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英検1級等の学習法:質を高める

前回の記事ではそもそも英文を読み込んだ量が足りないと話にならないよというそもそも的な話を中心に展開しました。結論だけかいつまんで挙げると、ついつい語彙難度の高さに目が行きがちですが、純粋な単語問題はともかくとして、英検1級程度の長文読解では未知の単語が多少あったところで文脈で推測できるものであり、豊富な読解量が最重要だという話でした。繰り返しになりますが、私は純粋なリスト形式の単語集はそもそも使ったこともありません。さらに付け加えると、そもそも純粋な語彙問題が出題されるのは英検だけで、TOEFL等の他の高難度の英語試験も考えるとますます長文読解(とリスニング)の重要性が際立つのです(あと最近の大学入試もそうですね)。

現在のレベルより少し背伸びする程度の素材に取り組む

ただし、闇雲に英文を読み込めば良い訳ではありません。日本語に分かりやすく置き換えて言えば、大人が絵本を何百冊、何千冊読んだところで読解力が向上するわけではないわけです。逆に、常用漢字すらままならず、教養の浅い小学生が新聞を読もうとしても全く読み進めることができず、これまた学習効果が低い訳です。つまり、効率よく英語力を向上させるためには”自分のレベルにあった質の高い英語”に取り組むことが必要不可欠です。難度が高すぎても低すぎてもダメなのです。

では自分のレベルにあった英語とはどのように見つければ良いのでしょうか?これは難しい問題です。個人ごとに当然英語のレベルは異なるので、自分で適切な難度の素材を選ぶ必要があります。ところがどれぐらい難しさの教材を選べば良いかを自ら判断するのは容易なことではありません!ここでヒントになるエピソードを紹介したいと思います。

我が子がアメリカの現地校で小学二年生の時の話です。当時、うちの子はそもそも日本語でも文章を読むのが得意ではなかったので英語の本を読むとなると尚更容易なことではありませんでした。学校の授業で使う本も現地の子と同じレベルの文章を読むのは難しそうだったので心配していたのです。当時の担任の先生のアドバイスが素晴らしいものでした!年度の最初のオリエンテーションで担任の先生仰ったのは”1ページあたりの未知単語が5個以下の本を選ぶのがベスト”だということでした。未知単語が少ない場合は当然簡単すぎるので読解力向上にあまり貢献しないのですが、5個を超える場合は難しすぎてダメだというのです。

ロジックはこういうことです。1ページあたりの未知単語が5個以下であれば文脈から未知単語の意味を推測しながら読める範囲なので、文脈から意味を推測する練習をしながら自然に語彙を向上させることができる。また、途中でつっかえてしまうことがないため、読解スピードの向上にも貢献することができる。したがって、読解力を総合的に鍛える上でちょうどいいバランスが1ページあたり5個以下だというわけです!

これにはなるほどと思わされました。実際、我が子はその先生の指導を受けた1年間の間に瞬く間に読解力を向上させ、2年生が終わる頃には当時の年齢にしてはハイレベルな本をとてつもないスピードで読めるにようになったのです。我が子は今でも本が大好きで、日本語でも英語でもとてつもないスピードで読んでしまうのですが(500ページぐらいある小説を半日で一気に読んでしまう)、それは間違いなく2年生の時の担任の先生の指導の賜物です。

ただし、我が子が実践したこの方法はあくまで子供が自然に読解力を向上させる場合の一つの最適解に過ぎません。第二言語として英語学習を進める際にこのペースでは時間がかかり過ぎるわけで、難度を気持ち少し高めに設定する必要があります。ただ、難度が高すぎる素材に挑戦してもかえって効率が悪い訳で、少し背伸びする程度の素材を選んで着実に伸ばしていくことが重要だと徹底していくのが良いと思います。

余談ですが、実はこれ英語以外のあらゆる学習で共通する話で、例えば数学なら計算問題をいくら繰り返しても意味がないし、かと言っていきなり入試問題に挑戦してもつまづくだけなので、徐々に難度を上げていく必要があるわけです。さらに言えばスポーツだって同じです。基礎練は不可欠だけど基礎だけでは高難度の技はできるようにならない。でも基礎の質を高めなければ高難度の技はそもそもできるようにならない。。。というわけで実は本質的に同じことなんです。

さて、ここまでは質の高い英語学習を進める上でのフィロソフィー的な話を中心にしてきましたが、以上を踏まえた上でここからは具体的な各論を展開していきたいと思います。

各論:長文読解

ここまで述べてきた通り、自分の現在のレベルより少しだけ背伸びしたぐらいの英文に取り組み続けることが基本中の基本なのですが、このプロセスを意識的に効率化することができます。いわゆる勉強ができる人はこれから紹介する方法を本能的に実践できてしまっている人が多いのですが、できるだけ分かりやすく言語化したいと思います。

まず、長文読解は文法(主に構文)、語彙、速読力、文脈把握能力を総合的に問われるものであるということを自覚する必要があります。どれが欠けてもダメです。このように各要素に因数分解した上で、どの要素が自身にとってどの程度不足しているかを見極めることができれば、足りない部分を集中的に補える適切な素材を選ぶことに繋がり、効率的に英文読解力を向上させることができるのです。以下は英検2級〜準1級レベル、TOEICで言えば850以上に既に達している方を前提に記載します。

①文法(構文)
語彙以前の問題として、分詞構文、強調構文、倒置、仮定法などが込み入った難度の高い文が正確に読めてない人は、英検1級やTOEFLでつまづくのは勿論ですが、実生活においても英語のニュース記事を正確に読めないと思います。そういう方にお勧めの素材は大学入試用の「英文読解の透視図」(研究者)です。この教材自体が難度がかなり高いので人を選ぶのですが、他に適切な教材が見当たらないので仕方なくこちらを上げさせていただきました。帰国子女として感覚だけで読んでいた自分の中途半端な英文読解力を鍛えてくれた名著です。受験生のときにも読みましたが、社会人になって本格的に英語学習を再スタートさせた時に最初に取り組んだのがこちらで、「英文を正確に読む」ための基礎固めにとても役立ちました。

②語彙
意識的に語彙を高めたい時には文構造的には難しくない程度の語彙にフォカスした読解素材を利用するとちょうど良いです。英検の「文で覚える」シリーズ大学入試用の速読英単語(必修編・上級編)は語彙習得にフォーカスした長文集なのでちょうど良い素材です。とは言え、繰り返しになりますが、いきなり高難度のものを選ぶと破綻するので、やや背伸びする程度にとどめるようにしましょう。なお、語彙は目と耳と口の3通りで身につけると効率的なのでできるだけ音源がある教材を選ぶと良いと思います。リスト形式のものを使う場合も短文が必ずついているやつを使って、目と耳と口の3通りを駆使して覚えましょう。

③速読力
純粋に速読力を鍛えるには、英文のレベルを落とす必要があります。未知の単語・構文が全くない英文をいかに早く読み終えることができるか、実際にタイムを測ってトレーニングする必要があります。この際、頭の中で日本語を一切介さず、英文を英語のまま脳内処理できているかを自身で確かめながら取り組む必要があります。ただし、このトレーニングは必要に迫られないと難しいので、やらざるを得ない状況に追い込むのが手っ取り早いです。

日常的に大量の英文に眼を通す必要がある仕事をしていればそれだけで自然に身につくので問題ないでしょう。毎朝英文のニュースを通勤の電車内でスマホでパパッとチェックする癖をつけることもある程度のレベルに既に達している人には有効です。

そうでない方は例えば英検準1級レベルの方であればTOEICが役に立ちます。このレベルの方ならTOEICで語彙でつまづくことはないでしょうし、最近のTOEICはかなり文量が多く、日本語を介しているようでは読み終わらないのでちょうどいい難度なわけです。そこでTOEICをトレーニングの一環で受験すれば、時間に追われた状況で強制的に速読力を鍛える機会になるというわけです。

④文脈把握力
最後の要素は英語特有のものではそもそもなく、読解力の本質そのものなので最もトレーニングがしづらいかもしれません。ただし、特に英語特有でないということは日本語でも良いわけで、高度な論理展開や抽象性の高いストーリー展開を含む質の高い文章に日常的に眼を通すことが重要です。高度なと言っても、ちゃんと日常的に新聞に眼を通すような教養のある大人になっていれば心配する必要がないはずの要素ですが、残念ながらそうでない大人の方も多いですし、小学生・中学生で英検1級に立ち向かうとつまづくのはこの部分なので一応上げさせていただきました。さらに言えば、正確に文脈を把握する作業は多くの場合深い教養レベルをも要求するものあるわけで、ますます英語だけの話ではないわけです。単純に読むという作業だけでなく、読んだ上で社会課題に対する自分のスタンスを整理するというプロセスを経ることで鍛えることができる能力だとも思います。

各論:リスニング

リスニングを鍛える際にもやはりちょっと背伸びが基本中の基本です。このプロセスもまた、聞き取れない原因を分析することで学習の質を高めることができます。聞き取れない原因は概ね次のように因数分解できます:①語彙、②発音・アクセント、③スピード。最終的にはこれらの要因の組み合わせではありますが、個別撃破することで効率よく学習することができるわけです。

①語彙はシンプルに語彙を向上させればよいわけですが、だからこそ普段から音源がある教材で学習に取り組むことが大切なわけです。語彙に取り組む際はスピードは落としましょう。同時に難度を上げると効率悪いです。ニュースものはいきなりスピードも上がってしまうので、このレベルの人にはお勧めしづらいです。とりあえず英検の「文で覚える」シリーズやTOEFLのリスニングがちょうど良い素材だと思います。

②正しい発音・アクセントを把握してなければ当然聞き取ることもできないので普段から意識することが重要です。とりわけ日本では米語学習が中心なので、英・豪の英語の聞き取りに苦労すると思います。実際には、リアルな英語では、例えばアメリカ内でも住んでいる地域や人種によって極めて多様なアクセントの英語が話されているので状況はより複雑(わたしは未だにインド英語や米南部の英語が苦手)ですが、とりあえず語学試験だけならば英・豪の対策をすれば十分です。

③スピードも語彙と同様に対策がしやすいです。語彙レベルを落としてちょっと背伸びした程度のスピードの素材に取り組みましょう。徐々にレベルを上げていきます。語彙力がある人はニュースものがちょうど良い教材になると思いますが、そうでない人はいきないニュースものに手を出すと失敗します。TOEICは語学試験の中では最も語彙レベルが低く、スピードが割と速めなので初期段階にちょうどよかったりします。

なお、ネイティブの日常会話のスピードは別次元の話です。昔からよく言うようにドラマの視聴でSlang含む口語表現の学習と合わせてやっていくのが効率的かと思いますが、結局はリアルなコミュニケーションの中に身を投じていくしかないと思います(笑)

以上、「質」を高めることにフォーカスしてできる限り学習方法を言語化してみました。ただし、質だけでは「量」を補えないことは改めて強調しておきたいです。英検1級レベルやTOEFL100超であれば量の蓄積と質の向上を両立できて当たり前のレベルだと思いますので、妥協することなく取り組んでいきましょう。

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