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公用車広告⑦~市が反撃開始。文書公開拒否、黒塗り文書、強弁
それは突然やってきた。2020年12月18日、財産管理課K課長と思われる人からのメールだ。
「広告主が暴力団関係者であるかどうか、広告主が広告掲載基準に適合しているかについて、全て審査は適正に行われており、各種広告基準に適合した広告であると判断して掲載しております。
不祥事を起こした企業については、市として必要があると判断すれば適切に対応していきます。ただし法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるため、市の対応について答えることはできません」(骨子)
12月1日の市議会で、財産管理課の上部組織である企画財政部のH部長が、「(公用車広告の)今後のあり方について検討していく」と答弁したことで、事業の改善、もしくは停止があるのではないかと思っていた矢先のことだった。
実は財産管理課とは、2020年10~11月にかけて文書の追加請求や、あるはずの文書が出されていない、といったやり取りが続いており(前章の今仲議員の調査、オンブズマンのX氏による面談も、その時のことである)、
●市も広告代理店も、広告主の審査をしていない
ことは確実だった。
しかし面談の席で、財産管理課の係長や主任は、
「広告主の審査は広告代理店がやっている。市は広告主が市税を滞納していないか財務課に照会し、広告紙面のチェックをしている」
と繰り返した。
前章で触れた大量に出された「広告紙面のただのコピー」は、「広告紙面の文言やデザインはチェックしていますよ」という意志表示だったらしい。でも、紙面だけでは広告主の審査をしたとはいえない。
「市の事業なんだから、市が広告主の審査をするのが当たり前なんじゃないですか? なぜやらないんですか?」
私が言うと、今度は固く口を閉ざした。
上から目線の物言いに、堪忍袋の緒が切れる
いつまでたってもはっきりしない状況を打開すべく、12月15日、公用車の広告主8社の調査記録を、具体的な項目をあげて求めた。
1. 市税の滞納がないこと。
2. 暴力団関係者とつながりがないこと。
3. 各種広告基準に適合した広告主であるかどうか。
4. 市役所の関連部署に苦情が寄せられた会社かどうか。
5. L・C社とLG社が不祥事を起こした後、どのような再発防止策を取り、どのような成果を上げているのか(不祥事があっても広告掲載する根拠)。
しかし、私のその「しつこい」態度が財産管理課のK課長の神経を逆なでしたらしい。その返事が冒頭のものだった。
ちなみに財産管理課の課長は、6課の課長から成る「広告掲載審査委員会」の委員長であり、広告事業のラスボス的存在である。
しかし、なんという上から目線。
「調査記録をまったく出すことができないくせに、審査は適正にやっている?」
「市民より、不祥事を起こした会社の権利のほうが大切っていうこと?!」
初めて猛烈な怒りを感じた。人を見下すのもいい加減にしてほしい。
法務課、Uさんという職員
すぐに法務課・情報公開係のUさんにメールを入れた。
「9月以降、公用車広告はおかしいのではないか、ひいては市の広告事業はどうなっているのか知りたいと思い、今まで貴課の皆様、関係部署の皆様のお力を借りながら必要な資料を集めてきました。今回のメールはこうした努力を無にするものです。
お願いしていることは非常にシンプルです。ある書類は開示していただき、ない書類はないということを文書でいただく、というだけのことです。
証明書類なしの『やっている』は、何度も聞いています。
やっているとおっしゃるなら、それを証明する文書を開示していただきたいというのが、今回の請求の一つですので、このまま了承するわけにはいきません。
なんのための情報公開制度なのか。法務課として財産管理課の指導をお願いできれば幸いです」
するとUさんは「お知らせいただき、ありがとうございます」と言って、すぐに動いてくれた。上司に相談のうえ、財産管理課に話をしてくれたのだ。
情報公開制度の決まりなのか、情報公開係は文書の受け渡しの席に必ず立ち合い、面談があれば離れたところに座ってやり取りを聞いていた。UさんはUさんなりに、この事業、あるいはやり取りに問題意識をもってくださっていたのだろう。
大学で法律を学んだという彼女は、思慮深く、聡明そうな目をしていた(マスクで顔の半分は見えなかったけれど)。
私は財産管理課あてにメールを送るときは、途中から必ずUさん経由で送るようにしていた。財産管理課の対応が納得できないものだったため、現在、どのようなやり取りが行われているか、第三者に把握していてほしかったからだ。
そして彼女にはそう思わせる何かがあった。
しかし法務課の注意にもかかわらず、請求した文書、つまり5つの質問の答えも、「広告主の審査はしていない」という文書も、遂に提出されることはなかった。
隠された企画提案書、概算見積書
年が明けて2021年。市の反撃はまだ続いた。まず広報課の「ふなばし市民便利帳」(請負先/サイネックス)。(私は公用車広告だけでなく、その他8つの広告事業の実態調査もしていた。詳しくはプロフィール欄参照)
入札ではなく、プロポーザル(企画競争)による代理店の選定で、代理店が提出した企画提案書や概算見積書が、市によって審査されたはずだった。
ところが、請求に応じて出てきた企画提案書は真っ黒だった。
「これが世に言う黒塗り文書か」
軽蔑にも似た思いで紙を光に透かしてみた。何も読めなかった。
2021年8月、名古屋入国管理所収監中に亡くなったスリランカ人女性の調査で、名古屋入管が1万5千枚の黒塗り文書を出し、それを遺族側の弁護士、指宿昭一氏が「この真っ黒の紙は、入管の闇を表している」と言ったと報じられたが、スケールこそ違え、船橋市の広告事業にも、市民には見せられない闇があるらしい。
広報課は概算見積書についても、「存在しない」として公開しなかったが、プロポ―ザルの参加条件には同書の提出が明記されている。見え透いた嘘である。
また「最終的に承認した企画内容、事業にかかる費用等を記した文書は不存在です」というメールも来た。いやしくも市の事業である以上、こうした最終文書が存在しないわけがない。
商工振興課「駅前歩道橋デジタルサイネージ」(請負先/長田広告)も、事業計画書と概算見積書の公開を拒否。
実は両事業の「プロポーザル実施要領」には、「企画提案書(事業計画書)や概算見積書は、情報公開請求があれば公開する」と明記されている。にもかかわらず公開を拒否してきたのだ。
一般競争入札によって動画広告の代理店を決めている駅前総合窓口センターも、事業計画書の公開を拒否した。
「(事業を落札した)長田広告に問い合わせたら、公開しないでくれと言われたから」
とのこと。
同じ日の同じ時間に送られてきた、同じ内容のメール
呆れた。そしてUさんに「プロポーザルの実施要領には情報公開すると書いてある」と抗議すると、その連絡を受けた3課は、1月15日午後、ほぼ同じ時刻にほぼ同じ内容の公開拒否メールを送ってきた。
いたるところに情報公開条例、著作権法、船橋市広指令といった条文名がちりばめられた、いかめしい文書だったが、簡単に言えば、
「文書の著作権は広告代理店にあり、代理店が『公開したくない』という意志表示をしたので公開しない。またそれを公にすることは、法人または個人の権利、競争上の地位、その他正当な利益を害するおそれがある。また市長には文書を公開させる権利がない」
ということだった。
Uさんに問い合わせたが、各課が言うとおり著作権は代理店にあるので、代理店が嫌と言えばしかたがない、とのことだった。
でも代理店が作っていても、市に提出され、市が承認している以上、市の文書でもあるんじゃないの? と思ったが、そういう論理は通用しないらしかった。
一市民の要望は軽いものなのか?
それにしても3課が一斉に同じ文面のメールを送ってきたところを見ると、3課とも財産管理課のK課長に相談し、4課で今後の対応を協議したとみられる。
その徒党を組んだ感じが、とても不愉快だった。
結局、これらの事業の企画提案書、事業計画書、概算見積書を手にすることはなかった。でもお金の動きがわからなかったことは残念だが、私の調査は監査ではないし、刑事事件の捜査でもない。誰に言われてやっているものでもなかったので、公開されなくても社会的な影響があるわけではなかった。
それに企画提案書や事業計画書は、広報課、商工振興課ともに、現在行われている期(3年契約)のものは公開しなかったが、それ以前の期のものは出してきていたので、今の内容もおおよその見当はついた。
正直、こんなぬるい企画書が通用するのだから、お役所相手の仕事って楽だなと思った。そして、わざわざ隠すほどの内容でもないと思った。
最大の問題は、市が法律で保障された市民の知る権利を、あの手この手でつぶしにかかったことである。法的な裏付けがあるなら仕方がないと言われればそれまでだが、今まで新聞報道などで見ていた、著作権法などを盾に黒塗り文書や公開拒否文書を受けとった方々の無念を、初めて実感した。