最期のクリスマスまで、あと……
ひらひら。
ひらひらと。灰混じりの雪が、幽暗の空から舞い落ちる。君が僕の手をぎゅっと握ると、僕は更に強く握り返す。お互いの体温が混じりあって、冬の冷気をほんの少しだけ、溶かした。
世界が終わってからこれで何度目のクリスマスだろうか。完全自動化されたシステムが、今年も僕たちだけに向けて街頭に厳かな音楽を流している。街が瓦礫の廃墟になるような、そのような終末ではなかった。ただ静かに、そしてゆっくりと、だが確実に――世界は終わりを迎え、僕たちだけが遺された。
さくさく。
さくさくと。灰色の雪に並んだ足跡をつけて僕たちは歩く。行くあてはない。どこで過ごそうがそれほど変わりはないからだ。留まっているよりは、流れている方が良い。それくらいのぼんやりとした理由で、僕たちは歩いている。彼方の空が不穏な赤銅色に染まっている。最近制御システムが壊れた発電所が燃えているのだろう。雪に混じる灰はそれか。
「あ……」
僕が急に立ち止まり、君は少しバランスを崩す。
「あれ――」
指差す方向には、立派な生垣――だった物。今は野放図に伸びてまるで森。その手前に、昔は待ち合わせや休憩に使われたであろう瀟洒なベンチ。
そこに、互いにもたれ合いながら静かに動きを停めた一組の男女が座していた。汚れた雪が降り積もり、抽象的な雪像にも見える。
外にいるのは珍しかった。普通は家の中で穏やかに止まるものだ。
「ここでいつも待ち合わせをしていたのかもしれないね」
「いえ……下がってください!」
君が鋭い注意を促すと同時!
「「イヤーッ!」」
停止していた筈の男女が回転ジャンプの中から槍めいた飛び蹴りを放った!
「チィーッ! 良くぞ我らのシニフリ・ジツを見破り初撃を躱したな!」
「さては貴様もニンジャか!」
シニフリ・ジツ! それはニンジャのジツである! 世界を滅ぼした恐るべき怪物、ニンジャ! 彼等は人類を滅した後大半の者が永い眠についたが、こうして通りすがりの生き残りや眠っていない他のニンジャを襲う者たちも存在した!
「どうも。その通り、私はニンジャです」
君は堂々たるアイサツをする。その内側から溢れんばかりの赫赫たるカラテの冴えを見て取り、カップル偽装ニンジャたちは改めて己を奮い立たせ、果敢に飛びかかってきた!
「「イヤーッ!」」
「イヤーッ!」
「「グワーッ!?」」
だが、おお見よ! 敵二人の縦回転チョップを捌き切り、カウンターの掌底を顎とこめかみに打ち込んだ!
「「サヨナラ!」」
爆発四散! ニンジャは死ぬと爆発して灰となる。雪に混じるのは全てニンジャの死体なのだ……ナムアミダブツ!
「行きましょう」
激しいイクサの後だというのに君は息一つ切らさず再び僕の手を取ると歩き出した。
ニンジャに支配されていない地を目指して……そこで最期のクリスマスを祝うことこそ僕らの使命。人類の半分をうっかりサンタクロースへのお願いでニンジャ化させてしまったこの僕の贖罪の旅路。再びゆっくりとクリスマスを祝い、サンタさんにお願いして世界を正常化するまで僕らの旅路は続く。
これはなんですか?
サプライズニンジャコン向けに上記の作品にニンジャを混ぜたものです。ただそれだけです。