30分の午睡をする。起きたらヒトハチマルマルまでまた対空監視を続け、その日の任務は終了する。あとは塔内の細々とした作業をこなし、フタフタマルマルに床に就く。やまない雨の音を少しでも頭の中から追い出そうとしながら。
 僕が一人になってから、三十回目の対空監視の最中だった。雲の間に、青い物が見えた。空だ。青空だ。僕は砂漠の遭難者がオアシスで水を飲むように、がぶがぶとその青を貪欲に視た。
 青の中に何かが見えた。心臓が強く拍を打った。船? 鳥?
 空の中に、扉が開いていた。
 向こう側には、青空が広がっている。
『ーー傾聴。アノ兵長に、新たな任務を命ずる』
 塔の拡声器が突然声を上げた。
『扉を撃て』
「い、いやだ……!」
 僕は叫んだ。
『扉を撃て』
 声は繰り返す。僕は泣きながら銃座に座り、レティクルを覗き込む。
 巨大な目が、こちらを覗き返していた。

【つづく】

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居石信吾
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