秘密の森、病める少女
東京の西のはずれ、トランキライザーをポケットに、少女が秘密の森のなかに入る。暗い道は樹木に囲われ、呼吸は次第に楽になっていく。道の先にあるのは大小様々な石がストーンヘンジ状に囲う池。
覗き込む池のおもては、少女の顔だけを映す鏡色。月あかりのなかをドラゴンフライが飛んでいる。さまよう少女のまなざしは見上げる狼の星座、南のかんむり。
近くにそびえる電波塔と遠い山の電波塔をつなげる電波は、少女でさえ懐かしく傍受できる。電波は生き物を誘う。みみずくかふくろう、そしてその他の夜鳥の声。
鵺の声もしてくる。リコーダーのような声を発しながら近づいてくる。樹木の陰、樹冠から、月あかりへ向けて生物たちは鳴き続ける。風がゆるやかに地を這った。池のみなもが鏡色のままゆれる。
こころの病は治りそうもない。メンヘラの肩書きは、けれども秘密の森に捨てれば消えていく。森の樹木に囲われて、トランキライザーは少女のポケットに眠ったままでいる。