調子の悪いときに小さな家事をする
落ち込みやすい性格だ。気圧や加齢やホルモンバランスのせいもあるのかもしれない。そういう理由をつけて自分を俯瞰してみると少し楽になることもある。でも理由をつけたら落ち込まなくなるかといえば、やっぱりそんなことはない。例えばホルモンのせいだとして、理由が分かってもどばどば出ているホルモンは止まりはしないだろう。それに私の思考や気分は全部何かの物質の産物であって私本体など存在しない、とまでは思えない。落ち込みを感じている自分は確かに存在していて、それはやっぱり自分でなんとかしなければならないのだ。
気分的なこともあるが、体力的なこともある。仕事で連勤が続くのも若い頃のように気合いで乗り切ることができなくなってきた。疲れが取れなくて休みの日にゴロゴロして過ごすことが増えた。そのぶんよく休んで回復できているからいいのかもしれないけれど、やっぱりちょっとへこむ。
そんなふうにゴロゴロして終わってしまった休日の夜、この日は本当に一日ゴロゴロゴロゴロゴロゴロしていて、寝るまでにはちょっと時間があるけどもう外出したりはできないなという時間になってしまった。
このまま何もしないで一日が終わるのか……。
とりあえず昨日の夜に洗って干して取り込んだ洗濯物だけでも片付けようとして収納ボックスの引き出しを開けたら、買って数回しか着ていないTシャツが目にとまった。
デニムっぽいけど柔らかい生地で、ゆったりオーバーサイズのTシャツだ。色合いも肌触りも好きで気に入って買ったのだけれど、首まわりが開きすぎていて重ね着しないと着られない。たぶんカラフルなタンクトップなんかと合わせるとちょうどいいのかもしれないけれど、私はそういう着方を全然しない。仕方ないので首回りをプリーツ状に折って安全ピンでとめて着ていたけど、ちゃんと縫いたいなと思っていたのだった。
今日はこれを縫っておこう。出来上がったら明日はこれを着ていこう。
百均で三百円で買った裁縫箱を取り出して、針に糸を通した。安全ピンでとめていたところに針を通していく。首回りの前と後ろをささっと縫って五分くらいでできた。試しに着てみた。ちゃんと脱ぎ着できるし、自分がこういう形ならいいのにと思っていた形になっていた。気持ちがすとんとすっきりした。
やってしまえば簡単な家事なのに、やりたいなぁいつかやろうと思いながら、そういえばずいぶん長いこと放置してしまっていたのだった。こういうのが片付くとすっきりする。
なにかひとつできたらいいのかもしれないと思った。怠惰に過ごしてしまった休日も、ちょっとした家事をひとつだけでもできたら、なにもしないで一日終わったことにはならない。五分で終わることでもいいのだ。それだけで気分がすっきりする。
このことに気づいたので、私は休日に安心してゴロゴロできるようになった。いっぱい頑張ったりしなくても、ちょっとしたことひとつだけできたらその日は百点満点としよう。どっちみちどうせゴロゴロするなら、何かしなきゃしなきゃでもできなかったと思いながらゴロゴロするより、思う存分ゴロゴロする贅沢を楽しんだ末にちょっとだけ小さいことをやって「できた!」という気分も味わって一日を終えられたら、充分休めて気分もよくて家事も少し済ませられる。
ちいさな「できた!」を少しずつ重ねていこうと思う。身の回りのささいなことを少しずつやりたいようにしていけたら、自分をもう少し大事にしてやれるかもしれない。