旧六甲山ホテル(六甲山サイレンスリゾート)修復保存 ミケーレ・デ・ルッキ
「六甲山ホテル」は旧館を含む建物で耐震性の問題で、2017年(平成29年)12月末をもって歴史を閉じました。1929年(昭和4年)に開業ですから、2015年に閉館されていた旧館は今年(2021)で築92年となります。当然建て替えを前提の4年前の阪急阪神ホテルズ社からの譲渡だったのでしょうか。
新しい所有者は、「六甲山ホテル」の昭和のモダニズムを再生させるために尽力し、イタリアの建築家ミケーレ・デ・ルッキ氏による素晴らしい文化遺産を修復保存して次の世代に遺すプロジェクトをスタートさせました。
再生された旧館の1階アーカイブ・ギャラリーには、修復時の工事の様子の写真が展示されていました。よく見ると太い柱とアーチ状の壁に囲まれたエントランスホールの大階段が木造の床組に潜っているのが分かります。修復工事を始めた途端に床下に隠れていた大階段が現れたのです。改修工事でよくある工事履歴や忘れられていた改修工事が不意に蘇るのです。即刻、工事の見直しに迫られたと記述にありました。
次に屋根の小屋組みが露出した写真がありました。2階の天井の仕上げ材を丁寧に剥がした状態のようです。細かく柱が並んでいる木造の柱・梁の構造材の配置は、日本の一般的な木造建物の骨組みになっていたようです。
1階のアーカイブ・ギャラリーの天井を見ると、従来の柱・梁に新しい材料の梁で補強しているのが分かります。2階の床を支える下地も新しいものに組み替えています。床を支える梁は、古い梁と新しい梁がボルトでしっかりと結束されていることがボルト頭の配置で確認できます。
ギャラリーの中央の2本の柱は、従前の柱をそのまま使用しているようです。古い柱を見せる手法は、歴史が蘇る修復工事のデザイン要素に成り得ますが、柱の欠損部分をあえて露出させることには多少の不安を覚えます。尚、根拠のある補強に基づいて施されている修復作業と理解します。
エントランス・ホールの武骨な梁と太い柱とそれを支えるアーチは、充分に伝統の空間と大階段を魅了する要素であり、木造の大梁とアーチを飾る硬質なタイルと柱腰周りのスクラッチタイルの重厚さで、安心感のある空間スペースを創出しています。
アーカイブ・ギャラリーの明るさの軽快感とホールの重厚さが、微妙なバランスで構造耐力的にも意匠デザイン性をも、安定させているようです。耐震補強を試みながら、90年以上前の伝統的な意匠性を修復保存させている稀有な事例です。
旧館「六甲山ホテル」が蘇った隣接地には、「六甲山ホテル」客室棟であった新館も解体工事が終わり、『六甲山サイレンスリゾート』の宿泊棟『サイレンス・リング』の建設工事が始まるようです。60室の客室は神戸港を望むオーシャンビューと、六甲山の自然に癒されるマウントビューから選べる360度全方向ビューが楽しめる形状をしています。
六甲山の自然の深い緑と色鮮やかな植物群、種類多い植生に囲まれた池のほとり佇むカフェテラスにチャペル、小振りのコンサート・ホールも併設される『六甲山サイレンスリゾート』は、六甲山の自然の山並みの風景と受け継がれた歴史のなかに溶け込んでいくサスティナブル(地球に優しさ)溢れるリゾート施設は、みんなに愛されるシーンを創り上げていくでしょうか⁈
人も自然の要素の一つに過ぎないと考える社会に、自然の恵みを受け入れる日常生活が継続できる時間が可能な空間を見つめてみたい。