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生成AI活用は経験の積み上げが鍵

11月2日(土)に本校で「個別最適な学び」研究会授業研究会が開催され、私も授業公開を行いました。これについてのふり返りを。


バックグラウンド

今回の公開授業は色々と異例づくしでした。

まず、授業を行うクラスが自分のクラスではありませんでした。翌週にICT×インクルーシブ教育セミナーが開催されるのですが、自分のクラスはそちらに呼ぶことになっていたため「さすがに2週連続で土曜日に呼び出すわけにはいかないだろう」と考えて別のクラスを借りて授業を行うことになったわけです。

この「自分が担任しているわけでも、専科として通年関わっているわけでもないクラスを相手に公開授業をする」というのは、まあ基本的には無茶な話なわけです。

と書くと「ええ!? 附属の先生、よく飛び込みで授業やってるじゃないですか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに(私はやりませんが)違う学校の知らない子どもたちを相手に飛び込みで授業をされている方は何人もいらっしゃるわけですが、私の場合は、ちょっとそうはいかない事情がありました。

今回は「個別最適な学び」を考える授業研究会です。私の授業で目指すべきは「生成AIの活用は個別最適な学びの実現につながるか」でした。「教師が生成AIを操作し、その結果を児童に見せる」タイプの授業であれば飛び込みでも何とかなりますが、「児童が直接、生成AIを操作することで個別最適な学びにつなげる」ことを目指すのであれば、これはやはり自分のクラスでやりたいです。本来は。

なぜなら、「児童が直接、生成AIを操作する」には、それまでにそれなりの経験を積まねばならないからです。教師が操作する生成AIがどのようなプロンプトに対してどう振る舞うかをたくさん見て「生成AIとはこういうものなのだな」という子どもなりの考えを持つ。その後、生成AIを直接、操作することで「なるほど、やはり生成AIとはこういうものなのだな」と腑に落ちる。そういうプロセスを踏ませたいのです。本来は。

飛び込みだとそれができないわけです。「これはかなりチャレンジングなものになるな」という思いが授業を行う何ヶ月も前からありました。

言葉から連想を広げて

学年は4年生、教科は国語、単元は「言葉から連想を広げて」です。公開授業の前に、2時間ほど担任の先生からいただいて授業を行いました。

1時間目は、まど・みちおさんの一行詩を読んで「言葉から連想を広げる」ってどういうことだ?というのを学びます。これはいいんですよ。普通の国語の授業ですから。

問題は2時間目。この学級の子どもたちにとっては初の生成AI体験。最初の20分は私が操作して見せて「生成AIってこういう感じのものだよ」と伝える。あとの25分は自分で操作してみて「生成AIってこういうものか」と納得する。そういう授業を目指しましたが、もちろんそんなにうまくはいきません。タブレットが壊れかけの子やら何やらトラブルが頻発して、色々とサポートしているうちに時間切れ。

「これで次は公開授業って痺れるなぁ」と思いながら、その教室を後にしたのでした。

本番の公開授業では、前時までをふり返って「今日は『連想を広げる』のに『生成AI』を使ってみよう」と呼びかけます。最初のお題はこれ。

これでどんな連想を作れたか、児童がどのように活動していたかをしっかりと書きたいところですが…全然わかりませんでした。児童の活動が始まって「どうぞ児童の間に入って御覧ください」とお声がけしたらあっという間にこうなってしまったので…。

授業者の姿、全然、見えないですよね。私も子どもの姿、全然、見えませんでした。(でも、その分、協議会で詳しく子どもの様子をお話ししてくださる方が何人もいらっしゃって、それはそれで非常に良かったです。)

時間を見て活動を区切り、次のお題を出しました。それがこちら。

これも児童がどんな風に活動していたのかよくわからなかったのですが…。終盤、児童の活動を止めて聞いてみたところ、生成AIのアドバイスを「うざい」という児童がいました。それに頷く子もいたので、こう言いました。

「今、『連想されたものとしてわかりやすいかどうか』で評価させたよね?これを『面白いかどうか』『意外性があるかどうか』みたいに変えて評価させたらどうなるかな?」

この時点で残り5分。最後に、「AIに連想させるにしても、自分の連想をAIに評価させるにしても、最後に『どう連想を広げるか』を決めるのは自分。それによって表現を工夫するのが大事だね。」ということを伝えて授業を終えました。本当はこの活動までしたかったのですが。

成果と課題①

無茶な公開授業だったので課題は山ほどあるのですが、成果もありました。

こんな無茶な条件の授業をなぜしたかというと「生成AI経験が薄い児童の授業を見せる」ことに価値があるかな、と思ったからです。

これが自分のクラスだと、それなりに使い倒しているので色々とスムーズに進んでしまうと思うわけです。しかし、それだと逆に参考にならない部分もあるようで、時折「使い始めの頃の授業を見たい」というリクエストをいただくことがあります。

飛び込みで公開授業を行う、ということに最初は及び腰だったものの、それでもやろうと思ったのは、これが「使い始めの頃の授業を見せる」ことになるのではないかと思ったからです。そして、そのねらいはいくらか達成できたのではないかと思います。

私の授業を何度か見ていただいている方が書かれていました。

今日の授業は僕が何度か見せていただいたどの授業よりも「あれ?」「ん?」と思うくらい「流れていない」授業(と,言うよりはいつものキレッキレの先生とキレッキレの子供達とのセッションじゃないなあという感じか?)だったように思えたのです。

桜庭邦彦先生のFacebookから

そうそう、そういうところをお見せできれば、と思っていました。それにしても流れてなさすぎだったとは思いますが、自分のクラスだと見せられないようなシーンをお見せできたかな、とは思います。そして、それは「これから生成AI活用を始めたい」と思っている先生方には参考になるのではないか、と。これは聞いてみないとわかりませんが。

また、リンク先のnoteで前多先生が書かれている「実力のある実践者が提供する過程の授業って、提案性の塊。」というのは最高の褒め言葉と受け取りました。うん。たまにはこういう授業も見せないとね、と思います。

成果と課題②

もう一つ、改めて思ったのは「やはり生成AI活用を進めるには経験を積ませることが必須だな」ということです。

生成AIに対する児童の評価は、使う度に上がったり下がったりします。まあ、それはそうですよね。色々な反応を返してくるわけですから。その色々な面を、特別な場合ではなくて、普段の授業でたくさん見ていくことがやはり何より重要だろうと思います。

となると、これはやはり飛び込みでは無理です。今回、自分のではないクラスで授業をしてみてよくわかったのですが、普段は色々と予想しながら授業をしているわけですよね。「ここで生成AIがこう返してきたら、子どもたちからこんな反応やあんな反応があるだろうな」とか「子どもたちの思考はこう進んでいくだろうから、そこで生成AIをかませればこんな化学反応が起こるのではないか」とか。飛び込みだとそれができない。それでは十分に効果的な生成AI活用は(少なくとも私には)できません。

やはり、小学校なら担任の先生が一年間を通して「普通に」生成AIを使って見せていくことが大切でしょう。児童が直接、生成AIを操作するのは、その先にあるべきだと改めて思いました。

成果と課題③

生成AIの話題がどうしても多めになりはするのですが、今回の公開授業は小金井小の「個別最適な学び」研究会の授業研究会でした。

生成AIは「個別最適な学び」を実現するためのツールとして機能するか。もちろん機能する場合も機能しない場合もあるわけですが、可能性は色々とありますよね。それは今後も追求していく必要があるでしょう。

それと、午後のシンポジウムで堀田先生がおっしゃっていたことが印象的でした。先生が出されていたスライドは、

教科教育における個別最適な学び
個別最適な学びにおける教科教育
これからの時代の教科教育とは

堀田龍也先生のスライドから

というもの。これ、考えさせられる問題だな、と思いました。

普通は「教科教育における個別最適な学び」を問われることが多いと思いますが、考えてみれば「学び」の主体は学習者。その学習者が「最適」となるように学びをプロデュースすることができれば、その内容たる教科の方が従になることは十分に考えられます。まさにこれからの教科教育をどう考えるかが問われているわけですが、そこに生成AIがどう関与していくのかも考えねばならないでしょう。

今回の私の授業は「生成AIを活用して個別最適な学びを実現するために踏むべきステップ」といった位置づけの授業でした。ここから、どう個別最適な学びへ繋げていくのか。宿題です。

終わりに

その他、色々と課題はあるのですが、一先ずこのあたりで。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。椅子運びまでやっていただいてありがとうございました。

今回、学校の公式行事ではなく、あくまで有志教員による自主開催イベントだったので、手弁当感が半端なかったと思います。協議会も、司会も講師もなく全て授業者がやるという暴挙でした。(と思っていたのですが、他教科は司会を立てたところがあったようです。だったら佐藤牧子さんにやってもらえばよかった…。)

しかし、「きちんとした主張があり、提案性の高い公開授業を用意して、参加者に『話を聞きたい』と思わせる講師を揃えれば、有意義な一日を作ることができる」ということを体験できたのは、我々にとって得難いことでした。加固希志男さんの強力なリーダーシップあってのイベントでしたが、またやりたいと思いましたね。

次の公開授業は2024年11月9日(土)のICT×インクルーシブ教育セミナーvol.7@マイクロソフト品川本社セミナールームです!


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