「寛解」という希望が潰えた日。①
2020年4月26日(日)、
2度目の肝臓の腫瘍切除という大手術を終え、都内のがん専門病院を無事に退院した。
結婚式直後から約10ヶ月間、ほぼスケジュールを変更することなく約20回も継続してきた抗がん剤(FOLFOXIRI)だったが、ずっとこの手術の実現を目標に頑張ってきた。
ようやく、その辛い日々の終わりを迎えられる。
この手術さえ無事に終われば、あとは僅かな肺の転移を切除し、「寛解」という目標に辿りつける。そして、止まっていた「2人の人生」をやっと前に進めていける。
やっとの想いで這い上がり続けた長い長い崖の頂上に、とうとう手が届こうとしていた。
この1年、妻は本当によく頑張ってきた。
弱音を吐くことはほとんどなく、僕の前で涙を見せたのはたった一度だけだった。
そんな時だった。
退院翌日くらいから、妻は何度か自宅のドアや壁に肩をぶつけそうになっていた。
大手術の退院直後で足腰が少し衰えているくらいに思っていたが、話しを聞いてみると、時々、右目の視野がチカチカと光って見づらいことを教えてくれた。
それは、2度目の手術直後の入院中から起きていたらしい。
2度目の手術の入院期間は、コロナの影響で、お見舞いどころか、入院病棟にほとんど出入りすらできなかったため、1度目の手術とは違い、妻の近くで寄り添ってあげることができなかった。そのため、話しをするタイミングがなかったのだろう。
その話を聞いた時、「念のため、数日中に病院に行って診てもらおう。」と妻に伝えたが、内心、「大したことではないだろう。」と呑気に構えていた。
だが、事実は違った。
まるで、必死の想いで這い上がり続けた長い長い崖の頂上に手が差し掛かった時、その手を振り払われたような想いだった。