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公用車広告⑥~衝撃の落札価格。追及、追及、そして議会へ

今仲調査が語る市の怠慢

  2020年11月中旬、情報公開請求で出てきた公用車広告の契約書を前に、私、今仲議員、千葉県市民オンブズマンのX氏は言葉を失っていた。私たち3人は今仲議員がおさえてくれた市庁舎内の議員用会議室に集まって、時々情報共有していたが、このとき契約書に書かれていたのは、
広告掲載料 年額 13万5600円(消費税、地方消費税別)
 というものだった。

公用車契約書小

 そう、公用車55台が稼ぎ出す広告料は、年額たったの13万5600円だったのだ。

 2019年4月1日に始まった船橋市の公用車広告は、前年の2018年12月に一般競争入札が行われ、参加1社という無競争状態で長田広告が落札していた。上記「広告掲載料」は、その時の「落札価格」で、しつこいようだが、市に入るのはこの13万5600円/年だけなのだ。

「1台当たりの月額に換算すると、たったの205円ですよ」
 私が言うと、
「2018年の議会では、1台当たり月3000円の見込みって言っていましたよね」
 今仲議員も呆れたように言った。
 13万5600円は「事業の収益」と呼ぶには、あまりにも低かった。
X氏「そんな事業、やらなきゃいいのに」
私、今仲議員「本当に」

 なんでこんなことになったのか、調べなくてはならないと思った。

 その実態について、今仲議員は早々に調査を開始していた。財産管理課にアンケート調査を行ったのだ。

 それによると、公用車広告に対するクレームは、事業が始まった2019年に3件、20年に1件で、

●A社のような企業の広告を載せてほしくない…3件
●市と取引のある特定の企業の方が広告を出しやすく、不公平に陥りやすい。公用車広告はやめたほうがいい…1件

 広告掲載を希望する事業者の審査については、

Q1 どのような事業者でどのような内容の広告か。
A  把握していない。
Q2 広告代理店が、広告掲載基準等に抵触するとして、掲載を断った事業者はあるか。
A  把握していない。
Q3 広告代理店が事業者に対し提示している広告掲載料(広告料)は。
  把握していない。
Q4 広告代理店による広告主の募集方法は。
A  把握していない。
Q5 広告代理店による事業者の審査方法は。
A  把握していない。

 だった。なんだ、何も把握していないではないか。本当に何もかも丸投げなのでは? 疑念が膨らんだ。そして苦情を寄せていたのは私だけではなかったことを知った。

公用車は物品? 落札最低価格なし? 市の呆れた言い訳 

 今仲議員は代理店の公募要領に記載されていた事業計画書がないことにも疑問を抱き、K課長と話をした。すると、
「公用車は物品なので、事業計画書はいらないんです」
 という返事だったという。

 物品? 車が? 疑問に思った私は財務省に問い合わせた(実は地方自治体は総務省の管轄下なのだが、その時は知らなかった)。
 すると対応してくれた職員は、他の自治体の公用車広告をネットで調べたうえで電話をくれ、
「個人的には、公用車が物品ということには疑問を感じます」
 と言った。

 改めて調べてみると、公用車は「物品」ではなく、広告媒体としては「屋外広告物」にあたり、公募要領に定めているなら、代理店は事業計画書を市に出さなければならないのだった。

 また今仲議員は市の収益が異常に低いことについても切り込んだ。
一般競争入札なのだから落札最低価格が設定されたはず。なんでこんなに低い金額でも落札できたんですか?」
 しかしK課長は、
「いやあ、落札最低価格を決めていなかったのが失敗でした」
 と答えたという。そんなこと、あるはずがない。

 でも行政に無知な私は、これらのK課長の言葉に振り回され、調査に余計な時間を使った。

オンブズマンX氏の交渉術


 X氏からは色々なことを学ばせてもらった。

 氏にとって私のサポートは、あくまでも個人の好意によるものだったため、本来のオンブズマンの仕事が忙しい時には、ふっつりと連絡が取れなくなった。それでも忙しい時期を脱すると、「どんな情報が集まりましたか?」と言って連絡をくれ、車を飛ばして何度も船橋市役所まで足を運んでくれた。

 ある時、ソファーに腰を下ろすと、インターネットで集めた横浜市の広告事業や、財務省が出している「行政財産等への屋外広告掲出ガイドライン」などの資料を、私たちにくれた。

 あとでわかったことだが、自治体の広告事業を知るうえでこれらの情報は重要で、広告事業について何も知らないはずのX氏がこの2つの文書を選んだのは、長年の経験から来る「物事の本質を見抜く目」の確かさによるものだったろう。
 常に厳しさをたたえ、無駄口は一切なし。巨悪と闘ってきた歴戦の勇者然としていた。

 そのX氏には時々叱られた。私が「○○課の職員がこう言っていた」と軽い気持ちで言うと、
「ちゃんと文書で回答をもらったの?」
 と、厳しい言葉が飛んできた。過去、対峙してきた相手から味わわされた、苦い経験があるのだろう。
「まあペラペラと適当なことを言いますよ」
 と呆れたような口調で言うのも聞いた。ゆえに、市からはできるだけ文書やメールで回答をもらうことを心掛けた。

 あるとき打ち合わせが終わると、X氏は、
「じゃあ、行きましょうか」
 と言って立ち上がった。???と思って見上げる私に、
「財産管理課に行きますよ」
 
 私が、財産管理課が広告主の審査記録をなかなか出さないとこぼした後だった。

 アポなしで2人で財産管理課を訪れると、対応してくれた職員たちのなかに、あの、9月末に私に対応したS係長がいた。またぞんざいに扱われるかなと思ったら、バツの悪そうな顔をしながらも、前回よりずっと紳士的に接してくれた。

 情報公開請求で出てきた起案書(企画書)があまりにも簡単なものだったため、
X氏「ちゃんとした起案書はないんですか?」
職員たち「すでにお渡ししたものしかありません」
X氏「広告主をチェックした書類はないんですか?」
職員たち「ありません…」
X氏「広告掲載基準があるんだから、それに沿ってチェックした記録があるはずでしょ。チェックシートはないんですか?」
職員たち「ありません…」

(ほかにも出ていない文書を早く出しなさいという話の後)
X氏「市の収入は13万ちょっとなんですよね。なんでそんなに安いんですか?」
 職員たちは黙りこんだ。

 するとX氏の口調が変わった。
「あなたたちも大変でしょう。一生懸命働いたって、これしか収入がないんだから」
 急に笑顔になる職員たち。ホッとしたような、そうなんですよ、とでもいうような表情…。
X氏「こんな割に合わない事業、やめたらいいんじゃないですか?」
 さらに大きな笑顔が揺れるなか、S係長が言った。
「でも続けろって言う人がいるんですよ」
 X氏の優しい言葉に、思わず明かした舞台裏だった。

 なごやかな雰囲気のまま、私たちは財産管理課を後にした。
「一人で来るより、いいでしょ」
 X氏の言葉にうなずいた。確かに前回一人で来た時とは、全然対応が違った。やはり話し合いは一人より複数人で行うほうがいいのだ。

 しかしこの時私は別のことに舌を巻いていた。追及するかと思えば相手の気持ちに寄り添ってみたり。その巧みな話術に感心していたのだ。これも交渉術の一つなのだろう。この訪問で職員たちは、こちらに対する警戒心を少しは解いたのではないだろうか。
 また、相手がなかなか思うような情報を出してこないときは、こうやってプレッシャーをかけに行ってもいいんだということを学んだ。

 それにしても、この事業を続けろと言っているのはいったい誰なのだろう。もしかしたら公明党のあの人かもしれないと思った。

12月1日、議会で追及

 明らかになってきた数々の情報を踏まえ、12月1日、今仲議員は第4回定例会(市議会のこと)で、広告事業について質問した。答弁したのは財産管理課を監督する企画財政部のH部長である。以下骨子。

今仲議員◆この事業収入は平成30年(2018年)第3回定例会において、当時の企画財政部長が月3000円台の収入が見込まれるとしていたのに、現在は月205円だ。それでも市民との直接契約ではなく、代理店方式としたのはなぜか。

H部長 市としては公用車55台全てに広告を募集することの専門性がないことから、広告代理店に一括して発注することが望ましいと考えたからである。

今仲議員◆専門性がないと言うが、市が市民と直接契約すれば、55台の半分しか広告が取れなくても、月3000円/台で換算すれば、年間100万円近い収入があったはず。市は財政状況が厳しいとして市民の負担を増やしているのに、歳入確保に真剣に努力しているのか。

 また担当課に調査依頼をかけたところ、代理店が事業者に対して提示している広告料や実施方法、事業者の審査方法などの把握がなかった。広告代理店や広告主の身辺調査、特に暴力団との関係など、しっかりチェックリストで確認しておく必要があると思うが。

H部長 広告主の審査方法や広告掲載料は把握していないが、基本的には広告掲載基準に沿った業種、事業者の広告を掲載していると考えている。

今仲議員◆類似会社の広告が多く、特定の業者への片寄りが生じている。市の事業である以上、たとえ代理店方式でも公共性に配慮して、事業内容や広告料、申込方法や代理店情報は市のホームページに掲載するべきではないのか。

H部長 広告料は代理店と事業者の民間同士の契約であるため、掲載の予定はない。掲載業者の片寄りについては、次回募集をかける際には検討していきたい。

今仲議員◆代理店と広告主との契約には、市がしっかりと関わっていくべきだと思う。また13万でも財政収入になればいい、市は関わらなくてもいいというものではなく、特に公用車広告は事業者と市のリンクが強い印象を与えるので、特段の配慮が必要だと思う。

H部長 公用車広告は市として初めての試みであるため、今後、そのあり方についても検討をしていきたい。

 今仲議員が引き出したH部長の最後の答弁から、事業の改善について、わずかながら光が見えた気がしたのだが…。


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