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「何か」が始まった日

2020年2月28日、そう、新型コロナウィルス感染症による全国一斉休校が始まる直前、Facebookにこんな投稿をしています。うまく言えませんが、自分としては、ここから「何か」が始まったな、という感じがあるんですよね。

あれから5年。忘れたくないな、という思いもあり、ここに残しておきます。

Facebookへの投稿

長いです。

今日は日本中、どこの学校も大変だったのではないかと思うけれど、ご多分に漏れず、僕も大変だった。担任しているのは6年生。そう、卒業を間近に控えたクラスだ。まだ、これから卒業に向けた行事がたくさんあって、それらを一つ一つこなしながら徐々に「卒業するんだな」という気持ちになっていくのを見守っていけばいい、と思っていたのに、突然今日一日で子どもたちに卒業を意識させ、友との別れの時が来たことを自覚させ、これまでの道のりに思いを馳せると共に、春からの中学校生活に希望を抱かせなければならない。繰り返すが今日一日で、だ。

昨日は「そうなるのだ」ということがわかってから、ずっと「自分に何ができるだろう。何をすべきだろう。」と考えていた。いや、答えは初めからわかっていた。僕にできることなんて限られている。あれしかない。けれど、何しろ今日の明日だ。間に合うか? そう、時間だけが問題だった。

様々な用事を済ませ、僕がPCに向かったのは午後10時。どう考えたってきつい。開き直って考えを変えた。

「大丈夫。朝までは、寝なければ8時間ある。間に合うさ。」

僕がやろうとしていたことは、これまでも卒業生を送り出す時には必ずやっていたこと。簡単に言えば学級通信を書くことなのだけれど、これがやたらと長い。なぜなら一人一人について書くからだ。例えばこんな感じ。

「ファーストペンギン」ってわかる?ペンギンの群れの中で、天敵がいるかもしれない海へ、魚を求めて最初に飛びこむペンギンがいるわけじゃない? その“勇敢なペンギン”のように、リスクを恐れず初めてのことに挑戦する人を「ファーストペンギン」と呼びます。〇〇は「ファーストペンギン」だと思う。例えば体育の時、僕が軽くキレたりするとみんな黙りこくって嵐が過ぎ去るのを待つモードになるじゃない? でも〇〇はそういう時、真っ先に大きな声を出して局面を打開してくれる。そういう場面が6年生の後半ではいくつもあった。昨日の放送委員会でも、いい感じで5年生にアドバイスできていたんだよね。ああいうところ、「うわぁ、成長したなぁ」と感じずにはいられないよ。中学生になってからも「ファーストペンギン」でいて欲しいな、と思います。

ざっくり350文字。これを32人分。〆て11,200字。そこにもちろん、全体に対してのメッセージも添えるから、出来上がりはA4で12枚になる。これだけの分量の文章を書くのはもちろん時間がかかる。ただ書くだけではない。その子のことを考えて、卒業にあたってその子の力になるような文章を考え書くのだ。予定では、3月に入ってから一人一人の顔を思い浮かべながらゆっくり書こうと思っていた。

それなのに、僕に残された時間はあと一日。子どもたちに学級通信を配って読む(学級通信は必ず僕が読むことにしている)のは明日しかないのだ。だったら書かねばならない。何時までかかろうとも。

11時になった。まだ出席番号6番だ。どうするんだ、これ。しかも眠気が襲ってきた。諦めて風呂に入る。湯船に浸かって5分くらい寝る。その短い睡眠で復活した僕は、猛然とキーボードを叩き始めた。日付が変わってもまだ半分もいかない。だが、半ばトランス状態に入った僕の頭の中には2年を共に過ごした子供たちの思い出が次々と蘇ってくる。キーボードを叩くスピードはどんどん上がっているような気がしたけれど、1時を過ぎてもようやく3分の2を超えたくらい。32人分を書き終えた時点で2時を回っていた。そこから全体に対してのメッセージを書く。すべて終わった時、時計の針は3時15分を指していた。

泥のように2時間だけ眠った僕は、子供たちとの最後の一日を過ごすべく学校へ向かう。なぜか眠くない。まだトランス状態が続いているのかもしれない。午前中は何やかやと事務的なことも多くあり、感傷に浸る暇もなく時間が過ぎていく。給食後、5時間目に僕は学級通信を配った。

「厚っ!」

「え、何これ、全員分書いてあるの?」

配った瞬間は色々と言っていた子どもたちは、僕が読み始めたら静かになった。ところどころで笑い声は起こったけれど、出席番号が2桁になったあたりから笑い声よりもすすり泣く声の方が大きくなってきた。

(え、そんなに泣く?)

あまりに注文通りに子どもたちが涙を流すので、こちらの方がドギマギする。

(困ったなぁ...)

32人分を読み終えたとき、教室には何とも言えない雰囲気が漂っていた。もしかしたら、こうなるかもしれないと予測していた僕は、学級通信の中で曲を一つ紹介していた。ONE OK ROCKのC.h.a.o.s.m.y.t.h.という何と読めばよいのかわからない曲だ。曲でも聞けば雰囲気が変わるかと思ったが、なんかますますドツボにはまって号泣状態に陥っている女子が何人もいる。こういうのは困る。

それでも何とか読み終える。学級通信の終わりはこうだ。

6年3組は卒業と同時に解散になるけれど、歌詞にあったように君たちの心のなかで「変わらず この場所はある」のだとすれば、僕は「この場所」の番人としての役目を果たせるよう、挑戦を止めません。そして、ここからずっと歩んでいく君たちを応援し続けます。

少し早いけど卒業、おめでとう。

最後の一行を読むときは、ちょっとヤバかった。「ああ、この子たちと別れるの、辛いんだな」と深く自覚した。それでも、子どもたちと一緒に泣くほどピュアではない。「じゃあ、片付けに入ろうか」と呼び掛けて教室の雰囲気を変えた。よしよし、耐えた耐えた。

と思ったのは油断だったと言わざるを得ない。今回、卒業式までの間、子どもたちにSurfaceGoを持ち帰らせた。それを使って試したいことが色々とあるからなのだけれど、夕方になってTeamsのチャットで子どもたちから日記が送られてきた。その内容がもう...やれやれ。今夜は一人一人の顔を思い浮かべながら飲もうかな。


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