『「地獄」のウソ キリスト教のアツアツなテーマを徹底検証!』ケン・フォーセット訳、エメル出版、2023
おもしろい!
この本を、地獄というものを信じている人全てに読ませたい。
リベラル・クリスチャンはとかく「聖書にはこう書いてあるけど実際はこうだ……」などとよく言うが、この本はとことん「聖書にこう書いてあるからこうだ」というところにこだわっている。だからこそ、リベラルでない人に読んでいただきたい。
「信じなさい。そうしないと、あなたは地獄に落ちてしまうよ!」と言って伝道しているキリスト教会の教派が、現在の日本でどれだけの割合で存在しているのか、評者は知らない。ただ、そのような論理で信徒を獲得しようとする教会がないわけではないことは知っている。
あるクリスチャンが、洗礼を受けないまま亡くなった伴侶の死後について牧師に尋ねた時に、「どこを彷徨っておられるかわかりません」と答えられて絶望したという話を耳にしたこともある。
地獄に落ちて永遠の火に焼かれてしまうかもしれないとか、先祖の祟りがあるとか、そういったことで恐怖感を与えながら伝道するのもカルトの特徴だが、正統的であると称するキリスト教会がそのような方法で伝道し、カルト化する可能性もある。そして、伝道する側の信徒も牧師本人も本気でそれを信じ、地獄に落ちる人を1人でも減らすために必死で伝道しているのである。
本書はそのような人びとに対して、「聖書に地獄のことなど一言も書かれていない」と知らせてくれる。聖書の中の「地獄」に関することとして翻訳されている単語や文章を丹念に拾い上げ、それらが実は「永遠の火で焼かれる地獄」を少しも意味しているわけではないことを明らかにしてゆく。
しかも本書は、聖書の言葉を細かく分析したり、教会の歴史を丁寧に辿ったり、また聖書に記されたユダヤ人の思考・ヘブル的発想についての思索を深めていったりはするが、決して難解な学術論文のようではなく、学問的な知識のない人でもわかりやすいように書かれている。
むしろ読者は、著者と一緒に聖書の中を探検しているような気分で読めるだろう。
どんなに万人に対する神の愛を説いていても、それとは全く矛盾する態度を、クリスチャンは取る時がある。
特に保守的な傾向の強いクリスチャンの場合、無条件に誰もが救われるのではなく、信じて洗礼を受けなければ、地獄で永遠の火に焼かれるかもしれないという恐怖心が、信仰の根底に横たわっていたりする。
しかし本書は、そのような価値観が全く聖書的ではなく、むしろ神の無限の愛を貶めるものであると説く。地獄の存在を認めること自体、神の敗北を意味するではないかと、地獄信仰の矛盾を示す。
本書を、信仰や洗礼を救いの絶対条件のように考えているクリスチャンたちにお薦めする。どんなに命を棄てるほど人を愛する心と行動があっても、洗礼を受けていなければ、その人は救われないという考えの人も、読んで一考すべきだ。
この本の主張を受け入れることは、保守的信仰者にとっては大きなチャレンジになるのではないかと思う。なぜなら、これを受け入れると自分たちがクリスチャンであることが「特別だ」と思い続けることができなくなるからだ。
しかし、この本が言うように、「洗礼を受けなければ永遠の火で焼かれる、という教説自体がウソなのだ」ということに気づくことが、「神がすべての人を愛している」ということに、矛盾なく納得できる道なのだ。
神の愛と救いは全ての人間におよぶ。端的に言えば、それが本書のメッセージであり、本書はそのことを懇切丁寧に私たちに説得してくれている。
おすすめの1冊である。
(小さな出版社から出されており、Amazonなどで購入することはできません。エメル出版のサイトから直接ご購入ください)