ノムさんとサッチーの連携が見事だった話
仕事に打ち込む夫と、サポートする妻。昭和の理想の夫婦像を体現する様子を、野球人のサイン会で見ることができるとは。
野村克也さん(以下、ノムさん)が亡くなった。
現役時は強打攻守のキャッチャーとして、三冠王やホームラン数歴代2位などを達成。監督としては、データを駆使したID野球を標榜し日本一になること3度。クイック投球の導入や、リリーフ投手の確立などで野球を進化させた「近代日本野球の父」的存在だった。
ノムさんから14年前に、『野村ノート』刊行記念イベントでサインをもらう機会に恵まれた。
会場は、紀伊国屋書店新宿本店。長蛇の列を抜けた先のサインをもらえるスペースには、ノムさんと妻の沙知代さん(以下、サッチー)がいた。
男性客が多い中、私の目前に並んでいたのは若い女性。
サッチーが「ほら、あなた!若い女の子よ!!」と呼び掛ける。ノムさんはサインを中断し、顔を上げる。女性を確認すると、ニコッと微笑んだ。それだけで、言葉を掛けるわけでもなかった。
私の番が来る。舞い上がり「野村さん。スポーツライターになりたいので、なれたら取材させてください!」と言ってしまった。サッチーは「あらー。野球が好きなのね!!がんばってね!!」と大人の対応で励ましてくれた。一方、ノムさんは「学生さん?」とぼそりとつぶやくのみだった。
サインを書くことに没頭し、達筆な書と存在感で来場者を喜ばせたノムさん。客に丁寧に対応することで、場を盛り上げていたサッチー。
強烈なキャラクターで、賛意両論があったサッチー。ノムさんは常に、「サッチー最高!」「おれは嫁がいないと何もできない」と語っていた。2人の血をひく野村克則東北楽天コーチは、野球関係者から「あんなに良いヤツは見たことがない」と絶賛されている。
【写真説明】
〈見出し〉18年3月に八重洲ブックセンターで講演を行うノムさん。「監督として期待しているのは宮本慎也。感性と思考力が素晴らしい」「選手として期待しているのは森友哉。好き」「若い人には夢を持ってもらいたい。高校生の頃、まさか自分がプロ野球選手になれるとは思わなかった」「結局は自分との戦い。原理は簡単で、努力をする。当たり前のことを当たり前にする」
〈本文〉ノムさんの達筆すぎるサイン