めんどくさい愛しさ『A YEAR OF SPRINGS』- インディーゲームの話| 森田一郎の毎日戯文 #187,188合併号
ドーモ、森田一郎です。「合併号」という便利な言葉に思い至ってしまいました。まあたまにはよいでしょう。自分の好きで毎日書いているのですから。
さて、本日は9月29日からSteamとitch.ioにて配信中のインディーゲーム『A YEAR OF SPRINGS』のお話をします。こちらはMtFトランスジェンダーの女の子と、その親友の女の子と、その女の子の友達、3人の女の子がいろいろなセンシティブな問題に直面していくというノベルゲームです。
本作には3本のゲーム(+エピローグ)が収録されているのですが、こちらはいずれもitch.ioにて配信されていた作品です。そちらに色々加えたコレクションが、今回の『A YEAR OF SPRINGS』というわけですね。
さて、今回は前提として多少自分語りをします。森田はOpenly Bisexualと言っていいのかどうか、全く隠してないけど別に進んで公表もしていないバイセクシャルであります。
そうした性的指向を持つかたわらで、森田は幼少期から女の子になりたいと思っておりました。ただ、「私は女性だ」という性的自認があったものではなく、とにかく男性になっていくのが嫌だったのでした。今ではヒゲでヘラヘラしているいいおっちゃんの森田ですが、一時期は治療を本気で検討しており女装して生活しておりました。
当時通ってた専門学校の教職員に「本当の女の子はそんな服着ない」と言われて、その場でウンコしてやろうかと思うくらいムカついたのもいい思い出です。確かに派手ではあった。
まあそれは置いといて、だから「私はトランスジェンダーの気持ちがわかる!」というわけではありません。『A YEAR OF SPRINGS』に登場する彼女らの気持ちについて、ある程度想像力を働かせられるし、一部には共感する者であるということです。
さて、そんな森田からしますと、本作『A YEAR OF SPRINGS』は非常に愛しい作品です。彼女らは皆20歳前後で、性的少数者であるとか関係なく“めんどくさい”時期です。箸が転がっても傷つく年頃。30や40になってきたら「ガッハッハ、そんなもんな、ドーンよ!」と言えてしまうようなことでも思い悩みます。そしてもちろん、些細なように見えてとても大きな問題にも。彼女たちは思い悩み、思いやりを交わし、そして時に傷つけ合います。
本作では各エピソードごとに、森田がかつて持っていた、そして今でも持っている心の弱さが繊細に描かれておりました。たとえばせっかく誕生日を祝おうとしてくれている友人に「私のせいで迷惑がかかる」と準備をやめろとせがんだり。枚挙にいとまがない。
本作では、別に悪者がバーンと出てきてバチっとやっつけるわけでもなく、ドラマチックな出来事がズババンと起こるでもなく、それぞれの女性たちがそれぞれの落とし所を見つけていきます。自分の問題と、人の問題と、環境の問題をどうにか受容していくプロセス。それでもかなり理想化して描かれてはいますが、実際に「受容」して心の平穏を得てきた私にはリアルに迫りました。
さて、上にて「めんどくさい」という言葉を用いたのはですね、SNSなんかで性的少数者の話題にほっときゃいいのに突っかかる一部の方がしばしば用いるのを見るからでありまして。本編にはそうした人たちが嫌うであろう「めんどくささ」が満載なのではと思うのですけれども、森田にとってはそここそが、本作の愛しさ、魅力なのでした。
だいいち、人間なんて全世界約79万人それぞれが「めんどくさい」部分を持ちながら生きているのですから、そこはそれぞれにできる範囲で愛でたり対処したり受容したりしていきたいものです。
改めて、『A YEAR OF SPRINGS』はSteamとitch.io向けに配信しております。3作品合わせても1プレイ気負わず読めるちょどよさなので、さっとプレイして胸がキュンとなりたい方はぜひどうぞ。
またあした。