高山~死んだ友達とレイバンのサングラス
2018/05/29
今年で五十才になる。
彼も生きていたらそうなっただろう。
五月は、僕にとって昔はとても好きな季節だったが、鬱を患ってから新緑が眩し過ぎて、調子の良い季節では無くなっている。
彼が死んだのも、この季節だからかもしれないと無理にこじつけるが、梅雨の前に死んだと言うのだけ覚えてて、今では色々な事を忘れつつある。
忘れたいからかも知れない。
正確には、彼を忘れたいので無くて細部を忘れたいのだと思う。
今日は、仕事で彼と良く通った道を、部下でもある社員の女性と車で走っていた。
見覚えのある納屋のような古い建物を見つけて、彼女に車を停めてくれと頼んだ。
近くに自販機があったので缶コーヒーを適当に買って、納屋のような建物の前に立った。
彼が好きだった缶コーヒーの銘柄も忘れてたから、適当に甘すぎないのを買う。
納屋のような建物は、随分古くなって崩れかけていた。
小さな倉庫のような建物だ。
ここの前に車を停めて僕達は、相手を待ったのを今でも思い出す。
当時、確か僕達は三十代半ばで、この道を僕の車で走っていた。
久しぶりに、僕は地元に戻って居て、彼も忙しい中で会おうと言ってきた。
彼は、職業はヤクザで良い車に乗っていったが、僕が乗っていたミッションのライトバンを気に入ってそれで、この道を走って何かを買いに行っていた。
何を買いに行ってたのかは、忘れてしまった。
彼は、古いライトバンに乗りたかったと言うよりミッションの車を楽しみたかったようで、運転は彼がしていた。
その時、暴走族に少しずつ囲まれたのだ。
この辺りは、暴走族が時々出るので有名だったが、昼間に出るのは珍しかった。
囲んだ連中はどんどん増えて、十数台のバイクに囲まれた。
彼は、面白くなったと笑ったが、僕は面倒だなと思っていた。
彼とは、十六才からの付き合いで数々の修羅場を潜ったが、既にお互い三十代半ばで僕は面倒だった。
しかし、彼はそういう僕を笑って、最近は面白くも何ともないからこういうのがないと駄目だよと言った。
彼は、ライトバンに何かしら武器のようなのを積んでないかと言うが、何も積んでなかった。
僕に向かって、昔のように警棒とか木刀とか積んでないのかのと言ったが、警棒だけは確かあったはずだと思い出して後ろの席を探ると、ずっと使ってない警棒が見つかった。
彼は、お前は剣道が出来るからそれが有れば良いなと笑った。
まるで、高校の時に学校に遊びに来て、何階からなら飛び降りれるかとやった時のように無邪気な笑いだった。
彼は、高校に行ってないが、時々制服を借りて高校に遊びに来ていたのだ。
そこで、何故か気が合ったのだ。
三十代半ばにしては、昔のような無邪気さや本当の笑顔がほとんど見られなかったが、暴走族に囲まれた事によってそれが蘇っていた。
それでも、昔とは違うような気がした。
彼は良い高級時計をして金回りも良さそうだったが、僕から見ると何かしら陰鬱とする物を溜め込んでるように感じていた。
昔とは、やはり変わっていた。
それでも、一番の親友で有るのは変わって無かったから、付き合う事に僕は決めた。
親友や友達と言ってもなかなか、本当の意味での対等な関係は難しいと思う。
どちらかが、どちらかの上に立とうとするのが良くあったが彼と僕とは、珍しく対等だったと思う。
十代、二十代の頃は良く遊んだが、僕も仕事で居なかったり彼も二十代の後半辺りから仕事が忙しくなっていて、こうして遊ぶのは久しぶりだった。
彼は、納屋のような小屋の前に車を急停車させると、降りて納屋の中に入った。
急いで出てくると、こん棒のような物を僕に渡した。
多分、スコップの先の部分が取れた物だろうと思われた。
暴走族の連中が囲むように迫っていたが、彼はギアをバックに入れるとそのまま相手に突っ込んだ。
僕のライトバンはあちこちへこみがあったが、修理してるいる最中だった。
まあ、こうなったら諦めるしか無いなと開き直るしか無かった。
暴走族の連中は驚いたように逃げたが、突っ込みながらスピンさせて前向きに、今度は連中に突っ込んだ。
一台のバイクが軽く車に当たって大きく倒れ、運転していた若者が道路に投げ出された。
彼は、こん棒を持つと車を出てその一人を、こん棒で殴り付けてバイクを奪った。
僕も警棒を持って車を降りて、突っ込んできた一人を殴り付けた。
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