『自死遺族支援と自殺予防 キリスト教の視点から』平山正美・斎藤友紀雄監修、日本キリスト教団出版局、2015
当初、日本キリスト教団出版局の月刊誌『信徒の友』に連載されたシリーズが1冊にまとめられたもので、キリスト教の立場から、自死というものを正面から見据え、多くの遺族、支援者・生還者の言葉によって綴られた本です。
前半は自死した人の遺族に寄り添う立場から、後半は自死しようとする人自身に寄り添う立場から書かれています。
1人の著者ではなく、様々な人の目線で書かれており、それぞれに重い真実が込められていて、毎ページに死と生に深く思いを馳せさせる濃密なメッセージを読み取ることができます。
ただ、多くの人の証言が集められてはいますが、この本に一貫して通底しているのは、「自死は罪ではない」という信念です。
かつて多くのキリスト教会では、「自殺は生命を与えた神に対する反逆であり、大罪であって、自殺者は天国には行けない」という見方が大勢を占めていました。
近年では、そこまであからさまに自死者を見下す教会は少なくなったのではないかと思われますが、それでも「隠すべきタブー」という感覚は残っているのではないでしょうか。
しかし、この本では、そのような教会の体質に挑戦し、自死者の尊厳を確かにし、当事者を自死に追い込んだ社会の方に問題があるのではないかと問いかけます。
自死しようとする人は、決して自殺「願望」を抱いているのではなく、死ぬ以外の道を見つけられない所に追い込まれた被害者、犠牲者であるという見方です。
自死に対する偏見や誤解がかえって自死を増やしている、自死に対する正しい理解が普及すると自死者が減るということからも、この見方は裏付けられ、教会の方が認識を新たにしなければならないのは必定でしょう。
その一方で、この本では、教会という場所の大切さが、何度も何度も強調されていることが、非常に印象的です。いかに教会という場に期待しているのかが読み取れます。
自死を考えてしまう人は、社会的な理由であれ、個人的な理由であれ、あまりにも苦しい状況に追い込まれ、何らかの病的とも言っていい状況にあります。それは本人の責任とは決して言えず、本人を取り囲む状況に問題があったのだと言えます。
しかし、孤立して苦しむその人を受け止め、受け入れ、独りにはせず、優しく包み込む共同体として教会が機能すれば、という願いが、この本から強く感じられます。
このような本を通して、キリスト教会が自死について正しい知識を学び、自死者とその遺族に更なる重荷を負わせず、できるならば、それらの人たち、また特に、死が心をよぎる人自身にとって、「よすが」となるような場所でありたいものです。