見出し画像

高山~近い未来の話し

2018/08/19

山は鬱蒼としており、森林の匂いに混じって死臭がした。

僕は、六十五歳の男をおんぶして山に入った。

男は諦めた顔をしていたが、僕に向かって煙草を一本だけ吸わせてくれと言った。

僕は、すっかり高くなった煙草を仕方なくポケットから出すと、男に百円ライターで火をつけてやる。

男に対して同情は無かった。

六十五歳は若いと言えども、男には腕に障害があったから生きて居ても政府に殺される。

現政府は、役に立たない物に何らかの施しをするのは無駄だと考えていた。

年寄りや障害者は、徹底的に排除されたのだ。

それなら、まだ顔馴染みの僕に山に埋められたほうが、ましだと思えたからだ。

五十歳になった自分自身が、男の立場でもそうだろうと思えた。

僕は、持ってきたスコップで穴を掘った。

深めにしたが、どうせこの山には沢山の死体が埋まっているのだ。

僕の知り合いも、この山で沢山殺されている。

感情を込める必要はないと思いながら、穴を掘った。

深めにしたが、どうせこの山には沢山の死体が埋まっているのだ。

僕の知り合いも、この山で沢山殺されている。

感情を込める必要はないと思いながら、穴を掘った。

最近、官邸前で自害する老人や障害者が増えているらしいが、地方に住んでる僕にはテレビやラジオで放映されないこの噂を、どう捉えて良いか分からなかった。

Twitter等でも言論統制が敷かれていて、一部の活動家がネットは見張られてると、地道に自分達で新聞を作って配ってるとは聞いた事があった。

しかし、地方ではそれを入手するのはとても難しく、やはり僕は読んだ事が無かった。

僕は穴を掘ると、煙草を吸い終えた男を持っていた短刀で何度も刺して、死んだのを確認した。

そして、穴の中に蹴り落として土を上から被せた。

それを機械的に行った。

男も全く抵抗しなかった。

僕も、これで八人目をそうして葬って来た。

慣れないと仕方ないのだ。

慣れると特に罪悪感も無かったが、最初はかなり戸惑ったし、罪悪感に苦しめられた。

それに、男は高い煙草を一本吸ったのだからまだ幸せだと思えた。

二十年前に総理になった阿部が、こういう世界にした。

当初は、反発もしたし出来る活動はしたが、ことごとく失敗して仲間を失ううちに、僕は諦めと言う事を覚えた。

権力には勝てないのだと、つくづく感じたのだ。

一部の活動家の気持ちは分かるが、国家と言うものの前では人間は無力だと思っていた。

それに、彼らは捕まれば拷問にあって死ぬのだ。

僕の仲間もそういう目にあったが、今では拷問も更に苛烈になっているようだ。

彼らが勇敢なのは認めるが、無駄な勇敢さを使うなら今の僕なら、なるべく目立たなく過ごすのが利口だと思っていた。

日本は、数年前からアメリカの後押しによって、中国韓国に戦争を仕掛けている。

表向きは、戦争とは言わずに開発と言ってるが、明らかな戦争行為だった。

僕は、福島の原発事故の後にまたも起こった原発事故で、すっかり青空が見えなくなった空を見上げてため息をつきながら、煙草に火をつけた。

煙草の値段は、今や一箱五千円を超えて居たので大事に大事に吸った。

煙草は、僕の唯一の楽しみだった。

今では、日本人に反省など無いのだと思ったしまだ、初期の段階で阿部総理を止めていればこんな事にならなかったのにと思ったが、今頃そんな事を考えても無駄だなと苦笑いが出た。

とにかく、僕は目立たないように、出来たら後二十年は生きたかった。

それには、目立たないのが一番だと思っていた。

その時、森の中が騒然としたと思うと、あっという間に軍人に囲まれていた。

僕は、銃を向けられて手を上げた。

軍人は僕に、貴様自分自身に障害が有るのを隠していたなと言った。

僕は、とうとうバレたかと思った。

誰かが軍に密告したのだろうが、それを恨む気にはなれなかった。

皆、自分自身が大事だし、密告する事によって扱いも多少良くなるから僕も何度かやっていた。

皆の前でもなるべく隠していたが、数年前の軍の手伝いで土木作業をしていて、鉄筋コンクリートの下敷きになって、右足が数年前から上手く動かなくなっていた。

それでも重い障害では無かったから、何とか誤魔化して来た。

元々、身体は強い方では無いのも影響したのかも知れない。

五十歳で軽い障害があり、身体は強くないとなれば役に立たないと思われても仕方なかった。

僕が手を挙げてると、一人の上官らしい男が周りに深い穴を掘れと言った。

周りの軍人の一人が素早く穴を掘って、上官に確認を求めた。

僕が穴を掘るより余程早かった。

上官らしい男は、お前はまだ少しは若いからチャンスをやろうと、残酷な笑いを僕に見せた。

穴から出て来れたら今回の事は見逃してやると言いながら、僕の襟首を掴むと穴まで連れて行き放り込んだ。

穴は、あんなに短時間で掘ったとは思えない深さだった。

そこに土がどんどん入ってくる。

僕は、高い煙草がまだ残ってると思いながら気を失った。

死ぬ瞬間に煙草の事を考える等情けないなと、少しだけ思った。

ここから先は

3字

無名作家・高山のパトロンになる

¥1,000 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?