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財政破綻についての見解のまとめ 小林慶一郎氏

2 財政破綻が起こるとすれば、何を引き金にいつ起こるのか

 日本の財政危機については、1990年代初頭のバブル崩壊、2009年のギリシャ危機、2013年からの日銀による大規模な金融緩和、と大きな転換点があるたびに議論されてきています。
 また反対にMMT(現代貨幣理論Modern Monetary Theory)など現在の日本の借金は問題ないという意見もあります。
 この章では、まずは財政破綻・ハイパーインフレの危機があるという有識者(著名な方や研究者)の見解を見ていきます。

〇 小林慶一郎 慶應義塾大学経済学部教授

何を引き金に?

 危機の第1段階は、日本の経常収支が大幅な赤字を記録することから始まる可能性がある。
 格付機関が日本国債を格下げ、外国人投資家が日本国債を次々と売却、国債の金利が上昇して行く。
日銀が金利上昇を防ぐべく国債を買い支える、そうすると貨幣供給量が増加するためインフレが生じてしまう。インフレが2%を超えるとハイパーインフレに向かっていく。
 国債価格が下落すると、金融機関には大きな損失が生まれるので金融機関は貸し剥がしに走る可能性がある。それによって中小企業が倒産する。
ハイパーインフレを阻止するには、財政再建計画を示しての国債に対する信用力を高めるしかない。

影響は?

 財政再建計画では年金カットや高齢者医療の圧縮、増税となる。国民や野党、メディアの反対でそれが出来なければハイパーインフレになって国の借金が実質ゼロになるのと反対に預貯金や年金が大幅に目減りし結果的に強制的にある程度お金を貯めた高齢者が一番ツケを払う形になる。
 国債金利が2%上昇すれば数十兆円のお金が海外へ逃避する可能性がある。
 財政再建の場合政治的なプロセスを踏んである程度合意の上で行うので我慢のしようがある。これに対してハイパーインフレでは堅実な生活をしていた人から有無を言わさず財産を取り上げ、刹那的な生活をしていた人には被害が無いと言う不公正が起きる。したがって、長い時間をかけて財政再建を実行したほうがはるかに合理性が高い。
 ハイパーインフレになるとマーケットから日本円を浴びせられる。(日本経済の規模は大きいのでIMF が出てきても事態を沈静化できない可能性もある。)
 IMF 管理下になった場合のシナリオとしては、新円を発行して手持ちの現金との交換を制限する。年金の削減、公務員の削減、消費税の大幅アップ、医療の自己負担額の増額、公共事業費の削減が考えられる。
その後は、日本人の賃金が下がり円安になり、反対に技術力があるので日本の産業が復活する可能性はある。(注:新通貨は2024年の発行が予定されている)
 ハイパーインフレが起きると日本人の汗の結晶である千数百兆円の預貯金がほとんどすべて失われ、年金も大幅に削減される。また日本の土地や企業はアメリカや中国の外資系企業に買われる。
 日銀や財務省、経済産業省にも、ハイパーインフレは一瞬で終わって経済もすぐ復活するので、消費税増税よりもはるかに望ましい。と主張する人たちも結構いる。

今50代の人は悲惨な老後になる

 私がこの対談に参加した動機は、私の年齢(40代)(注. 2021年時点では55歳)も関係しています。今の40代はこれから財政破綻のコストをもろにかぶることになりそうだからです。
 日本の財政の現状を考えると、これから数年は何事もなく過ぎるかもしれません。本当に危機的になるのは、今から10年後~20年後でしょう。本書のシナリオのように危機的な状態から回復するまでに、さらに10年~20年の歳月がかかるとすると、今40代の筆者は悲惨な老年期を過ごすことになります。今の70代、80代の人は財政破綻が起きる前にこの世を去ることができる「逃げ切り」世代かもしれませんが、今の30代、40代、50代、60代の人は逃げきれないのです。私が高齢者になった時に、日本が最悪の状態になるのは勘弁してほしい。一個人として考えても、財政を立て直す改革を私が若いうちに、早く実行してもらいたいのです。これは今の30代~60代の人々の共通の願いであるはずです。
 本書は、増税や歳出カットの痛みがあっても財政を再建しなければならない、という当たり前のことを主張しています。当たり前のことができなければ、私たちの老後は悲惨なことになる。先人が築いてきた経済大国の土台が崩れ、子孫に残せるのはみすぼらしく窮乏した日本になってしまうかもしれません。

(ジャパンクライシス ハイパーインフレがこの国を滅ぼす 小林慶一郎、橋爪大三郎著 2014年10月20日発行より)

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