野鳥観察を始めた日の記憶@東京港野鳥公園
私が野鳥観察(いわゆるバードウォッチング)を始めたのは2018年12月28日。「何かの趣味を始めた日」を明確に覚えていることなど、なかなかないと思う。しかし、私にとってこの日は、手帳を見返さなくても思い出せるほど、大切な日になったのだった。
その日は朝からよく晴れていて、私はどこかに出かけたくてしょうがなかった。始まったと思ったら終わってしまう、1週間ばかりの冬休み。近場の散歩でもいい。ふと書き溜めていた手帳の「行きたいところリスト」を見てみると、以前何かのきっかけで知った「東京港野鳥公園」のメモ。野鳥が観察できる公園で、観察用の双眼鏡も無料で貸し出してくれるみたい。でも、こんな年末でも空いているのだろうか?
電話してみると、「年内は今日が最終日」とのこと。何となく縁を感じて、自宅からは1時間以上かかるが、とりあえずお気に入りのオリンパスのデジカメ(STYLUS XZ‐2)を携えて向かった。
東京モノレール「流通センター」駅下車。初めて降りた。4車線の道路に大型トラックが地面を揺らしながら突進するように通り、見渡す限り倉庫が立ち並ぶ。「こんなところに野鳥がいるの!?」と疑念を抱かずにはいられないほど、無機質な景色。そんな道路沿いの歩道を歩くこと約15分、やっと公園の門に到着する(門を入ってからもさらに少し歩くのだが…)。冬とはいえ少し汗をかくほどの距離だ。
チケット売り場で入園料300円を支払い、事務所の方から双眼鏡(Nikon MONARCH HG 8x30)も借りた。まだ使い方も分からないけれど、とりあえず。「進んでいくとネイチャーセンターという建物がある」とのことで、まずはそこへ向かうことに。駅からの無機質な景色とは打って変わって、園内はちょっとしたハイキングコースのようだ。しかも広い。のんびり歩いて5分ほどで「ネイチャーセンター」に到着した。
園内には、「潮入の池」という広い池がある。そこを一望できるように、ネイチャーセンターの壁面はガラス張りになっている。温かい室内で観察できるのはありがたい!
高齢のご夫婦や、子ども連れの家族、大砲のような特大カメラをもったおじさま。真剣な表情で双眼鏡や望遠鏡を覗き込んだり、図鑑と見比べたりしている。何がいるのかとみんなの視線の方に目を凝らしてみるが、どう見ても樹しかないぞ(笑)見える人には見えているようだ。
腕章を付けたガイドさん(ここでは「レンジャー」と呼ぶ)と思しきお兄さんは、大学生くらいだろうか。「何がいるんですか?」と聞いてみる。いい年した大人が素人感むき出しの質問で恥ずかしかったが、実際素人なんだから仕方ない。
「今は、ノスリが見えてますね」とお兄さん。ノスリ…そんな名前の鳥がいるのか。まったく聞いたことがない文字列。どんな風貌なのか見当もつかない。双眼鏡を眼に当ててみるが、そこにはやはり樹々があるのみ(ちゃんと使えていないのも原因)。まごまごしていると、センター内に設置している望遠鏡のピントを合わせて「ここに入ってますよ」と促してくれた。
恐る恐る望遠鏡を覗き込む。…おぉお!これがノスリ!?やや遠いが、小鳥ではなくて、タカとかワシみたいな強そうな感じ。色は茶色っぽい。樹にじっと留まっている。あ、ちょっと動いた!本当に生きてるんだ(鳥についてほぼ無知だった当時の印象です)。へぇえ、こんな大きい鳥がこんなところ(都内・都会)にもいるんだ~!(しばらく眺める)
今日が初めてのバードウォッチングだと伝えると、ノスリがどんな鳥なのかをいろいろと解説してくれた。お兄さん、楽しそうだ。
私が初ノスリに興奮している間に、お兄さんは次々に他の鳥を見つけては、来園者と「今○○があそこの茂みに入りましたね」「△△が出てきましたよ」などと話している。慌ててその方向を眺めるが、私には鳥らしいものがさっぱり見当たらない。こりゃ相当訓練が必要そうだわい!
にしても、肉眼では樹や草にしか見えないところに、なぜ鳥がいることが分かるのか。人知を超えた力を持っているのではなかろうか。すごいな。
双眼鏡の使い方もレクチャーしてもらい、しばらく自分で眺めていると、すぐそばの大きな石の上に小さな鳥が留まった。「カワセミですよ」とお兄さんが教えてくれる。カワセミは知ってる!公園の池でも何度か見かけたことはあったけれど、いつもすごく遠くて、満足に「見た」と言えることは一度もなかった。
今なら、肉眼でも動きが分かる距離にいる。まだ慣れないけれど、双眼鏡でも見てみよう…(双眼鏡でピントを合わせる)
「…!」
あの時の衝撃は、凄まじかった。10年、いや、20年、片っ端から思い出をひっくり返しても、こんなに興奮したことはなかった。「…!」なんて陳腐な表現しかできないのが本当に悔しい。
「こんなにきれいな羽の色だったんだ」「こんなつぶらな目をしていたの!?」「なんてかわいらしいあんよ(足)なんだ!」
こうしたカワセミそのものに対する驚きや発見はさることながら、衝撃をもたらした最大の要因は「双眼鏡の威力」だった。こんなにくっきり・はっきり景色や対象物を見ることができるのか。いつも遠くて見えずに歯がゆい思いをしていたカワセミが、手に取るような距離に見える。小首をかしげるしぐさやまばたき、風になびく羽1枚までも認識できる。同じ景色でも、双眼鏡を通した景色は別世界。すごいな双眼鏡!すごいなNikon!
滞在すること約2時間。そろそろお腹も空いてきた(園内には自販機のみで売店はない)。初めての野鳥観察で、初めての鳥たちとの出会い。「年末のちょっとした散歩」にしては、あまりにも充実した時間だった。双眼鏡を通して見える世界を、もっともっと覗いてみたい。ノスリのような、見たことも聞いたこともない鳥と出会いたい。興奮冷めやまぬ帰り道。2018年も残り3日という日に、私は自分でも驚くほど野鳥観察にノックアウトされてしまっていた。
「年明け、双眼鏡を買いに行こう」。
かくして、私の野鳥観察ライフが幕を開けたのだ。
【一羽一会の野鳥たち】
ノスリ/カワセミ/イソシギ/ジョウビタキ♀/クイナ/トビ/アオサギ/コサギ/カワウ/オオバン/カルガモ/イソヒヨドリ♂(帰り道、園外で)
クイナは自力で見つけられた。「初めてのバードウォッチングで、クイナを見つけられるのはすごいですよ!」とお兄さんに褒められたのが嬉しかった。お兄さん、いろいろとありがとうございました。
写真はすべてオリンパスのデジカメ(STYLUS XZ‐2)で撮影。
↑私に衝撃を与えた一羽、カワセミ
↑捕らえた小魚を石に打ち付けているカワセミ。こんなワイルドな一面もあるなんて。
↑クイナ(画面中央よりやや右上辺り)
↑ジョウビタキ♀
↑イソシギ
↑アオサギ(中央)とオオバン(左)
↑イソヒヨドリ♂(帰り道、駅に向かう途中の橋より)
長文お読みいただきありがとうございました。